ティーンエイジャーのダービー

昨日の土曜日、今年の3歳馬の頂点を決めるダービー Derby (GⅠ、3歳、1マイル4ハロン10ヤード)が行われました。馬場は good to firm 、差し脚の活きる状態だったと言えるでしょう。

この日はレース前、朝から劇的なニュースが飛び込んできました。昨日のオークス・レポートでも触れましたが、リサイタル Recital に騎乗が決まっていたキーレン・ファロン騎手に対する騎乗停止の申し立てが急展開したのです。
素人には難しい判決文が長々と出ていますが、結果だけを記すと、前日の高裁の判決を不服とした馬主側の上告が認められ、ファロン騎手がダービーに騎乗することが出来なくなりました。直ぐにリサイタルにはパット・スマーレンの騎乗が決まっています。
日本では考えられないような訴訟騒ぎですが、口約束、言った言わないという世界が裁判沙汰にまで発展するのは、如何にもイギリスという感じがします。日本では、政治の世界すらペテン師で通ってしまいますからね。

さてレースに集中。
枠順通り13頭が出走し、結局はエリザベス女王が所有するカールトン・ハウス Carlton House が5対2の1番人気に支持されていました。調整が順調に進まなかった不安はありますが、やはりロイヤル・ヴィクトリーを期待する心情も働いたのでしょう。

レースは4頭出しのオブライエン勢から、ダービー初騎乗となる師の息子ジョセフが騎乗するメンフィス・テネシー Memphis Tennessee が速いペースを創ります。タテナム・コーナーでは2番手に6馬身差。
オークスを思わせるように逃げ馬が粘る中、抜け出してきたのは同じオブライエン厩舎のトレジャー・ビーチ Treasure Beach (オダナヒュー騎乗)。ライアン・ムーアが御す本命カールトン・ハウスも外から追い上げに掛かります。

しかしこれ等を纏めて抜き去ったのは、どん尻から進んでいた2番人気(4対1)のプール・モア Pour Moi 。ゴールでは2着トレジャー・ビーチと僅かに頭差でしたが、勝利を確信したミケール・バルザロナ騎手はほとんど立ち上がってガッツ・ポーズ。去年のクールなムーアとは好対照のリアクションでした。
バルザロナ(以前はマイケルと書きましたが、実況ではミケールと発音していますので訂正します)は弱冠19歳。派手なリアクションも無理のない所で、ダービー初騎乗での快挙でした。
フランスから挑戦したアンドレ・ファーブル師は、2006年のヴィシンダー Visindar が1番人気で敗退していましたから、ここで雪辱を果たしたことになります。

女王のカールトン・ハウスも差を詰めましたが、4分の3馬身及ばず3着。逃げたメンフィス・テネシーが更に4分の3馬身差4着は大健闘。騎手騒動の震源地となったネイティヴ・カーン Native Khan はムルタ鞍上で5着。
以下、直前の騎手変更があった3番人気のリサイタル6着、オブライエンのもう1頭で4番人気のセヴィル Seville は10着に沈んでいます。

プール・モアはフランス調教馬ながら、オーナーはクールモア。2着と合わせてワン・ツー・フィニッシュとなりました。優勝馬の父はモンジュー Montjeu 、2着馬はガリレオ Galileo ですから、共にサドラーズ・ウェルズ Sadler’s Wells の後継馬たるクールモアの至宝です。

ところでクールモアは、ジョン・マニエー、デリック・スミス、マイケル・テイバーによる三頭体制。いわゆる共同馬主ではなく、馬によって登録上の馬主名を振り分けています。
テイバー氏はこの結果を、“センセーショナルだったがサプライズではない” とコメントし、“もし我々の馬が勝たなかったなら女王陛下の馬に勝って欲しかった” と付け加えています。
また3人の代表格であるマニエー氏は、“3着のオーナーが女王陛下でなければ良かったのに・・・。これも競馬です” とやや複雑な反応。

勝馬を管理するアンドレ・ファーブル師は、グレフュール賞に勝った時点でエプサム行きを確信した由。プール・モアはダブル・アクセル(二度加速する)を持った馬で、最後方からの競馬にも全く不安は抱いていなかったそうな。
“未だ何が起こったのか判らない” と興奮覚めやらぬバルザロナ君も、プール・モアの末脚には万全の自信。「これしかない」見事な騎乗でエプサムのファンの度肝を抜きました。

陣営の目標は、当然ながら凱旋門賞。キングジョージは出走せず、秋に備えるようです。既に凱旋門賞に7勝しているファーブル師によれば、プール・モアはパントル・セレブル Peintre Celebre 以上のスピードの持ち主で、8度目の凱旋門賞制覇に手応えを感じている様子。某ブックメーカーは4対1という高いオッズを提示しています。

この日エプサム競馬場のパターン・レースはもう一鞍。第1回ダービー馬の名に因んだダイオメド・ステークス Diomed S (GⅢ、3歳上、1マイル114ヤード)。

8頭が出走し、15対8の1番人気に支持されたプレミオ・ロコ Premio Loco は7着惨敗。優勝は16対1の伏兵ファナナルター Fanunalter でした。半馬身差2着に逃げたサン・モリッツ St Moritz 、更に1馬身差3着がゴドルフィンのリオ・デ・ラ・プラタ Rio de La Plata の順。

勝馬の調教師はマルコ・ボッティ、勝利騎手はアダム・カービー。終始内々の4~5番手を通り、最後の1ハロンで馬の壁を縫うように内から抜けた切れ味は見事でした。

土曜日はもう一鞍、仏ダービーを翌日に控えたシャンティー競馬場でもパターン・レースが一鞍行われています。パレ=ロワイアル賞 Prix du Palais-Royal (GⅢ、3歳上、1400メートル)。
8頭立て。3歳上ということで1000ギニーで本命になりながら7着敗退のムーンライト・クラウド Moonlight Cloud が9対10の1番人気。

ピラー Pyrrha が速いペースで逃げ、最後方に待機したムーンライト・クラウドも良く伸びましたが、優勝は同じく最後方から追い込んだサプレーザ Sahpresa の方。1馬身半差の完勝で、2着にムーンライト・クラウド、更に1馬身でエヴァポレーション Evaporation が3着に入っています。

勝ったサプレーザは23対5の2番人気、我が吉田照哉氏の持ち馬で、2年連続で京都のマイルチャンピオンシップに挑戦したお馴染みの馬。GⅠ(去年のサン・チャリオット・ステークス)勝馬で3ポンドのペナルティーを背負っていましたが、シーズン・デビューを見事な勝利で飾っています。
ロドルフ・コレ厩舎、グレゴリー・ブノワ騎乗の同馬は、去年のシーズン・デビューがロイヤル・アスコットのウインザー・フォレスト・ステークス(GⅡ)で8着凡走でしたから、今年も同じレースでの雪辱を狙う計画のようです。

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