クラシック戦線異状あり

昨日の土曜日、アメリカでは五つの競馬場で何と11ものG戦が行われました。このコーナーを始めてから最も忙しい一日です。
しかも今年のクラシックを占う最も重要なステップ・レースであるウッド・メモリアルとサンタ・アニタ・ダービーが行われるとあって、レース数だけでなく質的にも大注目の土曜日。多少長くなりますが、暫くお付き合いのほどを・・・。

先ず東海岸のアケダクト競馬場から行きましょうか。ここは4鞍、しかもGⅠレースは2鞍という豪華版です。
最初のカムリー・ステークス Comely S (GⅢ、3歳牝、8ハロン)。1945年に創設された当時はジャマイカ競馬場で行われていましたが、様々に条件が変更され、現在ではニューヨーク牝馬三冠やケンタッキー・オークスへのトライアルと位置付けられている一戦です。レース名のカムリーは、20世紀初頭のアメリカの名牝。
今年の勝馬はホット・サマー Hot Summer 。7頭立て。2月のダヴォナ・デール・ステークスでアール・ヒート・ライトニング R Heat Lightning (ケンタッキーオークスの本命馬)の5着以来のレースでしたが、ハー・スマイル Her Smile に2馬身4分の1差を付けてステークス初勝利を飾りました。1番枠から出て終始内を回り、直線では最内をこじ開けるように抜け出して勝負強いところを見せました。
調教師はデヴィッド・フォウクス、騎手はルイス・サエズ。

続いてベイ・ショア・ステークス Bay Shore S (GⅢ、3歳、7ハロン)。ニューヨークのリゾート・タウンであるベイ・ショアから採られたレース名。クラシック世代でもスプリンターの逸材を探す一戦で、創設は1960年。
今年の勝馬はジェイ・ジェイズ・ラッキー・トレイン J J’s Lucky Train 。7頭立て。後方から進み、直線で馬場の中央を通って猛烈に追い上げ、ヴェンジフル・ワイルドキャット Vengeful Wildcat を首差捉えての優勝。ステークスは2連勝、G戦は初勝利です。
調教師はウイリアム・アンダーソン、騎手はホセ・フェレル。

愈々ニューヨークのGⅠ第一弾で、カーター・ハンデキャップ Carter H (GⅠ、3歳上、7ハロン)。1895年創設の歴史ある一戦で、ニューヨークの船舶王ウイリアム・カーターの名を冠した短距離戦。1944にはアメリカ競馬史上唯一の記録である3頭の1着同着となったことでも有名です。
今年の勝馬はモーニング・ライン Morning Line 。8頭立て。本命アプライオリティー Apriority を1馬身半破っての優勝、Gは2勝目、GⅠは初制覇です。去年のブリーダーズカップ・ダート・マイルは首差で、今年2月のドン・ハンデも2着と惜しいところでGⅠタイトルを逃がしてきただけに、陣営にとってこの勝利は嬉しいでしょう。
調教師はニコラス・ジート、騎手はジョン・ヴェラスケス。

最後は本日のメイン・イヴェント、ウッド・メモリアル・ステークス Wood Memorial S (GⅠ、3歳、9ハロン)。ニューヨーク州で行われる最も重要なクラシック・トライアル。過去にも多くの名馬がここをステップに三冠レースを制覇してきました。創設は1925年。レース名は、熱心な競馬ファンだった政治家で、ジャマイカ競馬場を拓いたユージン・ウッドを記念したもの。
今年の勝馬はトビーズ・コーナー Toby’s Corner 。9頭立て。ここまでケンタッキー・ダービー本命と目されていたアンクル・モー Uncle Mo が登場し圧倒的1番人気(1対10)に支持されていましたが、勝馬から首、1馬身4分の1差の3着敗退。クラシック戦線は俄然混迷の様相を呈してきました。場内アナウンスは、“セクレタリアト Secretariat 以来最大のショックぅ~~~” と叫んだほど。
すんなりハナに立って快調に飛ばしていたアンクル・モー、直線で他馬を引き離す青写真でしたが、鞍上が押しても叩いてもいつもの伸びが全く無く、後続の2頭にアッサリ交わされてしまいました。直線入り口では6番手だったトビーズ・コーナーが、先にアンクル・モーを交わしたアーサーズ・テール Arthur’s Tale を首差捉えたところがゴール。
勝ったトビーズ・コーナーは、2月にアケダクトのファーラウェイ・ステークスに勝ち、3月のガッサム・ステークスは3着だった馬。今回は初めて遮眼帯を装着してのレースでした。ところで同馬の父ベラミー・ロード Bellamy Road は2005年のウッド・メモリアルをレコードの17馬身半という大差で圧勝した馬です。
調教師はグレアム・モーション、騎手はエディー・カストロ。

次にシカゴ近郊のホーソン競馬場に向かいましょう。
イリノイ・ダービー Illinois Derby (GⅢ、3歳、9ハロン)。文字通り、イリノイ州を代表するクラシックへの最大の登竜門。歴史も古く、1923年創設。残念ながら近年は低調で、去年からGⅢに格下げ(それまではGⅡ)されてしまいました。
今年の勝馬はジョー・ヴァン Joe Vann 。12頭立て。これがステークスのデビュー戦でしたが、2着に4馬身4分の1差を付ける圧勝でした。残念ながら同馬には三冠レースへの登録がありません。
調教師はトッド・プレッチャー、このレースの5分後、師の調教するアンクル・モーが信じられない敗北を喫してしまうのですね。騎手はフロラン・ジェルー。

さて、昨日このコーナーに初登場した美しいケンタッキーの競馬場、キーンランド競馬場にやってきました。
アシュランド・ステークス Ashland S (GⅠ、3歳牝、8.5ハロン)。昨日紹介したキーンランド州を代表する牝馬クラシックへ向けた最も重要なトライアル。牡馬のブルー・グラス・ステークスに相当する一戦です。レース名は、ケンタッキー出身の有力政治家の邸宅と牧場があった「アシュランド」に因むもの。
今年の勝馬はライラックス・アンド・レース Lilacs and Lace 。9頭立て。48対1という大穴です。2着は1馬身差でワイオミア Wyomia 、1番人気のカスマンブルー Kathmanblu は3着でした。スタート良く飛び出し、そのままの逃げ切り勝ちです。
調教師はジョン・テラノヴァ、騎手はジャヴィエ・カステラノ。

キーンランドから南西に向い、アーカンソー州のオークローン・パーク競馬場を訪ねます。
オークローン・ハンデキャップ Oaklawn H (GⅡ、4歳上、9ハロン)。アーカンソー州を代表するオークローン・パーク競馬場の名物レース。創設は戦争直後の1946年で、過去にも多くのクラシック馬や全米を代表する古馬たちが名を連ねています。
今年の勝馬はウイン・ウィリー Win Willy 。6頭立て。これまた番狂わせで、本命のGⅠ馬ミスリメンバード Misremembered は1馬身差2着。勝ったウイン・ウィリーは、去年のオークローン・ハンデは2着だった馬です。
調教師はマクリーン・ロバートソン、騎手はクリフトン・ベリー。

最後に辿り着いたのは、西海岸のサンタ・アニタ競馬場。この日はアケダクト同様4鞍のG戦が組まれていました。
その最初はラス・シネガス・ハンデキャップ Las Cinegas H (芝GⅢ、4歳上牝、6.5ハロン)。歴史の新しい、2000年創設のGⅢ。ジャンルとしては数少ない、芝コースのスプリンター牝馬のための一戦です。
今年の勝馬はセパレート・フォレスト Separate Forest 。7頭立て。ステークス初挑戦の新星で、圧倒的1番人気に支持されたアンジップ・ミー Unzip Me の追い込みを首差抑えての逃げ切り勝ちです。
調教師はダグ・オネイル、騎手はパトリック・ヴァレンズエラ。

続いても芝のレースで、アルカディア・ステークス Arcadia S (芝GⅡ、4歳上、8ハロン)。芝コースで行われる古馬の1マイル戦。1988年に創設された時は別のレース名でしたが、2001年から現在の名称に変更されています。
今年の勝馬はライべリアン・フレイター Liberian Freighter 。7頭立て。これまたギリギリの逃げ切り勝ちでした。2着は半馬身差でブルー・シャガール Blue Chagall 。ゲートインを嫌ってスターターを手古摺らせましたが、スタートダッシュは1番、あれよあれよの逃げ切り、去年10月のオーク・トゥリー・マイル(芝GⅡ)以来の勝利です。
調教師はネイル・ドライスデール、騎手はマーチン・ガルシア。

三つ目も芝コースの一戦で、プロヴィデンシア・ステークス Providencia S (芝GⅡ、3歳牝、9ハロン)。芝コースを得意とするクラシック牝馬のための一戦。1981年創設で、2008年からGⅡに格上げ(それまではGⅢ)されました。
今年の勝馬はキャンビーナ Cambina 。9頭立て、内5頭はイギリスからの移籍馬です。イーヴンの1番人気に支持されたキャンビーナはアイルランド産で、英国ではトミー・スタックが調教していた馬。後ろから二つ目、前半は大きく置かれる展開ながら、直線では内からスルスルと脚を伸ばしての見事な差し切り勝ちで期待に応えました。これが彼女の勝ちパターン。
調教師はジェフ・ボンド、騎手はギャレット・ゴメス。

そして愈々サンタ・アニタ・ダービー Santa Anita Derby (GⅠ、3歳、9ハロン)。サンタ・アニタ・ハンデキャップと並んで冬春のサンタ・アニタ競馬場で最も注目されるレース。サンタ・アニタという以上にアメリカ西海岸最高のケンタッキー・ダービーへのステップ・レースでもあります。創設は1935年で、これまでここをステップにケンタッキー・ダービー馬となったのは6頭を数えます。我がサンデー・サイレンスもその一頭。
今年の勝馬はミッドナイト・インタールード Midnight Interlude 。9頭立て。逃げたコンマ・トゥー・ザ・トップ Comma to the Top が最後の追い出しで外によれ、外から追い込んだミッドナイト・インタールードは若干怯む場面もありましたが、最後の追い比べでコンマ・トゥー・ザ・トップを頭差捉えての優勝。
調教師ボブ・バファートは、サンタ・アニタ・ダービー6勝目。2001年のポイント・ギヴン Point Given は二冠馬になりましたが、今年はどうか。騎手はヴィクター・エスピノザ。

サンタ・アニタ・ダービーのレース前、本命視されていたプレミエ・ペガサス Premier Pegasus が骨折で戦線離脱。続いて大本命アンクル・モーの意外な敗退と、ここへ来て今年のクラシック戦線は混迷の色を深くしています。残り3週間、各陣営の思惑や如何に。

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