今日の1枚(172)

BMGジャパンが日本独自で開発したK2レーザーカッティング技術を駆使してRCA原盤をリマスタリングした「トスカニーニ・ベスト・セレクション」、愈々最終号にまで辿り着きました。
第30集は、プッチーニの歌劇「ラ・ボーエーム」全曲、BVCC-9941-42 の二枚組です。配役は以下のもの。

ミミ/リチア・アルバネーゼ Licia Albanese (ソプラノ)
ムゼッタ/アン・マックナイト Anne McKnight (ソプラノ)
ロドルフォ/ジャン・ピアース Jan Peerce (テノール)
マルチェルロ/フランチェスコ・ヴァレンティーノ Francesco Valentino (バリトン)
ショナール/ジョージ・チェハノフスキー George Cehanovsky (バリトン)
コリーネ/ニコラ・モスコーナ Nicola Moscona (バス)
ベノア、アルチンドロ/サルヴァトーレ・バッカローニ Salvatore Baccaloni (バス)
ピーター・ウイロウスキー Pter Wihousky 指揮/合唱団、エドゥアルド・ペトリ指揮/少年合唱団

前回の椿姫同様、端役については名前のクレジットがありません。即ち第2幕に登場するパルピニョールと第3幕の税関吏で、これらは無名氏が歌っていることはもちろんです。

合唱については当盤の表記をそのまま用いました。このあと録音された椿姫ではNBC合唱団となっていましたが、ここではその名称は使われていません(WERMではNBC合唱団と明記)。恐らくトスカニーニ最初のオペラ全曲録音だったからでしょう。
ということで録音データは、1946年2月3日と10日の二日間。次作となった椿姫に先立つこと10か月の録音ですね。これまたNBC放送録音で、NBC8Hスタジオに聴衆を入れての演奏。アリアの後の拍手などは厳禁されていたものと想像します。

初出は当然ながらSPかと思いきや最初からLPだったようで、ヴィクターの LM 6006 というセット。2枚4面に収録されています。LPでは各面に各幕が収められていたと思われますが、当CDは1枚目に第1・2幕、2枚目に第3・4幕というスッキリした収納です。
例によって対訳歌詞はありませんが、解説にはトスカニーニが初演したこと、マエストロの唸り声が入っていること、トスカニーニのイタリア・オペラ初録音であることが紹介されています。

トスカニーニの唸り声は凄まじく、ロドルフォのアリアにしてもミミのアリアにしてもトスカニーニとの二重唱になっているのが誰にでも聴き取れるでしょう。オーケストラだけの個所でも歌声が聴かれるのは、もちろんトスカニーニの声。

アルバネーゼとピアースについては過去記事を参照してください。
他の歌手で資料が残っているのは、ベノアとアルチンドロの二役を受け持っているバッカローニだけでした。1900年にローマで生まれたイタリアのバス歌手で、若い頃はボーイ・ソプラノとしても活躍。デビューは1922年のバルトロ(セヴィリアの理髪師)だったそうです。
1926年にトスカニーニによりスカラ座と契約、特にブッフォの役柄で定評がありました。メットは1942年から1962年まで歌い、当時最高のブッフォ歌手として世界中で引っ張り凧だった人の貴重な音源です。

録音の古さは感じられますが、初演者による演奏ということでドキュメントとしても価値があるもの。テンポの速さと直裁な表現は如何にもトスカニーニと言えましょう。
先日放映されたドキュメントではトスカニーニはプッチーニをあまり評価していなかったそうですが、ボエームだけは認めていた(特に第3幕)由。
演奏会形式ながら、ベノアやミミの戸をノックする音、第3幕でムゼッタとマルチェルロの痴話喧嘩で聞かれる食器の壊れる音、第4幕の剣劇の効果音などがリアルに録られています。どんな仕掛けだったのか想像するのも楽しみの一つ。

なお、この演奏にはカットやスコアの変更などは見当たりませんでした。

参照楽譜
リコルディ PR.110

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