日本フィル・第632回東京定期演奏会

数年前からシーズン開始を9月に移動した日本フィル、2010-2011シーズンの東京定期最終回の初日を聴いてきました。梅雨明け間近のサントリーホール。

ハイドン/交響曲第60番ハ長調「うつけ者」
ヒンデミット/交響曲「画家マチス」
     ~休憩~
R.シュトラウス/組曲「薔薇の騎士」
 指揮/広上淳一
 コンサートマスター/江口有香
 ソロ・チェロ/菊地知也

実に渋いプログラムですね。広上・高関・下野の3人は人呼んで「○○○」なんだそうですが、3人ともプログラムが渋いところが共通しています。今回も後半はともかく、前半の曲目に馴染が無いせいか、ホールは空席が目立っていました。
こんな素晴らしい音楽が聴ける会、音楽から「パワーと歓び」を引き出してくれるマエストロを聴かない東京の聴衆って一体何よ。と思いますね、ホント。

冒頭のハイドンは、最早広上の十八番と言える作品。私が彼の指揮で聴くのは少なくとも4回目。しかし日本フィルとは初めてで、多くの会員は作品そのものが初体験だったかも知れません。

その所為でしょう、ヤッパリ出ましたね、間違い拍手。第4楽章が堂々と終わった後、当然のように拍手。マエストロは客席を向いてニヤッ。この拍手、実はハイドンも計算しての悪戯だったのでしょう。拍手が起きるのは、演奏が素晴らしいからでもあります。
第6楽章に仕掛けられたトリック、今回は3人の楽員が指揮者に詰め寄り、何とか宥めて演奏再開。指揮者はタオルで大汗を拭って(特に頭のテッペンは会場から笑い)、スコアを手に取りながら確認しつつ、という演出でした。オケによってリアクションが少しづつ違うのが楽しいですね。

松本で聴いてきたというファンがサイトウキネンより良かったと感想を漏らしたところ、マエストロは“役者が揃っているからね”。
「うつけ者」は録音で聴いても面白さはほとんど伝わりません。ナマで見て、聴いてナンボの世界。もし次の機会があるなら、必ず出掛けるべし。

次のヒンデミットは、今年の3月に京都でも聴きました。オケも違い、ホールも違いますが、音楽の印象は同じです。
見事なテンポ感、丁寧なフレージングの処理。特に第3楽章冒頭の自由なリズム感覚とオケのアンサンブルは見事でしたし、ラングサム(練習番号13の8小節から16の10小節まで)の緻密な表現は蓋し聴きモノでしょう。

後半のシュトラウス。これは昔から広上の得意曲目で、東京定期で取り上げるのは2度目だと思います。但し最初の時は都合で聴けず、今回は私にとっては初体験でした。
ま、作品の内容からして素晴らしさは想像できましたが、結果に大満足。全体のシンフォニックな味わいを保ちながら、歌劇全体を聴きたくなるような魅力を醸し出してくれます。
特にワルツ(練習番号30から)の想像力溢れる指揮振りは、聴き手も思わず踊り出したくなるほど。オーケストラの楽員にとっては「見難い」指揮なのかもしれませんが、聴衆にとっては真に判り易いタクト。

それにしてもシュトラウスのオーケストレーションは凄い。オペラ公演ではオケがピットに入るので見えない個所も、こうして組曲の形、ステージ上で演奏されると、シュトラウスの管弦楽の扱いが手に取るように判ります。
それほど長くない演奏時間(20分強)にも拘わらず、歌劇全曲を味わったような満足感が得られる演奏でした。
(使用されたのは、ブージー社から出版されている、俗にロジンスキが編んだとされる版)

アフター・コンサートのディナー、今月が最後になるかも知れないトゥーランドットでマエストロと遭遇。

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