今日の1枚(124)

ウィレム・メンゲルベルク Willem Mengelberg 指揮コンセルトへボウ管弦楽団 Concertgebow Orchestra のSP録音を復活した「テレフンケン・レガシー」の3枚目に行きましょう。当シリーズに続編があったのか否か不明ですが、手元にあるものはこれが最後です。品番は 8573-83025-2 というもので、これまでの2枚から2年後、2001年にリリースされたCD。

①フランク/交響曲 ニ短調
②ドヴォルザーク/交響曲第9番「新世界より」

①は1940年11月12日、②が1941年4月1日の収録。これまでの2枚同様、録音場所とエンジニアは不明です。

WERMに掲載された記録では、①の初出はテレフンケンの SK 3145/9 で5枚10面。一方②は SK 3190/4 、こちらも5枚10面のSP盤。いずれもメンゲルベルクのスタジオ録音としては唯一のものでしょう。
なお、当盤にはマトリックス番号の記載はありません。
また②は、SP発売当時は「交響曲第5番」と表記されていたのは言うまでもありません。

オーケストレーションに詳しい方ならピンとくると思いますが、この2曲はいずれもイングリッシュ・ホルンが活躍する作品。偶然とは言え、洒落たカップリングだと思います。

当盤のブックレット解説は James H. North という人。この解説が中々面白いもので、興味深い読み物となっています。
それによると、この2曲はメンゲルベルクにとっては「同時代の音楽」。①は1888年の作品ですが、このときメンゲルベルクはケルン音楽院の学生でした。出版は8年後の1896年で、メンゲルベルクがコンセルトへボウで初めて指揮したのは、それから僅か6年後の1902年の由。この曲が未だ今日のような名声を確立する前のことだったのですね。

一方②も、メンゲルベルクとコンセルトへボウによる初演は1896年のこと。世界初演からたった3年後のことだったというから驚きです。
ノースも触れているように、メンゲルベルクは「同時代の音楽」のチャンピオンだったのですね。「現代音楽」と言い換えても良いでしょう。

ベートーヴェンで紹介した Zwart 氏の「メンゲルベルク伝」第1巻の巻末には彼のレパートリーが掲げられているのだそうですが、その作品は大小合わせて1200曲(第1巻をカバーしている1920年まで)。そのうち376曲が現代音楽に相当する勘定になり、如何にメンゲルベルクが新しい作品の紹介に熱心だったかが判ります。

因みに同コンビによる世界初演は17曲。一見すると少ないようですが、メンゲルベルクは世界初演作品については原則として作曲者自身の指揮に委ねていたから。
コンセルトへボウで初演されたものはほとんどが成功したのは、事前に何週間もリハーサルを重ね、パート毎の練習も熱心に行われていたからなんですね。作曲者自身がアムステルダムに来たときには、既に演奏は完璧な域にまで達していたとのこと。

若い指揮者諸君、メンゲルベルクを見習うべし。

ということで、このCDも単なる名曲・名演として聴いてはダメで、如何にこれらの作品がメンゲルベルクの努力によって今日に定着したのかを味わう一品。現在でも聴かれる細部のニュアンスの原点が、実はメンゲルベルクにあることに気が付かなければいかんぜよ!

①は速いテンポを主体としながらも、要所ではグッと速度を落として「濃い」表現になるのが如何にもメンゲルベルク風。
第1楽章では157小節と、再現部の同じ箇所(447小節)にティンパニを加えているのが現代の習慣には無いところ。

また、第3楽章の299小節の最後の拍にトランペットの加筆があるのは、現在でも数多くの演奏で踏襲されています。

残念ながら当盤の第3楽章、86小節から186小節までの間(1分34秒から3分51秒まで)、右チャンネルが消える不具合があります。もちろんモノラル録音ですが、片チャンネルが欠落するのは極めて聴き辛いものです。私が買った盤だけの不具合かも知れませんが・・・。

②もテンポの速さが目立ちます。特に第1楽章は快速で、これが演奏に推進力を与えていることは間違いありません。
第1楽章の繰り返しは実施しません。ティンパニの音がやや遠く聴こえますが、そもそもメンゲルベルクはティンパニを豪快に鳴らす指揮者ではありませんしね。

第2楽章が現代の一般的演奏とはやや違っていて、最後の弦楽器のソロだけによる合奏にあるフェルマータ(練習番号5の7~9小節)はほとんど無視。
更に面白いのが終わり方で、コントラバスの pp による二つの和音を、未だヴァイオリンの高音が鳴っている間に響かせてしまいます。

大昔、NHKが新世界のレコードを放送するときなど、最後のコントラバスが出る前に止めてしまう事故が時々ありましたが、メンゲルベルクのように演奏すればこんな間違いは生じませんな。

第3楽章の繰り返し、トリオの後半だけはカットしています。収録時間の都合かも知れません。

第4楽章のシンバルが独特な音。古い録音故でしょうか、金盥を叩くような音がするのが笑えました。

参照楽譜
①ペータース Nr.629
②オイレンブルク No.433

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