今年の第9・第一弾

日本の年末・クラシック音楽界は第9一色になります。私はこれが嫌で、ある時期までは意識して第9演奏会は避けてきました。若い頃に聴いた第9のナマ演奏で記憶に残っているのは、カイルベルト/N響とヨッフム/ベルリン・ドイツ・オペラ管くらいのもの。しかもヨッフムのは9月だったと記憶しますから、年末第9はカイルベルトだけでしたね。

それがここ10年ほどは、毎年何処かの第9を聴いています。宗旨変えしたわけじゃありませんが、やはり歳のせいですかね。
今年は制限しようと思っていましたが、結局は3回行くことになりました。夫々聴き所はあるのですが、偶然にも3種類の版による第9ということになるようで・・・。

昨日聴いた私的第一弾は、サントリーホールで行われた以下のもの。

≪日本フィルハーモニー交響楽団 第9交響曲・特別演奏会2010≫
ベートーヴェン/「エグモント」序曲
     ~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第9番
 指揮/ピエタリ・インキネン
 ソプラノ/日比野幸
 アルト/金子美香
 テノール/錦織健
 バス/宮本益光
 合唱/東京音楽大学
 コンサートマスター/扇谷泰朋

家人との都合で、行きはJRと東京メトロを乗り継いで溜池山王で下車、サントリーホールへ向かいます。昔はずっとこのコースでしたが、最近は電車に乗ることが珍しくなってしまいました。久し振りの行程が何となく新鮮。

ホール前は学生やら団体と思しき人達で混雑しています。さすがに第9となるとクラシック初体験組が増えますね。
実に簡素なプログラムを開いて納得しましたが、今回は日本オーケストラ連盟が「青少年育成基金」を通じて青少年を招待している由。私がゲットした席の周りにも多くの若者が陣取っていました。

日本フィルの第9を選んだのは、もちろん指揮者インキネンに期待してのこと。この若手がどんなベートーヴェンを披露してくれるか、これがポイントです。

言葉は不適切ですが、第9の前座に何を演奏するかも聴き所の一つ。この日は最もオーソドックスなベートーヴェンの序曲でした。

冒頭、オッと思わず声を挙げそうになったのは、ズシリと入る低弦の響き。日本フィルからこのような重々しい響きを聴くのは珍しいと思います。

メインの第9。
合唱団はP席ではなく、舞台奥、オーケストラの後ろに並びます。ソリストは第2楽章の後で入場。ここで客席から自然に拍手が起きます。ソリストの位置は、合唱団の前。

インキネンは、第3楽章と第4楽章の間は開けるスタイル。使用する楽譜は昔ながらのブライトコプフ版でした。指揮台に置かれたスコアはカーマス版と見受けられます。
第3楽章のホルン・ソロも主席(4番でなく1番)の福川が担当、真に現実的な対処です。

演奏は真にオーソドックス。最近では様々な新機軸を披露する演奏が幅を利かせているようですが、インキネンは実にストレートな表現で真っ向勝負という感じ。特に終楽章はテンポが速く、コーダも一気呵成。スカッとした爽快感が魅力です。それでいてテンポが落ちるべき箇所ではシッカリ落とす。

それでは素気ない表現か、大雑把な捉え方かというと、それは違うようです。

如何にも細部には拘泥しないような推進力ですが、良く聴けばソリストと合唱、合唱とオーケストラ、オーケストラとソリストとのアンサンブルが実に細かい点にまで磨かれている。
実は細部に拘っているのですが、それをそうとは感じさせない所が、この若手指揮者の優れている資質でしょう。先日の定期でのマーラーと同じ直截な音楽スタイルに将来性を感じました。

昔からの演奏譜を用い、奇を衒うような表現はせず、サプライズを仕掛けることもなく、直球勝負でストレートに演奏すれば、なお第9は新鮮な感動を呼び起こすことが可能であることを証明してくれました。

ソリスト(特に女性陣)と合唱団も若手を中心した溌剌たるメンバー。惜しむらくは、バスがやや時代がかっていて、この演奏にはやや違和感が感じられたこと、か。

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