ブラヴァ~、ヘイリー

今日はこのレースから行きましょう。長い英国の競馬史に新たな1ページが刻まれました。ニューマーケット競馬場のジュライ・ミーティング最終日、開催のシンボルでもあるジュライ・カップ July Cup (GⅠ、3歳上、6ハロン)でのこと。
2000年には日本から遠征したアグネスワールドが制したこともあるスプリントの頂上決戦、今年は1頭取り消しがあって16頭が出走してきました。
4対1の1番人気は、ロイヤル・アスコットでキングズ・スタンド2着、ゴールデン・ジュビリー3着と惜しくも勝ちを逃したオーストラリアの快速馬スター・ウィットネス Star Witness 。両レースの勝馬が欠場したここでは上位と考えるのが順当でしょう。

しかしスター・ウィットネスは好位を追走したものの直ぐに脚を無くし、結果10着の惨敗。これを最後に引退が決まりました。

優勝は、スタンド側のラチ沿いを進み、後方から一瞬の脚を使って抜け出した7対1(並んだ3番人気)のドリーム・アヘッド Dream Ahead 。勝負所で抜ける時、一足早く先頭に立ったベイテッド・ブレス Bated Breath が内に寄れて前をカットされる場面もありましたが、巧く外に回して瞬発力を発揮しています。
半馬身差2着にベイテッド・ブレス、更に1馬身半差3着がヒッチェンス Hitchens の順。以下、リブランノ Libranno 4着、2番人気デレゲイター Delegator が5着。

ドリーム・アヘッドの調教師は、今年が開業7年目のデーヴィッド・シムコック。去年のモルニー賞をドリーム・アヘッドで制し、GⅠトレーナーの仲間入りを果たしたばかり。ドリーム・アヘッドは続いてミドル・パーク・ステークスも制し、2歳の格付けではフランケル Frankel と並んで2歳チャンピオンに評価された馬。これが師にとって三つ目のGⅠとなります。
今シーズンは英仏愛のギニーは全て馬場状態を嫌って回避、今期デビューとなったロイヤル・アスコットのセント・ジェームス・パレス・ステークスで宿敵フランケルと初対決しましたが、マイルの距離をステイ出来ず5着敗退。本来の距離である6ハロンに戻って、その実力を見せつけた形です。着差の半馬身以上の強さを秘めた内容でした。

これまでドリーム・アヘッドの主戦騎手を務めてきたウイリアム・ビュイックは、この日はオーナー(ヨルダンのハヤ王女)との関係からヨーク競馬場で騎乗するためニューマーケットは乗れません。第2ジョッキーのジェイミー・スペンサーは、アメリカ遠征(ベルモント競馬場のマンノ・ウォー・ステークスでケープ・ブランコ Cape Blanco に騎乗)が決まり、彼もまた欠場。
そこで白羽の矢が立ったのが、ナンバーワン女性騎手のヘイリー・ターナーでした。レースの二日前に騎乗依頼があり、もちろん同馬に跨るのは初めて。主戦ビュイックからの“あまり早く仕掛けないように” というアドバイスを忠実に守っての完璧な騎乗でした。
今年28歳のターナー騎手、これまでも女性として初めてチャンピオン見習いジョッキーのタイトルを獲得、女性として初めて年間100勝を達成してきましたが、ここに女性騎手として初のGⅠ制覇を達成したことになります。
実は1997年のナンソープ・ステークスでヤ・マラク Ya Malak に騎乗したアレックス・グリーヴズ女史が優勝したことがあるのですが、それはコースタル・ブラフ Coastal Bluff との同着。単独のGⅠ勝利としては、今回のターナーが女性騎手として英国初の快挙なのです。

彼女はノッティンガム出身、マイケル・ベル師の元で研鑽を積んだ経歴の持ち主で、師匠であるベル師も今日の勝利を祝福しています。
レース後、既に引退している先輩グリーヴス女史がターナーをしっかり抱きしめ、記念写真に納まっていたのが感動的でしたね。↓(3枚目のスナップ)

http://gallery.sportinglife.com/Gallery_Detail/0,17732,13262_7029799,00.html

数々のタイトルを手にして来たターナーですが、これまでビッグ・チャンスに恵まれる機会は決して多いとは言えませんでした。しかし、ビュイックがGⅠのタイトルを手にしたのは去年のこと、ライアン・ムーアでさえ、長い間ロイヤル・アスコットでは勝てませんでした。これを機に、大舞台でのターナーの活躍に期待しましょう。

ということでジュライ・カップに時間を費やしましたが、ジュライ・ミーティング最終日のもう一鞍、サパラティヴ・ステークス Superlative S (GⅡ、2歳、7ハロン)を簡潔に。
尚、この日のニューマーケットは good to firm 、所により good という馬場状態。

11頭立て。11対4の1番人気に支持されたのは、未勝利ながらロイヤル・アスコットのチェシャム・ステークス(リステッド)で2着したフォート・バスティオン Fort Bastion でした。
しかし優勝は10対1のレッド・デューク Red Duke 、首差2着が先行して抜け出したチャンドリー Chandlery 、4馬身差で3着に追い込んだシルヴァーヒールズ Silverheels 。本命フォート・バスティオンは5着でした。

レッド・デュークはジョン・クイン厩舎、キーレン・ファロン騎乗。先行馬をマークし、外ラチから内に馬を出しての差し切り勝ちです。ポンテフラクトの新馬戦(6ハロン)で2着したあとレッドカー(7ハロン)で初勝利、もちろんパターン・レースは初勝利で、ファロン騎手も同馬には初騎乗でした。

さて土曜日は英国全土で競馬が行われており、ニューマーケットの他にはヨーク、アスコット、チェスター、ソールズベリ、ハミルトンと6場開催。各厩舎とも騎手の手当てが大変でした。ターナー騎手の記録もその恩恵かも知れませんね。

そのアスコット競馬場ではサマー・マイル・ステークス Summer Mile S (GⅡ、4歳上、1マイル)が行われました。
1頭取り消して5頭立て。6対4の1番人気にはリステッド戦を2連勝したサイド・グランス Side Glance が選ばれていましたが、3着敗退。優勝は2対1のディック・ターピン Dick Turpin でした。
4分の3馬身差2着はファナナルター Fanunalter 、更に2馬身4分の1差で3着がサイド・グランス。

ディック・ターピンはリチャード・ハノン厩舎の強豪マイラー。今回は騎手の争奪戦の影響でパット・ダブスが2歳時以来となる2度目の騎乗でしたが、ハノン師に言わせれば“2番人気なんて信じられん”というほどの実力馬です。
既にGⅠを勝っているために3ポンドのペナルティーがありましたが、ほとんど問題にはなりませんでした。これがパターン・レース5勝目、今シーズンはサンダウン・マイルに勝った後ロッキンジ・ステークスとイスパハン賞で負けていましたが、夫々勝たれた相手がキャンフォード・クリフス Canford Cliffs とゴールディコヴァ Goldikova なんですから、ここは“格が違うよ” ということでしょう。

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