クァルテット・エクセルシオ第20回東京定期演奏会
昨日の日曜日は「晴れ」。(あとで説明します)
上野の東京文化会館小ホールですっかり定着したクァルテット・エクセルシオの第20回東京定期を聴いてきました。
初めてこの団体に接した当時と比べてエクのファンも大分増えてきましたね。
何故かエクの定期は自由席なので、良い席で聴こうと思えば早めに行って列に並ばなければいけません。「良い席」は人によって違うのですが、私の場合は演奏者の表情が見えるのが第一条件。おまけに極度の近視とあって、どうしても前の席で見たいのですよね。かと言って最前列は御免なので、適度に下がって四人の表情が見渡せる場所、ということになります。
昨日も、開場時間の午後1時半には前の方に並んでいられる時間を見計らって家を出ます。上野に着いた時には列はまだ一人。それなら多少の上野散歩の余裕もあろうと言うもの。久し振りに大仏と東照宮にお参りしてきました。紅葉がそろそろ始まろうかという季節、中々良いもんですよ、上野は。
文化会館に戻ると列は10人ほど。丁度良いタイミングなので列に加わります。
で、主催側にお願い。そろそろ自由席は止めて座席指定にしてくれませんかね。昨日のように長い列が出来てしまうと、コンサート前にエネルギーを使い果たしてしまうじゃありませんか。
ちょっと枕が長過ぎたかな。いや、いいでしょう。これは個人の日記ブログなんだから、書いている本人が判ればいいことです。
さて、昨日のプログラムは、
モーツァルト/弦楽四重奏曲第7番変ホ長調K.160
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第10番変ホ長調「ハープ」作品74
~休憩~
シューベルト/弦楽四重奏曲第14番ニ短調「死と乙女」D.810
クァルテット・エクセルシオ
第19回のレポートでも触れましたが、この会はエクにとって記念すべき第20回の定期。年2回の開催ですから東京定期開始10周年という節目になり、演奏終了後は文化会館2階の精養軒(フォレスティーユ)で記念のパーティーも開かれました。
今回のプログラムには「クァルテット・エクセルシオの年譜」や「定期の歩み」と題した演奏会記録集、当時のチラシの復刻写真なども掲載されていて、レアもの、永久保存版の構成になっていました。
加えてエクの第2弾となるCDも会場で発売、初回限定の特別価格ということもあって、開場しても忙しいこと。
序ですから個人的なエクとの歴史を思い出しちゃいましょうかね。
私もクラシック音楽を聴き始めて随分長くなります。従兄にレナート・ファザーノ指揮するヴィルトゥオージ・ディ・ローマのコンサート(確か大手町のホール)に連れて行って貰って以来ですから、半世紀にもなりますな。
その間、中世・ルネサンス音楽に夢中になったり、現代音楽オタクになったり。もちろんオーケストラは最初から現在までファンであり続けていますし、ピアノを聴いて引き籠りしたこともあり、熱烈ワグナリアンと化してオペラを聴き漁った時期もありましたよ。
やがて還暦も間近になり、何か満たされないものを感じていたのが、弦楽四重奏の世界だったのだと思われます。
もちろんクァルテットも有名団体のコンサートに行ったり、有名曲の演奏会にも出掛けましたが、それは全て単発の機会。そろそろ「弦楽四重奏」というジャンルを本格的に聴いてみたい、と考えていた時に出会ったのが、晴海に落成したばかりの第一生命ホールの「クァルテット・ウェンズディ」という企画でした。
気が付いた時には既に何回かが終わっていましたから、私が聴き始めたのは第1シーズンの途中からです。
エクに初遭遇したのは、その企画の一つ。古い記録を調べたら、2003年1月29日に行われた北欧のクァルテットの会でしたね。8年9か月ほど前のこと。
このときは第2ヴァイオリンが遠藤香奈子氏(現・東京都響第2ヴァイオリン首席)だったと思います。
第20回定期のプログラムに掲載された定期演奏会(東京・京都・札幌)記録集で笑えるのは、当日の天気が記録されていること。
エク通信の山田氏(第2ヴァイオリン)によれば、悪天候の思い出を持ったお客様が多いのだとか。“演奏よりもお天気の印象の方が強く残っている”ということになってしまうのがオチ。
閑話休題。
私のエクとの最初の出会いは、天気は記憶はありませんが、酷く寒い日だったことを覚えています。捨ててしまいましたが、北欧プロだけに、プログラムには「晴海を凍らせて見せる」というような意気込みが書かれていたような気がします。
天気は扨措き、この夜の寒さと、それを忘れさせてしまうほどのシベリウスの「熱い」演奏が記憶の片隅に残っています。
年譜によると、エク・プロジェクト(当時はエク・フレンズ)の発足は2004年、エク結成の10周年だったそうです。
記憶では、私共がここに加入したのは、2004年1月28日の晴海、アジアの弦楽四重奏曲をまとめて演奏した時だったと思います(このときは第2ヴァイオリンが現在の山田百子氏に替っていました)。会場ではなくメールで申し込んだかも。
思えばエク・プロジェクト発足直後だったようですが、同行した家内が演奏に感激、一緒に入ろうと促されたのが動機だったはずです。
ここまで書いたので最後まで続けちゃいましょう。
これまで書いたように、私とエクの出会いは晴海のラボ・シリーズ。現代ものを得意とする団体というイメージでしたから、ベートーヴェンを中心にする定期を聴いたのは少し後のことになります。
古い手帳や記録集から思い起こすに、初体験は第9回定期のこと。2005年6月22日(この日は曇り)で、手元に当日のプログラムが残っていました。
私はプログラムは捨ててしまうのが常で、残しておくのはよほど印象に残ったときか、プログラム自体に手元に残しておきたい魅力があるときだけ。残念ながらこのときの演奏についての記憶はほとんど残っていませんが、プログラムを捨てなかったのにはそれなりの理由があったからでしょう。
(この回は、ハイドンの作品33-1、シューマンの3番、ベートーヴェンの作品130。やはりベートーヴェンに感動したんでしょうね、今思うと)
この当時、年2回のプログラムは共通の冊子になっていて、第10回はカザルスホールが会場。私も行く予定にしていたのですが、急遽上野のパルジファルを聴くことになってしまってキャンセルせざるを得ませんでした。エクの皆さん、ごめんなさいね。
エクは、現在でも定期の前の試演会を続けています。エク・フレンズの特典みたいなものですが、先日も奥沢の大瀧サロンで20回定期のお試しを聴いてきました。
これもハッキリしない記憶ですが、私が初めて試演会に出掛けたのは、第12回定期(定期そのものは2006年11月11日、雨)の際だったと思います。勝島の知る人ぞ知るサロンで、ボーリングの騒音も聞こえる素晴らしい空間でした。
そのときのヤナーチェクの驚きと、今回も演奏されたハープを良く覚えています。
ということで、漸く第20回定期のレポートに辿り着きました。詳しく触れる能力はありませんが、
最初のモーツァルトは素晴らしかった。実は試演会では判らなかったのですが、エクは聴く度にモーツァルト言語が上手くなっていると感じます。
有名なあの曲ソックリに始まる第1楽章を例にとると、8小節目の第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが逆転する箇所(普通はファーストの方が高い音を出しますが、ここは逆)の意外感。
次に第2主題が出る直前のパウゼを、一呼吸、いや4分の1呼吸ほど長めにする。この呼吸こそモーツァルトなんであって、ここを譜面どおり唯の四分休符にしてはモーツァルトの「大人っぽさ」が出ないのです。いや、「色気」と言い直してもいいかな。
とにかくモーツァルトは6曲のミラノ四重奏曲集でいろんなことを試しています。この第7番なんて様々な形式の手本を改めて自分流に実験した結果で、第1楽章の提示部に繰り返しがないのもその一つでしょう。
この日の演奏は、そうしたモーツァルト言語確立の過程を会得した演奏、とまで極論しても良いのじゃなかろうかと感じさせるエクの感性でした。
ベートーヴェンのハープ。試演会も数に入れれば、今回は私にとって5回目となるエクのハープです。第1弾のCDも加えればもっとかな。当然と言えば当然ですが、毎回その印象は微妙に異なります。(今回はべーレンライター版というせいもあるでしょう)
私見では、「ハープ」四重奏の肝は第4楽章のヴァリエーションでしょう。ここは演奏する方もそうでしょうが、聴く方も難しい。私も漸くこの作品の全体像に近付きつつあるような気がして来ました。
正直に告白して、今回ほどこのヴァリエーションに納得したことはありませんね。
プログラムの曲目解説にあった“ピアノ協奏曲「皇帝」、ピアノソナタ「告別」、そしてこの弦楽四重奏曲「ハープ」と大小の傑作を立て続けに完成したのである。それらのどれもが変ホ長調に拠っているのは、何とも暗示的だ” という文章にはドキッとさせられました。
(モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトの特質を簡潔に表現した解説は素晴らしいものです)
終演後のパーティーで、第1ヴァイオリンの西野ゆか氏が、“何度演奏しても反省ばかりで、何時になったら納得の行く演奏ができるのか” と慨嘆していましたが、この演奏でこの発言。それだけベートーヴェンは奥が深いということでもあり、弦楽四重奏の魅力が如何に限り無いか、ということの証左でもありましょう。
メインの「死と乙女」。試演会では終了後に各自感想を言い合うのが習わしですが、私は“この曲が苦手でしたが、エクの「死と乙女」は抵抗なく聴くことができた” というような意見を吐きましたっけね。
苦手な箇所は第2楽章で、どうしてもここには青臭いセンチメンタリズムを感じてしまう。聴いていてテレてしまうのですな。
今回のエクの美点は、この有名作品を極めて音楽的に処理したこと。ここは変奏曲であって、弦楽四重奏曲を構成する一楽章という視点です。
この日発売されたCD収録曲とあって、長時間作品と向き合ってきた成果でしょう。特に終楽章のアンサンブルは単に“合っている”というレヴェルを超え、隅々まで掘り下げた合奏が水際立つほどの名演だったと思います。四つの楽器が恰も一つに聴こえてくる。
終わってみれば、前半の2曲は共に変ホ長調。ベートーヴェンとシューベルトには共に重要な変奏曲楽章があり、夫々が作曲家の個性を如実に映し出している。
中々に味わい深いプログラムではありませんか。
エクの今を記録した新盤、早速聴いてみましたが、録音水準も極めて高いもの。いずれ「今日の1枚」でも取り上げてみようかな。
終演後のパーティーも大賑わい。私共は途中で辞しましたが、楽しい情報も満載、まるごと上野の秋を堪能した一日でした。
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