今日の1枚(156)
前回のシューベルトに続き、今回はメンデルスゾーンです。「トスカニーニ・ベスト・セレクション」、第12集は BVCC-9922 。
①メンデルスゾーン/交響曲第4番イ長調「イタリア」
②メンデルスゾーン/交響曲第5番ニ短調「宗教改革」
③メンデルスゾーン/八重奏曲 変ホ長調~スケルツォ
録音データは、
①1954年2月28日の放送録音 及び同26・27日のリハーサル日 カーネギーホール
②1953年12月13日の放送録音 カーネギーホール
③1945年6月1日 NBCスタジオ8H
イタリアと宗教改革を組み合わせた録音は、LP初出した時から名盤として誉れ高いものでした。またイタリアの地図をデザインしたオリジナル・ジャケットも有名で、当盤ではそれも懐かしく復刻されています。
①と②はトスカニーニ最晩年の録音で、HMVのLP盤、ALP 1267 がオリジナル。
①は聴衆を入れた放送録音に、前日と前々日に行われたリハーサルを加えて編集しているようですが、編集の痕などは全く認められません。一貫した流れの素晴らしい、推進力に満ちた演奏で、今なお同曲のベストでしょう。録音も優秀。
唯一残念な点があるとすれば、第1楽章の繰り返しを省略していること。この繰り返しは、いわゆる1番カッコの長い経過句に魅力があるので、私は省略は欠点だと思っています。
第3楽章の繰り返しは実行。
第4楽章では、214小節、216小節、218小節、220小節のティンパニー(ff)を単なるトレモロとせず、低弦のサルタレルロのリズムに合わせて叩かせているのが秀逸。メンデルスゾーンのオリジナルより遥かに効果的なのは流石にトスカニーニと言えましょう。
②も①同様に公開演奏の放送録音。演奏・録音とも現代でも立派に現役として楽しめる内容。ここでもトスカニーニは何か所かスコアに手を入れています。
第1楽章では展開部の中ほど、305・307・309小節の木管にホルンを加筆。また最後(521小節)のティンパニのリズムを金管楽器に整合させています。
第2楽章の繰り返しは全て実行。最終小節の1小節前のクラリネットをトリルで吹かせるのは、他の指揮者も追随している変更でしょう。
第4楽章には加筆が多く、17小節のトランペットをフルートに合わせて付点音符に変更し、
序奏の最後、61~62ではフルートをオクターヴ上げて吹かせ、
98小節と99小節の弦だけのパッセージにホルンを加え、
117小節にティンパニを追加し、
209小節のホルンをファゴットと同じ音型で鳴らし、
244から245にティンパニのクレッシェンドを加え、
302~305までトランペットを継続して吹かせ、
最後のティンパニのリズムを金管に合致させるという具合です。いや、他にもあるかもしれませんね。
特にこの第4楽章は、遅めのテンポによる堂々たる歩みが作品のスケールをより大きく表現していると思います。
当盤の注目は、③が収録されていること。メンデルスゾーンが青年時代に書いた八重奏曲のスケルツォ楽章を自ら管弦楽用にオーケストレーションしたバージョン。ロンドンで自身の第1交響曲を取り上げた際に、オリジナルのスケルツォに変えて演奏したものです。
トスカニーニの録音は、当初同じメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」のスケルツォと組んで出されたSP盤にカップリングされていたもの(HMVの DB 21105)。SP録音ながら、交響曲と比べても聴き劣りしない音質です。
この曲には前半に繰り返しがありますが、トスカニーニは実行しています。
それより面白いのは、37~42小節の木管楽器だけ(チェロの支えもありますが)のパッセージに弦楽器の対旋律を加筆していること。実はこのパッセージ、オリジナルの八重奏曲ではヴィオラが弾くパートで、管弦楽化にあたってメンデルスゾーンがカットしたものをトスカニーニが復活させたものなんですねぇ~。
ここではヴァイオリンに担当させているように聴こえます。
即ちトスカニーニの改定は根拠があることで、以前に紹介したケルビーニの交響曲と同じ質のものと思われます。
恐らくマエストロ自身も若いころにはこの作品を自身でも演奏し、譜面は完璧に頭に入っていたものと想像します。これだけを取り上げても、トスカニーニのスコアの読みの深さに思いを至すべきでしょう。
他に、メンデルスゾーンが其々ソロに弾かせているパッセージ(チェロ→ヴィオラ→ヴァイオリン)を、パート全員に担当させているのが聴き取れます。(後半の同じ個所も同様)
トスカニーニの偉大さを知る名ディスク。
参照楽譜
①オイレンブルク No.420
②オイレンブルク No.554
③ヘフリッヒ No.261(管弦楽版) 及びリー LPS 148(八重奏版)
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