今日の1枚(178)
引き続き「トスカニーニ・エッセンシャル・コレクション」を聴いていますが、愈々第6集は大物、歌劇の全曲盤です。ベートーヴェンの歌劇「フィデリオ」。BVCC-9706/7 は2枚組のアルバムで、全2幕のオペラが其々一幕づつコンパクトに収録されている内容です。
最初にキャストを列記しておくと、
レオノーレ/ローズ・バンプトン Rose Bampton (ソプラノ)
フロレスタン/ジャン・ピアース Jan Peerce (テノール)
ロッコ/シドール・ベラルスキー Sidor Belarsky (バス)
ピツァロ/ヘルベルト・ヤンセン Herbert Janssen (バス)
マルツェリーネ/エリナー・スティーバー Eleanpr Steber (ソプラノ)
ヤキーノ/ジョセフ・レイドルート Joseph Laderoute (テノール)
フェルナンド/ニコラ・モスコーナ Nicola Moscona (バス)
合唱はNBC合唱団とのみ記され、合唱指揮はピーター・ウィロウスキー Peter Wilhousky とクレジットされています。
フロレスタンのジャン・ピアースはトスカニーニとの共演も多く、既にこのシリーズで紹介済み。ロッコのベラルスキー、ヤキーノのレイドルート、フェルナンドのモスコーナについては詳しいことは判りませんが、モスコーナは「ラ・ボエーム」でコリーネを歌っていました。
レオノーレのバンブトンは1908年にクリーヴランドで生まれたアメリカのソプラノ。最初はコントラルトでスタートした人で、1937年まではメゾ・ソプラノとして活躍していた由。1940年代以降はワーグナー歌手としても評価され、メットの常連でした。
ご主人の指揮者ウィルフレッド・ペルティエはメットでも指揮していた人で、メットのオーディション Auditions of the Air を組織することに尽力しています。
そのメットのオーディションに合格した(1940年)のがマルツェリーネを歌うスティーバー。もちろんデビューはメットで、ばらの騎士のゾフィーだったというアメリカのソプラノで、1966年までメットで歌っていました。バイロイトへの出演歴もあります。
ピツァロ役のヤンセンは、1895年にケルンで生まれ、1965年にニューヨークで没したドイツのバス。後にアメリカ国籍を取っています。ワーグナー歌手として有名で、バイロイトでもロンドンでも、もちろんメットでもほとんどのバス役を歌っています。特に当時はアメリカではワーグナー歌手が不足していて、メットでは欠かせない存在でした。
録音は1944年12月10日と17日の2日間、NBC放送録音としてNBCの8-Hスタジオで行われたもので、客席の入ったライヴ録音です。ただし第10曲、第1幕でレオノーレが歌う「悪魔よ、どこへ急ぐ」だけは翌1945年6月14日にカーネギーホールで行われたレコーディング・セッションで収録されたものを差し替えたとクレジットされています。
この記述はWERMにもあって、歌劇全曲録音はヴィクターのLPが初出で、LM 6025 という2枚4面のセットとして販売されていますが、レオノーレのアリアだけはSPとして同じヴィクターから 11-9110 として先行発売されていたものです。何故差し替えられたのか、12月10日の録音がどうなったのか等の疑問が生じますが、当然ながら当盤の解説には一切触れられていません。
また当盤のブックレットには歌手についての紹介もありませんが、ピツァロを歌うヤンセンのスペルが「Jansen」と誤って表記されています。
エッセンシャル・コレクションに共通するトスカニーニに関する短いエッセイは、当盤は1991年のハーヴェイ・サックス氏のコメント。トスカニーニが「フィデリオ」に寄せた執着がテーマです。
録音はナンバーによって音質が区々な印象。不思議なことに1年後にセッション録音された第10曲の方が古めかしく聴こえます。尤も知らずに聴いても違和感を持たないほどのレヴェルですが。
序曲や第2幕第1場の最後で演奏されるレオノーレ序曲第3番は、中でも優れた録音だと思います。レオノーレではシリーズ174で紹介した1939年盤と少し違う部分があって、コーダの562~569にかけてはホルンを追加せず、オリジナル通りに演奏しています。
演奏会形式の収録ということもあり、曲間の台詞は全てカット。但し第2幕第12曲の「メロドラマと二重唱」は台詞部分もドイツ語で語られています。ここで登場するコントラファゴットの音は生々しく録られていて見事。
前後しますが、第1幕第6曲「行進曲」の繰り返しは省略(フルトヴェングラーは実行していました)。
参照楽譜
オイレンブルク No.914
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