今日の1枚(188)

「アルトゥーロ・トスカニーニ/エッセンシャル・コレクション」第18集もヴェルディ作品を集めた1枚。いわば落穂拾い的な内容で、様々な録音を寄せ集めたものです。BVCC-9723で、以下の4曲。

①ヴェルディ/歌劇「リゴレット」第4幕全曲
②ヴェルディ/歌劇「ナブッコ」~行け、わが思いよ、黄金の翼にのって
③ヴェルディ/カンタータ「諸国民の讃歌」
④ヴェルディ/テ・デウム(聖歌四篇より)

演奏はもちろん全てトスカニーニ指揮NBC交響楽団ですが、声楽部分の出演者は以下の通り。


リゴレット/レナード・ウォーレン Leonard Warren (バリトン)
ジルダ/ジンカ・ミラノフ Zinka Milanov (ソプラノ)
マントヴァ侯爵/ジャン・ピアース Jan Peerce (テノール)
マッダレーナ/ナン・メリマン Nan Merriman (メゾ・ソプラノ)
スパラフチーレ/ニコラ・モスコーナ Nicola Moscona (バス)
合唱/全ニューヨーク市高校合唱団及びグリー・クラブ(合唱指揮/ピーター・ウイロウスキー Peter Wilhousky)


ウェストミンスター合唱団(合唱指揮/ジョン・フィンレイ・ウィリアムソン John Finlay Williamson)


ジャン・ピアース Jan Peerce (テノール)
ウェストミンスター合唱団(合唱指揮/ジョン・フィンレイ・ウィリアムソン John Finlay Williamson)


ロバート・ショウ合唱団(合唱指揮/ロバート・ショウ Robert Shaw)

録音データもバラバラで、

①1944年5月25日 マディソン・スクエア・ガーデン、赤十字チャリティ・コンサートのライヴ録音。
②1943年1月31日 NBC放送録 NBC8-Hスタジオ。
③1943年12月8日&21日 NBC8-Hスタジオ (OWI film)
④1954年3月14日 NBC放送録音 カーネギーホール

当盤のジャケットは表裏2種類が印刷されていて、裏面は④とボイートの歌劇「メフィストーフェレ」のプロローグが組み合わされたLP初出の際のデザインのようです。“A High Fidelity Recording”の文字が見えますが、これは④とボイートだけの話。
①~③は録音条件も状態も芳しいものではなく、あくまでもトスカニーニのドキュメントとして聴くべきもの。一般的には薦められるモノではありません。
④は既に当シリーズで取り上げましたから、今回は省略。

ということで①から。データによると戦時中に開催された赤十字のチャリティー・コンサートのライヴ録音で、恐らく第4幕だけが取り上げられたのでしょう。放送を前提にしていないので、最後は未だ音楽が終わらないうちに大きな拍手が起きています。トスカニーニは音楽の邪魔になる拍手を嫌っていましたが、この場合はあまり煩いことは言わなかったものと思われます。それでもアリアや四重唱の後には拍手はありません。この辺は徹底していたのでしょう。
いずれにしてもカーネギーホール、NBCのスタジオ以外で収録された珍しい録音。

ジルダが殺害された後の第14曲、真夜中を告げる鐘の音は楽譜では12回鳴らすことになっていますが、この演奏では6回に短縮しています。

②③は、恐らく戦時中のプロパガンダ的意味合いを持つ放送のために録音されたものでしょう。特に③はデータにあるように映像を伴ったものらしく、映画館かテレビ放送で使われたものと想像されます。

当盤の日本語解説(福原信夫氏の遺稿)によると、③は1862年にロンドンで開催された万国博覧会のためにヴェルディが作曲したもの。英仏伊3国の国歌が次々に、時には同時に登場します。トスカニーニが1943年に取り上げた際には、更にアメリカ国歌とソ連の「インターナショナル」を付け加えているのが珍しく、イタリア国歌についてはムッソリーニに抗議するために歌詞を変更している由。
(解説ではアメリカ国歌を「星条旗よ永遠なれ」と記していますが、これは明らかに誤り。福原氏ともあろうものが、と思いますが、CD制作スタッフがもっと気を付けなければいけないでしょう)

③のスコアが手元に無いので詳しいことは言えませんが、トスカニーニはオーケストレーション(ヴェルディが1862年に書いたもの)にも手を加えているようです。
ダニエルズの「Orchestral Music」によると、この作品はカーマスとリコルディから出版されていて、編成はテノール・ソロと合唱の他にピッコロ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チンバッソ、ティンパニ、大太鼓、ハープ2、弦5部となっています。
しかしトスカニーニの演奏を聴くと、劣悪な録音ながらシンバル、小太鼓、トライアングルの音も聴こえるので、作品の最後を一層賑々しく終えるためにトスカニーニ自身が手を加えたのでしょう。

如何に時代とは言え、如何なトスカニーニとは言え、これは一度聴けば充分な代物。続けて④を聴くと、テ・デウムの素晴らしい音楽と演奏にホッとします。

当盤のコメントはジョン・フリーマン氏によるテ・デウムに関するもので、以前に取り上げた海外盤の解説に書かれていたことと同じ内容です。

なお、WERMには①~③が発売されたという記録は見当たりませんでした。

参照楽譜
①リコルディ P.R.156
②③なし
④オイレンブルク No.1000

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください