第140回 クァルテット・ウィークエンド
3月は演奏会が立て込んでいて、中々レポートが追い付きません。更に第2週と第3週は東京を離れて聴くコンサートもあり、原則としている演奏会翌日の感想文アップが崩れてしまいました。
3月10日は早朝から名古屋に出張していたため、前日9日(土曜日)に聴いた演奏会を遅れ馳せながら紹介しておきましょう。晴海の第一生命ホールで行われたクァルテット・ウィークエンドの1回です。
クァルテット・エクセルシオ&クァルテット奥志賀
モーツァルト/弦楽四重奏曲第16番変ホ長調K428(奥志賀)
ヤナーチェク/弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」(エクセルシオ)
~休憩~
エネスコ/弦楽八重奏曲ハ長調作品7
トリトンの略称SQWが未だ「String Quartet Wednesday」だった頃はほぼ毎回熱心に通っていましたが、やがて「String Quartet Weekend」に代わって運営も一変。当方の足も次第に遠のいて、現在では年に1回、クァルテット・エクセルシオの演奏会に絞って聴いているのが現状です。
そのエク(クァルテット・エクセルシオの通称)もウェンズディ時代はラボ・シリーズと銘打った主に現代作品の紹介が中心でしたが、次第にその方針も転換され、四重奏にゲスト楽器を迎えるクァルテット・プラス、更には3回に亘って開催されたアラウンド・モーツァルトと続き、今年からは「もう一つの弦楽四重奏団」と競演する新シリーズがスタートするようです。その第一弾が、表記の「クァルテット・エクセルシオ&クァルテット奥志賀」。この企画、来年は「クァルテット・エクセルシオ×タレイア・クァルテット」と発表されています。当然ながら弦楽八重奏曲がメインとなると思われ、数少ないジャンル作品を考えれば、五指に入ってしまう回数で完走してしまうことは想像に難くありません。
そのエク、昨年秋から第2ヴァイオリン奏者・山田百子の休演が告知されていましたが、この日のプログラムには正式な告知文が挟まれており、山田百子退団が公式に発表されました。間髪を入れずに新メンバーとして北見春菜が迎えられることも同時に宣言されており、新生クァルテット・エクセルシオは今年6月の定期演奏会を目処に活動することになっています。
新セカンドの北見春菜は、エク・メンバーと同じ桐朋学園出身で、エクが講師を務めていたサントリーホール室内楽アカデミーの第1・2期生。言わばエクの弟子筋にも当たります。これまでクァルテットMIYABIの第2ヴァイオリンを務めていましたから、そちらとの引き継ぎや兼ね合いを考慮しての加入となると思われます。いずれにしても年齢的な若返りという意味もあり、エクとしての進化の過程として応援していきましょう。(この日も北見氏は聴衆の一人として聴いておられました)
一方、今回競演するクァルテット奥志賀は、2014年結成の新鋭グループ。小澤征爾国際アカデミー奥志賀で出会ったのが切っ掛けだそうで、団名は出会いの場に因んだもの。メンバーはヴァイオリンが小川響子と会田莉凡、ヴィオラが石田紗樹、チェロに黒川実咲の面々。ところで奥志賀もメンバーが交替したばかりのようで、以前のヴィオラは男性の七澤達哉が務めていましたが、新たに石田が加わって女性4人の団体となりました。
私が奥志賀を聴くのは初めてですが、この日は最初のモーツァルトでは小川がファースト、後半のエネスコでは会田がファーストを弾いていましたから、作品によってファーストとセカンドが入れ替わるシステムなのかもしれません。
ということで、図らずも新生エクと新生奥志賀の共演、今回エクのセカンドを任されたのは、都響の第2ヴァイオリン首席でクァルテットARCOのセカンドでもある双紙正哉。知る人は知る、ファーストとセカンドは夫婦競演という光景も見られましたとさ。
前半は二つのクァルテットが、夫々のクァルテットとして2曲を披露。奥志賀は瑞々しいモーツァルトで新鮮な歓びを、エクは男性セカンドを迎えてこれまでになかったような劇的で彫の深いヤナーチェクで聴き手を唸らせました。
クァルテットは、メンバーが一人代わっただけで印象も実際の響きもガラリと変わってしまう。改めて音楽は生き物、と感じたファンも多かったのではないでしょうか。新セカンドの北見ではまた違ったアンサンブルになるのでしょうね。
メインは何と言っても後半のエネスコ。そもそも弦楽八重奏、即ち二つの弦楽四重奏の合奏というジャンルは作品そのものが少なく、メンデスゾーンとゲーゼ、今回のエネスコが聴かれる程度。ミヨーにも二つの弦楽四重奏曲を同時に演奏して弦楽八重奏になるという珍品がありますが、断トツで有名なのがメンデルスゾーンという世界でしょう。
この日取り上げられたエネスコは、スコアの序文にエネスコ自身が書いているように、弦楽オーケストラとして演奏することも可能な作品。オケで演奏する場合は、要所要所で各パートがソロとして弾く方法となっており、何処をソロが弾くかは指揮者の判断で決定すべし、と記されています。
この日は第1ヴァイオリン/会田、第2ヴァイオリン/西野、第3ヴァイオリン/双紙、第4ヴァイオリン/小川、第1ヴィオラ/石田、第2ヴィオラ/吉田、第1チェロ/黒川、第2チェロ/大友という役割分担。
全4楽章(と言っても譜面に楽章の表記はありません)は通して演奏され、夫々が交響曲の第1楽章から第4楽章に相当する形で構成されています。しかも循環形式が採用され、全体が一つのシンフォニーのような大作。奥志賀とエクセルシオが繰り出す豪華な弦の饗宴と8人の白熱したアンサンブルに、会場からも大喝采が贈られました。
この場合のアンコール、もうメンデルスゾーンしかないでしょ。問題は有名なスケルツォをアンコールするかでしょうが、今回はソナタ形式の第1楽章が選ばれました。再度熱烈な歓声・拍手でコラボレーションは無事に終了。
演奏会後のサイン会というか交流会は、両クァルテットの応援団入り乱れての大混雑。ホール係員が“閉館で~す”と呼びかけてもなお、歓談の声がホワイエに満ちていました。
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