悲劇のキングジョージ

昨日のアスコット競馬場、好天に恵まれて good to soft の馬場状態の中、注目のキング・ジョージ6世・アンド・クィーン・エリザベス・ステークス King George Ⅵ and Queen Elizabeth S (GⅠ、3歳上、1マイル4ハロン)が行われました。

・・・が、

前々日に紹介したように、出走馬は僅か5頭。1番人気はダービー/凱旋門賞馬のワークフォース Workforce で6対5、プリンス・オブ・ウェールズ・ステークスの覇者でゴドルフィンのリワイルディング Rewilding が3対1の2番人気。コロネーション・カップに勝ったオブライエン厩舎のセント・ニコラス・アビー St Nicholas Abbey は7対2の3番人気で続きます。
残る2頭。唯一の3歳馬ナサニエル Nathaniel も11対2と余り差の無い人気を集め、ゴドルフィンのペースメーカーを務めるドビュッシー Debussy が50対1の最低人気。

しかしレースは冒頭から波乱を含みます。先ずペースを速くするはずのドビュッシーが、先頭に立つのを嫌うようにアームド・アジテビ騎手が馬を抑える構え。これを見たナサニエルのウイリアム・ビュイック騎手が、引っ掛かるのを嫌って先頭に立ちますが、ペースは上がりません。
暫くして漸くドビュッシーがスルスルと前に出、ナサニエルは2番手で落ち着きます。このまま直線、後ろに控えた有力3頭が追い上げに掛かった時、悲劇が起きました。
ランフランコ・デットーリ騎手のリワイルディングが最外に回り、スパートを掛けた瞬間、馬は何かに躓いたように転倒し、デットーリ騎手はコースに叩きつけられます。

アスコット競馬場のスタンドが事の顛末を見守る中、早目先頭のナサニエルに本命ワークフォースが並び掛けますが、ライアン・ムーアの懸命な制御にも拘わらず、ワークフォースは左に急激に寄れ、大外に向かって突進。
一方ジョセフ・オブライエンが御すセント・ニコラス・アベイは、これも左に寄れ気味のナサニエルの内を衝いて追い上げに入りますが、伸び脚は鈍く、差は縮まりません。

結局はナサニエルがそのまま先頭で大金星をあげ、2馬身4分の3差離されたワークフォースが2着、更に1馬身4分の1差でセント・ニコラス・アベイ3着。その役目を中途半端な形で終えたドビュッシーは、更に20馬身遅れてどん尻で入線しています。不運に見舞われたリワイルディングとデットーリは、コースに倒れたまま。
ほぼ2400メートルの勝時計が2分55秒07であったことが、如何にペースが遅かったかの証拠でしょう。日本では凡そ考えられないタイムですね。

競馬には事故が付きものですが、こういうシーンは見たくないし、起きて欲しくありません。その思いは誰も同じでしょう。デットーリは救急車でジョッキー・ルームに運ばれましたが、幸い怪我は無かった様子。それでもこの後のスケジュールは全てキャンセルされました。
真っ先にリワイルディングに駆け寄った一人に、勝馬の調教師ジョン・ゴスデン師の姿もありました。左前脚の管骨を折ったリワイルディングには、獣医も手の施しようがありません。ゴスデン師は馬に最後の青草を与え、安楽死処置となった同馬の最期を看取ったそうです。
ウイナーズサークルに戻ったナサニエルを讃える拍手も湿りがち、インタヴューに答えたビュイック騎手の第一声も、リワイルディングへの哀悼の意でした。アスコット競馬場を襲った大きなショックは、暫く尾を引くのではないでしょうか。

ゴスデン師、ビュイック騎手共にキングジョージは初制覇。3歳馬が勝ったのは、2003年のアラムシャー Alamshar 以来のこと。これまでセントレジャーが目標と言われてきたナサニエルですが、これにより最後のクラシックをパスして凱旋門賞へ直行というプランが急浮上してきました。オッズも7対1に上がっています。
同陣営は、7万5千ポンドの追加登録料を支払ってキングジョージに参戦しましたが、その決定は最終登録の締切5分前だったことをゴスデン師が告白しています。1週前の調教で脚部を負傷、剥がれた爪を装蹄師の懸命の努力で回復し、オーナーの最終決断で出走が確定したという経緯があったのです。現時点で凱旋門賞には登録が無く、出走には最終締切前に高額な追加登録料を支払う必要があります。

一方負けたワークフォース、外へ振れる逸走がなければ勝負になったでしょうが、ムーア騎手の談話では、コーナーでリワイルディングと接触し脚部に負傷を負った由。去年のキングジョージも惨敗、アスコットが馬に合わないということも考えられるでしょう。
多頭数のダービー、凱旋門賞を制した一方で、小頭数のレースでは成績が残せないワークフォース、今回も期待を裏切ってしまいました。気を取り直して凱旋門賞馬のタイトルを防衛することが出来るのか、これもアスコットを覆った暗雲の一つでした。

さて、アスコットではもう一鞍パターン・レースがありました。2歳牝馬によるプリンセス・マーガレット・ステークス Princess Margaret S (GⅢ、2歳牝、6ハロン)。この日は女性騎手のレースもあって、本来なら華やかな雰囲気に包まれるはずでした。

7頭立て、ニューマーケット・ジュライ・ミーティングのチェリー・ヒントン・ステークス(GⅡ)で2着したルッセリアーナ Russelliana が10対11の1番人気に支持されていましたが、レース間隔が短かったためか6着惨敗。
優勝は9対2のエンジェルズ・ウィル・フォール Angels Will Fall という意味深な名前の馬でした。2着は半馬身でリーガル・レルム Regal Realm 、更に2馬身4分の1差3着にミス・レイハー Miss Lahar 。

勝馬はバリー・ヒルズ厩舎、ロバート・ウィンストン騎乗で、ウインザー競馬場の新馬戦(5月9日、5ハロン)に勝っただけの馬。これで2戦2勝の負け知らずです。大外から末脚を活かした競馬で、来年の1000ギニーに25対1のオッズが出されました。
しかし内容からは短距離の追い込み馬という印象で、少なくとも現時点では5ハロンから6ハロンを射程とするスプリンターではないでしょうか。

土曜日はヨーク競馬場でもG戦がありました。その名もズバリ、ヨーク・ステークス York S (GⅡ、3歳上、1マイル2ハロン88ヤード)。こちらの馬場状態は good 。

7頭立て。何故か2対1の1番人気にはパターン・レース初挑戦のドミナント Dominant が支持されていましたが、勝ったのはGⅠホースのトゥワイス・オーヴァー Twice Over 、5対2の2番人気に甘んじていました。
1馬身4分の1差2着争いは混戦で、ランソム・ノート Ransom Note が2着、短頭差3着が本命ドミナント。

3ポンドのペナルティーを背負ったトゥワイス・オーヴァーは、チャンピオン・ステークスを連覇した馬。確かに今シーズンはロッキンジ・ステークス、プリンス・オブ・ウェールズ・ステークスと連敗して波に乗れない感じでしたが、レヴェルを一段下げたここでは格が違います。
ヘンリー・セシル厩舎、トム・クィーリー騎乗で復活を宣言し、無事ならチャンピオン・ステークス(今年からアスコット競馬場に移行)3連覇を目指すことになるでしょう。

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