ヨーロッパ勢の活躍

昨日の土曜日、アメリカ競馬はG戦が全部で12鞍。このカテゴリーを始めてから1日としては最も多いレース数じゃないでしょうか。少し乱雑になりますが、順にレポートして行きましょう。

先ずはアーリントン・パーク競馬場から3鞍。全て芝コースのレースで、最初はモデスティー・ハンデキャップ Modesty H (芝GⅢ、3歳上牝、9.5ハロン)。1942年にワシントン・パーク競馬場に創設されたレース。レース名のモデスティーは、この日行われるアメリカン・ダービーの第1回(1884年)で牡馬を破って優勝した名牝の名。
今年の勝馬はファンテイジア Fantasia 。8頭立て。中団から徐々に進出、直線入り口では先行2頭の外から追い上げ、追い込むローミン・ロビン Romin Robin に1馬身差を付けて優勝。イギリスではGⅢに2勝しているファンテイジア、これがアメリカでのG戦初勝利となります。
調教師はジョナサン・シェファード、騎手はラジーヴ・マラー。

続いてアメリカン・ダービー American Derby (芝GⅡ、3歳、9.5ハロン)。モデスティーで触れたように、1884年創設の歴史あるダービー。シカゴでは競馬が禁止されていた時期もあって何度も中断しましたが、1926年に復活。その後も何度か休止がありました。これもGⅠだった時期もあり、ダート・コースで行われていた時期もあって条件は安定していませんが、1958年からは現在のアーリントンで、1992年からは現在の芝コースで行われています。
今年の勝馬はウィルコックス・イン Willcox Inn 。10頭立て。中部アメリカ三冠レースの第一弾・アーリントン・クラシックの覇者ウィルコックス・インが、ここも危なげ無く快勝して二冠を達成。2着は4馬身差でサントレイサー Suntracer が入りました。今年はアイルランドのデルモット・ウェルド厩舎がキャノン・ヒル Cannon Hill で挑戦、ウェルド師のこのレース4勝目の期待が掛かりましたが、残念ながら8着に終わっています。
調教師はマイケル・シュティドハム、騎手はロビー・アルバラード。

そしてモデスティーの牡馬版・アーリントン・ハンデキャップ Arlingto H (芝GⅢ、3歳上、10ハロン)。大恐慌の年、1929年創設。かつてはGⅠに格付けされていましたが、現在はGⅡに降格されています。
今年の勝馬はタジャウィード Tajaaweed 。10頭立て。7連敗中のタジャウィードでしたが、ここは中団から良く伸びて1番人気に応えました。2着ミスター・マルティ・グラス Mister Marti Gras に1馬身半差。タジャウィードもファンテイジア同様に英国のGⅢ優勝馬ですが、去年の5月にアメリカ・デビューして以来の初勝利となります。
調教師はダニエル・ペイツ、騎手はジェームズ・グレアム。

ベルモント・パーク競馬場は一鞍だけ。マンノウォー・ステークス Man o’War S (芝GⅠ、3歳上、11ハロン)。1959年創設、グレード制が導入された1973年以来ずっと芝のGⅠに格付けされてきたレースで、ヨーロッパからの参戦馬も少なくありません。かつては秋競馬の代表でしたが、2008年からは7月開催に変更。マンノウォーはもちろんアメリカ競馬史上で最も有名な馬。この名を知らなければ競馬の世界ではモグリでしょう。ダート・コースのチャンピオンだったセクレタリアート Secretariat が勝ったことでも有名な一戦です。
今年の勝馬はアイルランドから遠征したケープ・ブランコ Cape Blanco 。6頭立て。逃げるミッション・アプルーヴド Missin Approved の2番に付け、直線での抜け出し。このレース3連覇を狙った追い込み馬ジオ・ポンティ Gio Ponti は2馬身4分の1届かず2着。愛ダービーと愛チャンピオン、既にヨーロッパでGⅠに2勝しているケープ・ブランコ、今回がアメリカ・デビューで米GⅠ初制覇です。今回はジオ・ポンティに次ぐ2番人気でしたが、ヨーロッパ組のレヴェルの高さを立証して見せました。
調教師はエイダン・オブライエン、騎手はジェイミー・スペンサー。

フロリダ州のカルダー競馬場はフェスティヴァル状態で4鞍。全てが6ハロンの短距離戦、夫々のジャンルでスピードを競います。人呼んで「Summit of Speed」。先ずはアザレア・ステークス Azalea S (GⅢ、3歳牝、6ハロン)。1975年創設、当初はアザレア・ハンデでしたが、現在はステークス。最初はG戦ではありませんでしたが、現在はGⅢ。何年に格上げされたかは不明です。
今年の勝馬はデヴィリッシュ・レディー Devilish Lady 。6頭立て。内ラチ沿いの2番手から抜け出し、最後は1頭分だけ開けた最内のホワイト・メルロー White Merlot に追い上げられましたが、何とか頭差凌ぎ切っての優勝。G戦は初勝利です。
調教師はアントニオ・サーノ、騎手はダニエル・センテノ。

二つ目がキャリー・バック・ステークス Carry Back S (GⅡ、3歳、6ハロン)。アザレアと同じく1975年創設。キャリー・バックはフロリダ産の名馬で、ケンタッキー・ダービーとプリークネスの二冠馬。創設当初は2歳戦でしたが、何度か条件が変わって1980年から現在の3歳戦に。
今年の勝馬はインディアノ Indiano 。5頭立て。外枠から好スタート、一旦は3番手に下げ、楽に抜け出して2着スマッシュ Smash に3馬身差の優勝。パナマの2歳チャンピオンだった馬、この冬にアメリカに転厩、これもG戦初勝利です。
調教師はマーチン・ウルフソン、騎手はルイ・サエズ。

そしてスマイル・スプリント・ハンデキャップ Smile Sprint H (GⅡ、3歳上、6ハロン)。1984年にマイアミ・ビーチ・ハンデとして創設、1999年から現レース名に改称。スマイルは1986年にブリーダーズ・カップ・スプリントを制した馬で、フロリダ産馬。その年の最優秀短距離馬に選ばれています。その名の通りここ3年で2回、このレースの勝馬が年度最強短距離馬に選出されている注目の一戦でもあります。
今年の勝馬はジャイアント・ライアン Giant Ryan 。6頭立て。内々3番手追走、直線で外に出して追い上げ、逃げるイレフュータブル Irrefutable を首差捉えたところがゴール。これで5連勝をマーク、これまたG戦は初勝利です。これでブリーダーズ・カップ・スプリントの出走権を獲得。
調教師はビスナース・パーボー、騎手はコーネリオ・ヴェラスケス。

メインはプリンセス・ルーニー・ハンデキャップ Princess Rooney H (GⅠ、3歳上牝、6ハロン)。1985年創設時は7ハロン戦でしたが、1997年以降は現在の6ハロンに。2006年から最高格のGⅠにランクされ、カルダー競馬場唯一のGⅠ戦に。レース名はケンタッキー・オークス馬で、1984年のブリーダーズ・カップ・ディスタフを制した殿堂入り名牝から。
今年の勝馬はサッシー・イメージ Sassy Image 。10頭立て。前半は20馬身も置かれていたでしょうか、そこから信じられないような末脚を繰り出し、直線だけで正にゴボウ抜き。ゴール直前でミュージカル・ロマンス Musical Romance を首差捉えました。短距離戦でこれほど離れた位置からの逆転劇は珍しいでしょう。しかも1番人気での快挙、騎手の度胸にも魂消ます。GⅠ2勝目の貫録か、G戦3連勝。
調教師はデール・ロマンス、騎手はマイク・スミス。

デラウエア・パーク競馬場に飛びましょう。ロバート・ジー・ディック・メモリアル・ステークス Robert G. Dick Memorial S (芝GⅢ、3歳上牝、11ハロン)。このレースの歴史等は良く判りません。
今年の勝馬はチーター Cheetah 。12頭立て。えっ、何処から来たの、と言うほど信じられない勝ち方で、ビデオを二度も見てしまいました。前半は縦長の最後方、直線では最内から一気の差し足でバブリー・ジェーン Bubbly Jane に3馬身4分の3差を付ける圧勝です。1番人気で大胆な勝ち方をした点でも、カルダーのプリンセス・ルーニーと良く似た結果になりました。カルダーは外から追い込んだのに対し、こちらは最内を衝いての抜け出し。チーターはイギリスで6戦2勝、今シーズン初めにアメリカに転厩し、これで3戦2勝。G戦は初勝利です。
調教師はクリストフ・クレメント、騎手はホセ・レズカノ。

デラウエア・オークス Delaware Oaks (GⅡ、3歳牝、8.5ハロン)。1938年創設。グレード制導時はGⅠに格付けされていましたが、その後降格、一時はGにもランクされない時期もありましたが、現在ではGⅡまで復権してきたオークスです。
今年の勝馬はセント・ジョンズ・リヴァー St. John’s River 。7頭立て。これまた最後方からの差し脚が決まりました。ゴール寸前で逃げ粘るストライク・ザ・ムーン Strike the Moon を捉えた着差は頭差。
調教師はアンドリュー・レッジオ、騎手はホセ・レズカノ。

最後にハリウッド・パーク競馬場。スワップス・ステークス Swaps S (GⅡ、3歳、9ハロン)。カリフォルニア産の名馬スワップスを記念して1964年に創設された3歳戦。これもG制導入当初からGⅠ格を維持してきましたが、現在はGⅡに降格。ブリーダーズ・カップ・シリーズ導入の余波による降格でしょう。1977年には無敗の三冠馬シアトル・スルー Seattle Slew が初黒星を喫したレースとしても有名。
今年の勝馬はドリーミー・キッド Dreamy Kid 。5頭立て。最後方から進んだドリーミー・キッドが、先に先頭に立った圧倒的1番人気のコイル Coil をゴール直前頭差捉えて優勝、ステークス・デビューを勝利で飾りました。5月26日にハリウッドで初勝利を挙げたばかり、今回は初めてブリンカーを付けての快走です。
調教師はネイル・ドライスデール、スワップスは3勝目となります。騎手はジョセフ・タラモ。

そして愈々ハリウッド・ゴールド・カップ Hollywood Gold Cup (GⅠ、3歳上、10ハロン)。1938年創設、グレード制導入当初からGⅠ格を守ってきたレースで、西海岸を代表する古馬のチャンピオン決定戦。ハンデで行われていた時期もありますが、1997年からは馬齢重量で固定されているようです(何故か2005年はハンデに逆戻り)。サンタ・アニタのサンタ・アニタ・ハンデ、デル・マーのパシフィック・クラシックと共に西海岸で最も権威ある一戦でしょう。
今年の勝馬はファースト・デュード First Dude 。8頭立て。ゴール前は3頭が横一線に並ぶ大接戦。写真反対の結果、大外から追い込んだファースト・デュードが、早目先頭のゲーム・オン・デュード Game On Dude をハナ差さし切って優勝。デュード(おめかし屋)のワン・ツー・フィニッシュになりました。去年のゴールド・カップ覇者オウサム・ジェム Awesome Gem は5着。勝馬には自動的にブリーダーズ・カップ・クラシックの出走権が与えられます。
調教師ボブ・バファートにとってもワン・ツー・フィニッシュ、ゴールド・カップでのワン・ツー・フィニッシュは、故ボビー・フランケル師以来のことだそうです。騎手はマーチン・ガルシア。

以上、駆け足になりましたが、土曜日のアメリカからのレポートです。最後方からの追い込み勝ちが目立ったこと、芝のレースが多かったこともありましょうが、ヨーロッパ産馬の活躍が目立った一日でした。

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