今日の1枚(126)

オランダQディスクのメンゲルベルク・ライヴ録音集、2枚目はバッハ、シューベルト、ブラームスを集めた1枚です。

①J.S.バッハ/結婚カンタータ「おお、やさしき日、待ち望みし時」BWN 202
②シューベルト/歌劇「ヴィラ=べルラのクラウディーネ」~アリエッタ D.239
③シューベルト/セレナード D.920
④シューベルト/ロザムンデ~ロマンス D.797
⑤ブラームス/交響曲第3番

ジャケットに掲載された録音日時は、

①1939年4月17日 スタジオ録音
②~④1940年12月19日
③1944年2月27日

①はスタジオ録音とありますが、例の演奏開始合図のカチ・カチもあり、演奏終了後の拍手も入っています。一方でこの作品はほとんど室内楽編成ですから、コンセルトへボウの大ホールには不向きでしょう。
解説には何も触れられていませんが、以上のことから想像するに、聴衆を入れて放送用にスタジオ録音されたものではないでしょうか。

メンゲルベルクのバッハと言えば、現在まで続いているアムステルダムの「マタイ受難曲」の伝統。これは小規模なカンタータとは言え、メンゲルベルク・スタイルのバッハ演奏です。

結婚カンタータは、ソプラノ独唱にオーボエ・ソロ、弦楽3部にコンティヌオという編成。しかも全楽器が参加するのは第1曲「アダージョ」と終曲(第9曲)の「ガヴォット」だけですから、特にメンゲルベルクの指揮の出番はありません。

ソプラノ・ソロは読み方が判らない人。トー・ファン・デア・スルイス To van der Sluys と表記しておきます。第5曲「アレグロ」に出てくるヴァイオリン・ソロの奏者名は表記がありません。
またコンティヌオの編成も不明ですが、チェンバロ(?)とチェロのみのようにも聴こえます。(あまりにも録音が貧弱で聴き取れません。)

第7曲「アリア」はソロにオーボエ、コンティヌオの編成によるダ・カーポ・アリアですが、主部反復時には器楽の前奏と後奏はカットされています。即ち、第23小節目にダ・カーポし、第77小節で終了。

②から④はシューベルト・コンサートの記録。この日のメインは第7交響曲「ザ・グレイト」だったそうです。
いずれもソプラノ・ソロの作品で、ソリストはべッティー・ファン・デン・ボッシュ=シュミット Betty van den Bosch-Schmidt と読むのでしょうか。また③は女声合唱を伴う作品で、アムステルダム・トーンクンスト女声合唱団 Ladies Amsterdam Toonkunstkoor という団体が歌っています。

このソプラノは現在ではほとんど忘れられた存在。1906年ロッテルダム生まれで、現役時代は名の知られた人だったそうです。ドイツでオペラ歌手、ヨーロッパ全土でコンサート歌手として活躍した記録がある由。

②はゲーテの台本による3幕のオペラですが、完成したのは第1幕のみ。第2・3幕は未完のまま初演された記録もあるようですね。
第1幕は序曲と8曲から成っていて、ここで歌われているのは第6番目のアリエッタ。ヴィラ=べルラ荘の主アロンゾの娘クラウディーネの短いアリアです。
編成はオーボエ2、ファゴット2に弦5部という小さなもので、全体でも43小節しかありません。演奏時間もたったの2分。

Liebe schwaermt auf allen Wegen という出だしの歌詞は、「恋はいたるところに」と訳されているようです。(あるいは「恋は盲目」?)

③は、シューベルトのオリジナル曲をライネッケがオーケストレーションした版。原曲はもちろんピアノ伴奏です。

実は、独唱と合唱のための「セレナード」 Staendchen は二つの版があって、一つはアルト・ソロと男声合唱、第2作がアルト・ソロと女声合唱です。当盤のジャケットには D.920 との表記がありますが、こちらは第1作の方。女声による第2作は D.921 が当てられています。

ライネッケがどちらの版に管弦楽伴奏を付けたのかは不明ですが、ここでは女声合唱とソプラノ・ソロで歌われています。スコアがないのでハッキリしませんが、基本的には弦を中心に低音管楽器が使われているようです。もしかすると冒頭はトロンボーンの和音かも。
中間あたりでリタルダンドをかけ、音楽を大きく膨らませているのが原曲との相違か。

④は有名なロザムンデの中の1曲。第3曲bの番号で、「満月は丘の上に輝き」 Der Vollmond strahlt auf Bergeschoehn という出だしで、歌詞が3番まであるロマンスです。
こちらの編成は、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン2、弦5部。

⑤は当盤の白眉であるばかりか、メンゲルベルクの演奏の中でも最も素晴らしいものの一つでしょう。ブラームスの交響曲では、第3番がメンゲルベルクの芸風には最も合っているように感じます。

第1楽章冒頭は収録の関係か、小さな音で始まります。例のカチ・カチも欠落。
提示部の繰り返しは省略。

第2楽章はメンゲルベルクの特徴が最もよく表れている事例。即ち、2つの主題は極めてゆったりと演奏されますが、それを繋ぐ経過部(練習記号B)は一気にスピード・アップするという解釈。

第3楽章中間部、85小節辺りでオーケストラに乱れが生ずるのも人間的で面白い録音でしょう。彼のコンセルトへボウも機械じゃあない。
それを取り返して余りあるのが、主部が再現する時のホルン・ソロ。最初の音を思い切り引っ張って感情を貯め込む技は、現代では聴かれなくなった名人芸。メンゲルベルクの真骨頂です。

第4楽章では第2主題の歌わせ方が独特。ちょっと弾むような表情が耳を惹きます。
メンゲルベルクとしては珍しくティンパニの加筆を避けているのも好ましい所。フルトヴェングラーはここで盛んにティンパニを轟かせて熱気を煽っていましたが、第3交響曲ではメンゲルベルクの方が成功していると思いました。

参照楽譜
①ドーヴァー(バッハ協会の復刻版)
②カーマス No.1055(オペラ全曲のポケット・スコア)
③カーマス No.1066(ピアノ伴奏の原典版)(ライネッケ版スコアは無し)
④ブルード・ブラザース(全曲版)
⑤ユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.132

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