東京シティフィル・第243回定期演奏会

昨日は初台、東京オペラシティコンサートホールで東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の定期演奏会を聴いてきました。同団創立35周年を記念するベートーヴェン交響曲全曲シリーズの3回目です。

ベートーヴェン/「レオノーレ」序曲第3番
ベートーヴェン/交響曲第1番(マルケヴィッチ版による)
     ~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第3番(マルケヴィッチ版による)
 指揮/飯守泰次郎
 コンサートマスター/松野弘明

マルケヴィッチ版による全曲演奏が話題を集めているこのシリーズ、私は第1回を聴いてレポートもしていますが、7月の第2回(6番と8番)は残念ながら他の演奏会と重なってしまいパス、今回が2回目となります。

前回のレポート(6月1日)で版のこと、演奏のコンセプトなどついて詳しく触れました。
今回もプレトークは途中から参加しましたが、マエストロのベートーヴェンへの熱い思いはいつもと変わらず、司会者から「巻き」が出るほど予定時間をオーバーしていました。

このツィクルスは音楽各誌でも取り上げられているらしく、客席は満席に近いほど埋まっていました。批評家率も高かったようですし、えっ、あいつも来てる、と思うようなシティフィルには珍しい客層も見受けられたりして・・・。

プログラム誌に掲載された飯守マエストロの解説、今回はマルケヴィッチ版のスタッカートの扱いがテーマ。何でも4種類のスタッカートが使い分けられているようです。

もちろんマルケヴィッチはベートーヴェンのスコアを書き換えたわけではありませんから、聴いていて何処がマルケヴィッチなのかは判りません。
マエストロが解説で締め括っているように、この日も“マルケヴィッチの音楽的良心に深く打たれ、彼のように私もベートーヴェンに忠実でありたい” という思いを音に託した演奏だったと申せましょう。

ところで輸入楽譜を扱う本郷のアカデミア・ミュージックは、このシリーズを意識してかマルケヴィッチ版のスコアを大々的に宣伝しています。(最近は、これとマーラー版のシューマン交響曲全集が目玉みたい)
一般的なスコアに比べると高価なので一ファンとしては手が出し難い存在ですから、せめてこうした機会に会場で展示(即売も)してみてくれませんかね。乗せられて買う人もいないとは限りませんし・・・。

冒頭の序曲はマルケヴィッチとは関係なく、一般的なスコアによる演奏。舞台裏のトランペットは、2階バルコニーの裏手で吹かれました。
序奏の後、主題をややゆっくりと始め、クレッシェンドと共に徐々にスピードを増していく解釈は如何にも巨匠風のもので、今回の全曲シリーズに沿った演奏だったと言えましょう。(舞台右手奥に置かれたトロンボーンは、この曲のみ)

第1番では弦の編成を減らし、コントラバス(前回同様、舞台奥に一列に並ぶ)は5本。第1楽章の第1主題のアーティキュレーションが如何にもマルケヴィッチの提案によるもの、という印象を受けました。
この曲の繰り返しは、第2楽章提示部以外は全て実行。第3楽章では主部が再現する際に前半を繰り返す演奏も時折聴かれますが、この日は一度だけの演奏でした。

このように、繰返しをする、しない、という判断もマルケヴィッチの提案に従っているものと思慮します。

第3番。有名な第1楽章コーダでのトランペット・パートの改訂も、第2楽章のホルン斉奏も、往年の巨匠たちが行ってきた改訂を踏襲するもので、「ベートーヴェンが書いたものに忠実」であるより、「ベートーヴェンが聴きたかったものに忠実」であろうとするスタンスでしょう。
もちろん第1楽章の繰り返しは省略。

東京シティ・フィルは、東京のオケの中では最も「手作り感」を残したオケ。決してスーパー・アンサンブルではありませんが、飯守マエストロの指揮スタイルには最も相応しいアンサンブルかも知れません。
この日は特にオーボエ・ソロ(女性奏者、名前は判りません)の鄙びた音色が聴きものでしたね。

重厚なベートーヴェン像を再確認する演奏に、客席も大きな拍手と歓声で応えていました。
先日のマエストロの叙勲(旭日小綬章)に対してオーケストラからも花束が贈られ、拍手が一段と大きくなったところでシリーズ第3回が幕を降ろしました。

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