今日の1枚(7)

昨日までは読売日響の聴きどころ予習用に聴いたディスクでした。これからも近づいたコンサートに因んだディスクを聴くことになるでしょう。
その合間はどうするか。私は新録音というものにあまり手が出ないので、古いもの、特に往年の巨匠たちのモノラル録音に手が伸びることが多いようです。残された時間はこうしたものに区切りを付けたいと考えている所。
でも毎日一人の人物に拘ると飽きてしまいますから、花鳥風月に合わせて4日間程度で視点を変えようと思っています。
往年の巨匠ということで、先ずはフルトヴェングラーから行きましょうか。我々の世代はどうしてもこの人を避けて通るわけには行きません。今日の1枚は、東芝EMIの「永遠のフルトヴェングラー大全集」の1枚から、TOCE-3704 です。
①グルック/歌劇「オーリードのイフィジェニー」序曲
②グルック/歌劇「アルチェステ」序曲
③ハイドン/交響曲第94番
④ケルビーニ/歌劇「アナクレオン」序曲
いずれもフルトヴェングラー指揮するウィーン・フィルの演奏。
録音年月日は①と②が1954年3月8日、③が1951年1月11・12・17日、④は1951年1月11日、③と同じセッションでの録音です。録音場所は全てウィーンのムジークフェライン・ザール。
プロデューサーは①と②が Lawrence Collingwood ③と④は Walter Legge 、エンジニアは①と②が Francis Dillnut 、③④が Robert Beckett となっています。
つまり2種類のセッションが収録されているのですが、録音年代が遅いグルックの2曲が圧倒的に優秀録音です。もちろんモノラルですが、当時としては最高級のハイ・ファイ録音と言ってよいでしょう。
①はワーグナー編曲版を使用。39小節と130小節に出てくるコントラバスの生々しい音質など思わずニンマリしてしまいます。
フルトヴェングラーがここを強調して、“コントラベッセ!”と叫んだかも。
②はオイレンブルクのポケット・スコアとは終結が異なっています。オイレンブルクのはレントが6小節あってお終いですが、フルトヴェングラーはずっと長く、より美しい終結で演奏しています。どういう版を使っているのか興味が沸くところですが、ブックレットには何の解説も書かれていません。
③は所謂「吃驚交響曲」。現在はロビンス・ランドンの校訂で演奏されるのが当たり前でしょうが、フルトヴェングラー時代は古い慣用版での演奏。
違いは何処で判るかというと、第2楽章。第1変奏を彩る第1ヴァイオリンの旋律に若干の違いがあるのと、第3変奏のオーボエ。ランドン校訂ではドドドド・ミミミミ・ソソソソ・ミーーーーとなりますが、慣用版ではドドドド・ミミミミ・ソソソソ・ミミミミと全て同じパターン。
この二つの箇所でフルトヴェングラーはいずれも古い譜面を使用しています。当時ランドン版など存在しなかったのですから、当然です。
しかし第4楽章の慣用版にある233小節のティンパニのクレッシェンド。ここはフルトヴェングラーは採用していませんので(ppのまま)、あるいは別の写本を使用しているのかもしれません。これについてもライナーノーツに言及はありません。
録音は①②より3年前ながら聴き易く、優れもの。
③の第1楽章の繰り返しは省略、第2楽章の第1変奏・第2変奏の繰り返しと第3楽章の繰り返しは全て実行しています。
④は③と同じ時のセッションとは思えないほど音が悪い。レンジが狭いし、後半はノイズも出てきます。最後などは音が割れてしまい、鑑賞に差し支えるほど。本当に同じ日に録音されたのでしょうか。
④は現在ではほとんど演奏会で取り上げられません。改めて聴いてみると、ピッコロの使用、弦楽器の刻みを効かせたクレッシェンド、終わりそうで終わらないシツコイくらいのコーダ。どれもベートーヴェンに大きく影響したのは明らかです。
これをコンサートホールから排除してしまった現代の演奏慣習は犯罪でしょう。
参照楽譜
①オイレンブルク No.676
②オイレンブルク No.1102
③ユニヴァーサル(フィルハーモニア)No.26 (何と交響曲第6番(94)と表記のある戦前のスコア)
④オイレンブルク No.642

 

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