今日の1枚(153)

日本ビクターが開発したK2レーザーカッティングによってリリースされたBMGジャパンの「トスカニーニ・ベスト・セレクション」第9集は、一連のベートーヴェン作品の最後を飾る大作、ミサ・ソレムニスです。
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮NBC交響楽団、ソリストはソプラノがロイス・マーシャル Lois Marshall 、メゾ・ソプラノにナン・メリマン Nan Merriman 、テノールがユージン・コンリー Eugene Conley 、バスはジェローム・ハインズ Jerome Hines という顔ぶれ、合唱はいつものようにロバート・ショウ合唱団(合唱指揮/ロバート・ショウ Robert Shaw)が受け持っています。
品番は BVCC-9919 、オリジナルLPジャケット使用がオールド・ファンには懐かしい1枚ですが、私はこのデザインは初めて見るもの。
1953年3月30・31日、4月2日の計三日間をかけてカーネギー・ホールでセッション録音されたアルバムで、オリジナルLPは、HMVの ALP 1182/3 の2枚4面で出ていました。
LPは4面を使った贅沢な作りでしたが、CDは1枚に全曲が収録されています。演奏時間は75分弱、この曲では最も速い部類に属するでしょう(近頃流行りのオリジナル楽器による演奏にはもっと速いものもあるようです)。
この日本盤ブックレットは、例によって解説が貧弱。ソリストのプロフィールも一切ありません。別資料で調べた結果は、
ソプラノのマーシャルは、1924年にトロントで産まれ、1997年にやはりトロントで没したカナダのソプラノ。と言ってもキャリアの後半はメゾ・ソプラノに転向した人で、当録音当時(29才)はソプラノでした。
デビューがバッハのマタイ受難曲で、オペラ・デビューは「魔笛」の夜の女王というレパートリーの幅の広い歌手。この録音の前年にはニューヨークでリサイタルも行っていました。
メゾ・ソプラノのメリマンについてはヴェルディのレクイエムで紹介済み。
テノールのコンリーはあまり知られていませんが、1908年にマサチューセッツ州に生まれ、1981年にテキサス州で没した人。メットのデビューは比較的遅く1950年のこと。その後はメットの常連となり、特にファウスト(グノー)を得意としたリリック・テノールです。ミサの録音は、メットに度々登場するようになった旬の時期でもあったのでしょう。
バスのハインズは、1921年にロサンジェルスで産まれ、2003年にニューヨークで没したアメリカのバスで、作曲もする才人だった由。
カルーソー賞を受賞し、メット・デビューは1946年。バイロイトでも歌っていた実力派です。
大規模な合唱作品ながら、ステレオ前夜とも言える1953年の収録だけに優秀。控えめながらオルガンの低音も、冒頭のキリエから明瞭に聴き取れます。
トスカニーニの熱のこもった指揮も圧倒的。特にクレード後半の熱狂的な演奏は思わず手に汗を握ってしまうほど。
このクレード第三部(全体を三部構成と考えて)に入って直ぐに登場するファゴットの掛け合い(268~277小節辺り)にホルンを重ねているのが聴き取れます。
当盤のインデックスが各楽章の頭にしか振られていないのは、如何にも不親切。こうした複雑な構成を持った作品には、より細かいインデックスを付けて欲しいもの。
参照楽譜
オイレンブルク No.951

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