今日の1枚(151)

「トスカニーニ・ベスト・セレクション」に収録されているベートーヴェンの交響曲全集、このあと第5・6集が第5交響曲から第8交響曲までに当てられていますが、私が気が付いた時には既に完売。残念ながら手元にはありません。仕方なくゲットしたのが外盤で、それがシリーズ147と148で紹介した2枚組です。

今回は第7集、交響曲全集の最後となる第9交響曲に飛びましょう。
1952年3月31日と、翌4月1日にカーネギーホールで行われたセッション録音です。

品番は BVCC-9917 。トスカニーニ指揮NBC交響楽団に、ソプラノがアイリーン・ファーレル Eileen Farrell 、メゾ・ソプラノはナン・メリマン Nan Merriman 、テノールがジャン・ピアース Jean Peerce 、バスはノーマン・スコット Norman Scott という歌手陣。合唱はロバート・ショウ合唱団 Robert Shaw Chorale (合唱指揮はロバート・ショウ)という1枚です。

LP初出はシリーズ149にも書いたように、第1交響曲とのカップリングで、 FALP 191 としてHMVから2枚組で出たもの。日本では最初にSPで発売され(1953年)、翌年改めてLPで再発されたという記録が残っています。

例によって日本盤のブックレットには最低限の情報しか記載がありませんが、歌手についても一切のデータが記されていません。
他の資料などで補うと、

アイリーン・ファーレルは1920年生まれのアメリカのソプラノ。この録音の時は32歳で、前年にニューヨークで「ヴォツェック」のマリーを歌って注目されていた存在でした。

ナン・メリマンも同じく1920年生まれ。ロッテ・レーマンに学んだ人で、デビューはシンシナティ。トスカニーニに認められて数多くの共演を残した名花です。

ジャン・ピアースは解説の必要もないでしょう。1903年生まれのヴェテランで、音楽はダンスバンドでヴァイオリンを弾くことから始めたという変わり種。バンドでも時々歌っていたのが認められたのだとか。
メットでも活躍したテノールで、トスカニーニの録音には欠かせない存在でした。

バスのノーマン・スコットは、この中では最も若い1921年生まれ。この録音が行われる前年にメット・デビューを果たした人で、役者としての才能もあり、特にコミカルな役で定評を得ていました。

さて当盤はトスカニーニの第9として定評ある名盤ですが、私はあまり好きになれない録音です。好みを押しつける積りはありませんが、何となく忙しなく、果してトスカニーニがこの大作に自信を持っていたのか疑問に感じてしまいます。

特に第1楽章はトスカニーニの意図が空回りしているような印象。ティンパニの加筆がかなり多岐に亘っていて、その改編はメンゲルベルク以上です。
一々列記するのも面倒ですが、気が付いた場所を記しておくと、
第24小節、53~54小節にかけてのリズム音型、57小節、70~73小節の sf 、第103小節と107小節のリズム楽句(これはメンゲルベルクと同じ)、134と136の夫々2拍目。以上が提示部だけで、展開部では第187小節。再現部の374小節は提示部と整合させたもの。

第2楽章で珍しいのは、繰返しを全て実行していること。特にスケルツォ後半の繰り返しも行っているのは、当時としては珍しい事例と思われます。
その他ホルンを木管に重ねる処理や、第1ヴァイオリンをオクターヴ上げて弾かせるなど、慣習的に行われている変更も実施しています。

第3・第4楽章にはこれと言った変更はないようですが、もちろん第4楽章冒頭でトランペットに木管のメロディー・ラインをダブらせる処理は慣例に同じです。

参照楽譜
ユニヴァーサル(フィルハーモニア) No.30

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください