ムルタの逆襲、オークス逃げ切り
金曜日から始まるエプサム競馬場のクラシック・ダブル、初日に行われたオークス Oaks (GⅠ、3歳牝、1マイル4ハロン10ヤード)の結果が入ってきました。この日の馬場状態は、ずばり good 。
枠順発表で紹介した13頭が全て出走してきました。9対4の1番人気に支持されたのは、順当に1000ギニー馬ブルー・バンティング Blue Bunting 。1000ギニーに勝った実績とその内容、陣営が長距離向きの馬と判断していることからも当然と言えましょう。
しかしレースは意外な結果に・・・。
スタート良く飛び出したジョニー・ムルタ騎乗のダンシング・レイン Dancing Rain があれよあれよの逃げ切り勝ち。終始2番手を追走したキーレン・ファロン騎乗のワンダー・オブ・ワンダース Wonder of Wonders がそのまま2着。4分の3馬身差まで詰め寄ったのが精一杯でした。
3着は4馬身引き離されてイッツィ・トップ Izzi Top が入り、本命ブルー・バンティングは短頭差3着馬にも交わされて4着、更に2馬身4分の3差でミスティー・フォー・ミー Misty For Me (5対1の3番人気)が5着。
勝ったダンシング・レインは20対1の大穴といって良いでしょう。2着馬は3対1の2番人気でしたが、3着馬も25対1というサプライズでした。
今年のオークスは、何と言ってもジョニー・ムルタに尽きるでしょう。決してスローペースには見えませんでしたが、結果的は前に行った馬同士で決まり。後ろから進んだ馬は総崩れでした。3着のイッツィ・トップも3番手グループに付けていましたし、4・5着も比較的前で競馬した馬。
ムルタはダンシング・レインには初騎乗でしたが、騎乗依頼を受けて同馬のレース振りをヴィデオで研究、最初から逃げ作戦で行くことをウイリアム・ハッガス師にも伝えていた由。
オークスはムルタ騎手にとってもハッガス師にとっても初制覇です。この勝利には秘話もあって、ハッガス夫人は名騎手レスター・ピゴットの娘。自身でも同馬に調教を付けていましたが、ダンシング・レインのゲート練習中の事故で足を骨折、本番前の調教に乗ることが出来なかったのだそうです。
しかしそこは厩舎の若手女流調教騎手がカバー、見事なチームワークを発揮しての栄冠だったのですね。
ハッガス師によれば、今年は確たる中心馬が無く、いつもの年なら出走を見合わせる馬だというのが正直な気持ちだったようです。
ダンシング・レインは2歳時は1戦のみで2着、その時は後ろから追い込む競馬をしていました。シーズン初戦(ニューバリー競馬場)に勝った時は、オークスでは2着に終わったキーレン・ファロンの騎乗。3戦目の前走、ニューバリー競馬場でのトライアル(リステッド)では2番手から抜ける競馬をしていました。
映像を見ましたが、ペースが落ち着くまで彼女は首を激しく振り、如何にも宥めるのが難しい印象に見えます。因みにこの時は微差2着、勝ったのはオークス3着のイッツィ・トップ。
ところがオークスではそんな癖は微塵も見せず、ムルタは馬をリラックスさせていました。やはりトップクラスの騎手は違いますね。
そのムルタ騎手、エプサムが終わればドンカスター競馬場のイヴニング開催での騎乗予定があって、インタヴューを終えると一目散にヘリコプターの人になっていました。
逆に失望したのは、ブルー・バンティングに騎乗したランフランコ・デットーリ。映像を繰り返し見ると判るのですが、ゴール前では明らかに3着の脚色。何故か名手は直前で追うのを止め、最後の一歩でイッツィ・トップに交わされています。
これがレース審判の目に留まり、裁決室に呼ばれた結果、怠慢騎乗で10日間の騎乗停止に。6月17日から6月26日までが対象で、ロイヤル・アスコットの最後の2日間と愛ダービーを棒に振ることになります。
自信があったレースで負けたことで気が緩んだのでしょうが、無気力騎乗と咎められても仕方ないでしょう。彼ほどの名手でも、同情することは出来ませんね。
エプサムの初日には、もう一つのGⅠ戦が行われます。コロネーション・カップ(GⅠ、4歳上、1マイル4ハロン10ヤード)。ダービー、オークスと同じ距離。
出走馬は僅かに5頭ですが、レース前の話題は復活したセント・ニコラス・アビー St Nicholas Abbey とGⅠ・5勝の女傑ミッドデイ Midday の一騎打ち。オブライエン/ムーアのコンビで臨むセント・ニコラス・アビーがイーヴンの1番人気、セシル/クィーリー・コンビのミッドデイが5対4で2番人気。
レースはダンディーノ Dandino が逃げ、セント・ニコラス・アビーが2番手を追走しましたが、直線で先に抜け出したのはミッドデイの方。セント・ニコラス・アビーは内で粘るダンディーノと、外から内に切れ込みながらスパートしたミッドデイの間に挟まれ、外に振る間にミッドデイに2馬身ほどの差を付けられてしまいます。
普通ならこのままミッドデイが押し切る形勢でしたが、流石はスタミナを武器とするセント・ニコラス・アビー。外に回してからの伸び脚は鋭く、ゴールではミッドデイを1馬身差交わして戴冠。3着には更に2馬身遅れでクローワンス Clowance が飛び込みました。逃げたダンディーノが4着。
セント・ニコラス・アビーは、去年3歳時は本命で惨敗した2000ギニーに走っただけ。まだまだ馬はフレッシュで、今シーズンこそが勝負の年でしょう。エイダン・オブライエン師は、馬がオーバーワークにならないことに注意している由。当面はキングジョージが目標でしょうが、当然ながら凱旋門賞も視野に入っているはず。この日の切れ味は、この馬に勝つには相当な器でないと、という印象を持たせるに充分なものでした。
さてこの日の開幕レースもパターン戦、去年とは入れ替えになって牝馬のためのプリンセス・エリザベス・ステークス(GⅢ、3歳上牝、1マイル114ヤード)が行われました。
2頭取り消して8頭立て。11対8の1番人気に支持されたゴドルフィンのアンターラ Antara が去年に続き本命での2連覇を達成しています。鞍上は、もちろんランフランコ・デットーリ。サイード・ビン・スロール厩舎、シェイク・モハメッド殿下のチームは幸先良いスタートを切ったのでしたが・・・。
レースはスカイウェイ Skyway とタイムピース Timepiece の先行で始まり、後方に待機したアンターラが直線でスムースに進出、追い込むファースト・シティー First City をやや楽に4分の3馬身差振り切っての優勝。2馬身半差3着にクリニカル Clinical の順。
陣営のコメントでは冬場をドバイで過ごすローテーションが有効なのだそうで、レース間隔を開けないと能力を発揮できないアンターラは、ロイヤル・アスコットはパスして別のGⅠを狙う計画のようです。
以前にも触れていますが、アンターラはドイツからゴドルフィンに移籍した馬。1マイルより少し長目の距離がピタリと合っているのかも知れません。
以上、例年以上に騎手に関する話題が賑っている今年のエプサム競馬場。
愈々今日(6月4日)はダービーですが、人気の一角リサイタルに騎乗するキーレン・ファロンが訴えられています。理由はネイティヴ・カーンの馬主が、ファロンが騎乗を約束していたダービーで他の馬に乗り換えたこと。ファロンは同馬でクレイヴァン・ステークスに勝ちましたが、2000ギニーは騎乗停止中で乗れず、結果は3着でした。
ダービーこそと考えていた馬主サイドは約束を裏切られた気持ちで、ダービーでのファロン騎乗に差し止めを要求しています。
最終的にネイティヴ・カーンにはジョニー・ムルタが呼ばれましたが、そのムルタが昨日のオークスで見事な騎乗。ムルタ・ファロンの1・2着は皮肉な結果でもあります。
金曜日に出された裁判所の仮決定ではファロンの騎乗差し止めは却下されたようですが、オークスの結果を見て訴状はどうなりますか。何かと人騒がせなファロンではあります。
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