スーパースター、フランケル始動
昨日の土曜日、イギリスはニューバリー競馬場で3鞍のパターン・レースが行われました。馬場状態は good to firm 。いつもはレース順に紹介していますが、今日は大注目の一戦から行きましょう。
三つのパターン戦の最後に行われたグリーナム・ステークス Greenham S (GⅢ、3歳、7ハロン)。今年のクラシックの中心的存在であるフランケル Frankel のシーズン初戦に注目が集まります。
どうもフランケルについて一番自信が無いのが調教師ヘンリー・セシルその人だったようで、去年の内から弱気な発言が目立っていました。現時点のクラシックへの圧倒的な人気に対して伏線を張っているのでしょうか、2歳チャンピオンは必ずしも最優秀3歳にはならない、という説。
ファンは師の不安などは意に介さず、6頭立てのここは1対4という圧倒的1番人気に支持していました。それがまた師の不安を増長していたようで…。
相手と目されていたのは、コヴェントリー・ステークスの勝馬ストロング・スート Strong Suite で、これが9対2の2番人気。
慎重な上にも慎重なセシル師は、ペースメーカーとしてピクチャー・エディター Picture Editor を出走させ、これがペースを作ります。トム・クィーリー騎手はフランケルを後方に落ち着かせようとしますが、馬のスピードが違い過ぎて直ぐに2番手に上がります。
クィーリーは馬を抑え、落ち着かせることに専念しますが、頑固な気性のフランケルは頭を横に傾けたりして抵抗する素振り。こうした激しい気性こそが、セシル師を不安にさせているのでしょう。
しかし今日は師の心配はここまで。辛うじて抵抗の姿勢を見せたのは人気薄のエクスセレブレイション Excelebration 唯一頭で、それもクィーリーがムチを二発入れただけで瞬時に突き放し、2着に4馬身差を付けて楽勝してしまいました。
更に6馬身の大差が付いて3着はシュロプシャー Shropshire 。2番人気のストロング・スートは良い所なく6着のどん尻負けに終わりました。
クィーリー君に言わせれば未だ80%の出来のフランケル、期待以上の強さで最初のクラシックに向かいます。オッズは更に上がって4対6。もしこれで本番で負ければ、1995年のケルティック・スウィング Celtic Swing 以上の大波乱になることは間違いないでしょう。
今シーズンの初勝利を飾ったセシル調教師は、これでグリーナム・ステークスは6勝。1976年のウォロウ Wollow 以来となる2000ギニー制覇を目指します。
気になるのはその次、ダービーですが、これまたセシル伯は懐疑的。長距離系ファミリーに父ガリレオ Galileo という血統が問題なのではなく、フランケル自身の気性に疑問を感じているのでしょうね。
一方で、カーリッド・アブッダッラー(馬主)/セシルのコンビにとっては、この日第6レースで新馬(1マイル3ハロン戦)勝ちしたワールド・ドミネーション World Domination という「隠し玉」があることも、ダービーへの不確定要素となっているようです。フランケルでギニー、ワールド・ドミネーションでダービー、というのが陣営の欲張った腹積もりかも知れませんよ。
さて後先になりましたが、この日最初に行われたパターン・レース、ジョン・ポーター・ステークス John Porter S (GⅢ、4歳上、1マイル4ハロン5ヤード)に行きましょう。
1頭取り消して7頭立て。去年はハービンジャー Harbinger が制して快進撃の口火を切りましたが、今年はやや小粒なメンバー。6対4の1番人気に支持されたヴァーダント Verdant は去年までハンデキャップ・クラスで走っていた馬ですが、ハービンジャーと同じスタウト厩舎/ムーア騎乗が買われたのでしょうか。
結果は、やはりヴァーダントには荷が重かったのか5着敗退。優勝は5ポンドのペナルティーを背負った7対1の6歳馬インディアン・デイズ Indian Days でした。後方から鋭く追い込んだブリッジ・オブ・ゴールド Bridge Of Gold が頭差届かず2着、逃げた2番人気のポエト Poet が2馬身半差で3着の順。
勝ったインディアン・デイズは、去年の9月にトルコのGⅡ戦に勝っていたためのペナルティー。それでも勝ったことで、ジェームズ・ギヴン調教師は将来的にはGⅠを狙える馬と考えているようです。当面は5月に行われるシンガポールの招待レース(クリスフライヤー・インターナショナル)を目標にするようですが、あくまでも招待があってのこと。
勝利騎手トム・クィーリーは、グリーナムでも紹介したように、この日は3勝のハット・トリック達成。前半は淡々としたペースで逃げるポエトから7馬身ほど後ろで待機し、直線に入ってから大外を追い込んで来ました。一方2着馬に騎乗したクリストフ・スミオンは、終始内に付けて直線入り口では最もインコースの位置取り。そこから最後には勝馬の外から追い込んで来たのですから、1・2着は直線コースだけで襷状に入れ替わったことになります。英国競馬の面白さと言えましょう。
さて最後は、牝馬のクラシック・トライアルになるフレッド・ダーリング・ステークス Fred Darling S (GⅢ、3歳牝、7ハロン)。ここは頭数が揃い、14頭が出走してきました。
5対2の1番人気に支持されたのは、去年ロックフェル・ステークス(GⅡ)に勝ったケープ・ドラー Cape Dollar 。ジョン・ポーターと同じくスタウト/ムーアのコンビに期待が集まっています。
しかしスタウト厩舎には利あらず、ここでも本命馬は7着と凡走し、優勝は13対2の3番人気リムス Rimth の攫うところとなりました。1馬身4分の1差2着にシャンベリー Shamberry 、更に1馬身4分の3差で3着がユーカリスト Eucharist 。
リムスを管理するポール・コール師は、同馬の牝系からスタミナには疑問を持っていたようです。しかし、今日は末脚を活かしたクリストフ・スミオン騎手の好騎乗が光りましたね。
コール師は見習い騎手時代からスミオン騎手(フランス人ではなく、ベルギー人)を信頼しており、レース後スミオンがリムスには仏ギーニーが適していると進言したことを重視しているのも当然のことでしょう。スミオンによれば、ニューマーケットの1マイルにはスタミナが欠かせませんが、ロンシャンの1マイルは下り坂で実質7ハロンと同じとのこと。血統的にスタミナには疑問符のつくリムスであれば、フランス遠征の方が現実的でしょう。同馬には1000ギニーへの登録が無いことも、その可能性を高くしているように思われます。
以上、昨日はクィーリー騎手とスミオン騎手の争いに沸き、スパースターの始動にどよめいたニューバリーでした。
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