英愛セントレジャーのサプライズ

この週末、ヨーロッパは各地で重要なレースが目白押し。追い駆ける方も大変で、多少雑なレポートになってしまいます。

土曜日は先ずクラシックから行きましょう。2011年の最後を飾るドンカスター競馬場のセント・レジャー・ステークス St Leger S (GⅠ、3歳、1マイル6ハロン132ヤード)。馬場状態は good to firm 、大分乾いてきました。

一昨日枠順を紹介した通り、9頭が出走してきました。牝馬の挑戦が2頭。
予想通り、2対1の1番人気はトライアルであるグレート・ヴォルティジュール・ステークスを圧勝したシー・ムーン Sea Moon 。今シーズン絶好調のカーリッド・アブダッラー殿下の所有、サー・マイケル・スタウトの管理馬という環境も期待を大きくしていたでしょう。
不安があるとすればジョッキー。本来ならライアン・ムーアのお手馬ですが、承知の通り彼は落馬負傷で今季の騎乗は無理。前走はリチャード・ヒューズが乗り替わりましたが、ヒューズは本番では主戦であるハノン厩舎のセンサス Census への騎乗が決まっています。そこで陣営はフランスからオリヴィエ・ペリエを呼びましたが、どちらにしても初騎乗になります。

これに続く2番人気は、牝馬ながら三冠のかかるゴドルフィンのブルー・バンティング Blue Bunting 。当然ながらデットーリ騎乗で7対2に支持されていました。下馬評では両馬の一騎打ちという構図です。

しかし、最後は落とし穴が待っていました。
レースはブーセレージ Buthelezi が強いペースで逃げ、ゴドルフィンのペースメーカーを務めるルーム Rumh が二番手。オブライエンが唯一頭送り込んだセヴィル Seville が3番手を追走する展開。シー・ムーンは後ろから2番目、ブルー・バンティングは最後方で本命馬をマークします。

直線、先ず抜け出したのがセヴィル。しぶとく先頭で流れ込みを図りますが、終始5番手を進んでいた伏兵(15対2、並んだ4番人気)マスケッド・マーヴェル Masked Marvel が鋭い脚で抜け出し、後方から追い込んだブラウン・パンサー Brown Panther (同じく15対2の4番人気)に3馬身差を付ける鮮やかな勝利です。
本命シー・ムーンは直線で内から抜けようとしましたが、前が壁になって行き場を失う不利。ゴール寸前で前が開き追い上げましたが、半馬身届かず3着に終わりました。この日は向かい風が強く、ペリエとしては外に持ち出したくなかったのかも知れませんが、結果論から言えば馬の力を出し切れなかった印象が残ります。いずれにしても負けは負け。
一方ブルー・バンティングは牡馬の壁か距離の壁か、6着がやっと。最後でシー・ムーンに交わされたセヴィルが4着、センサス5着の順。

最後のクラシックを制したマスケッド・マーヴェルは、ジョン・ゴスデン調教師、ウイリアム・ビュイック騎手のコンビ。丁度一年前、同じセントレジャーをアークティック・コスモス Arctic Cosmos で制し、サプライズを演出したコンビでもあります。2年連続制覇、ゴスデン師はセントレジャー4勝目、ビュイックは同2勝目となります。
ゴスデン師は、この馬をドーヴィルのイヤリング・セールで見つけ、26万ユーロで落札。その時にセントレジャー・タイプと見抜き、2年計画でこの日を待っていました。5月のグッドウッドでリステッド戦を制し、ダービー挑戦は8着。そのあとニューマーケットでバーレーン・トロフィー(GⅢ、13ハロン)を制したローテーションも全て計算通り。セントレジャーで3着以内に入らなければ、ゴスデン師は自分の目に自信が持てなくなる、とまで好走を確信して臨んだクラシックでした。

一方、ビュイック騎手。去年のセントレジャー・レポートでも紹介したように、ゴスデン厩舎の主戦騎手に抜擢されて未だ2年目の若手。去年、アメリカとフランスで立て続けにGⅠ戦を制したとき、レーシング・ポスト紙は「ウイリアム征服王」(Willian The Conqueror)と大見出しで報じたものです。初代「征服王ウイリアム」と同じスカンジナヴィア出身と言う共通点も、征服王Ⅱ世の話題を一層華やかなものにしていました。
若き征服王は、この日の強い向かい風に配慮し、余り早く先頭に立たないように留意する隠し技も。アメリカでトッド・プレッチャー師の元で修業、ドバイで研鑽した実経験が、若くして既に名手の域に達したビュイックを支えているのです。彼によれば、マスケッド・マーヴェルはステイするけれど、1マイル半でも十分勝負になる瞬発力を備えた馬。クラシック馬に相応しい今後に期待しましょう。
いずれ血統プロフィールで紹介する積りですが、父はサドラーズ・ウェルズ Sadler’s Wells 系のモンジュー Monjeu 、母はドイツ・セントレジャーに勝ったヴルフタウベ Wurftaube の近親。ゴスデン師の目に狂いは無いのです。

少しセントレジャーに長居し過ぎました。残りは駆け足で行きましょうか。

ドンカスターのパターン・レースはあと2鞍。第1レースで行われたシャンペン・ステークス Champagne S (GⅡ、2歳、7ハロン)は5頭立て。前走アコーム・ステークス(GⅢ)を制し2戦2勝のエンティファーダ Entifaadha が11対10の1番人気に支持されていました。

レースはそのエンティファーダが先頭で進みましたが、勝負どころでは5頭全てにチャンスがある流れ。そこから抜け出したのは、スタンドに近い側を通った7対1のトランペット・メジャー Trumpet Major でした。最後方から追い込んだレッド・デューク Red Duke が1馬身4分の1差で2着。更に1馬身で本命エンティファーダ。

勝ったトランペット・メジャーは、リチャード・ハノン厩舎、リチャード・ヒューズ騎乗のコンビ。出走馬5頭の中では既に能力を出し切った感のある馬で、これが既に7戦目。前走ソラリオ・ステークス(GⅢ)は4頭立て4着でしたから、少し意外な感じもします。レース自体のレヴェルが低かったのでしょうか、同馬は3勝目となります。
エンティファーダは初黒星。一方2着したレッド・デューク陣営は、ブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル遠征を明言。その結果によってシャンペン・ステークスの評価が定まるでしょう。

ドンカスター・セントレジャー開催最後のパターン・レースは、パーク・ステークス Park S (GⅡ、3歳上、7ハロン)。ここも5頭立てで、15対8の1番人気は8連敗中のプレミオ・ロコ Premio Loco 。既にG戦に4勝している馬だけに、この相手ならと言う評価でしょう。

レースはダフ Duff の逃げ。末脚勝負になりましたが、最後の最後でプレミオ・ロコの末脚が勝り、ダフィーフ Dafeef に半馬身差で期待に応えました。更に半馬身差3着にザ・チェカ The Cheka 。去年の覇者バルサザールズ・ギフト Balthazaar’s Gift は4着でした。

プレミオ・ロコはクリス・ウォール厩舎、ジョージ・ベイカー騎乗。勝鞍は去年7月のサマー・マイル(GⅡ、アスコット)以来で、GⅡ戦はドイツでの2鞍を含めて4勝目。師によれば、予報の雨が降らず、速い馬場になったのが幸いだった由。

土曜日のイギリスは、グッドウッド競馬場でもパターン・レースが1鞍行われました。
雨の降る中、good to soft で行われたセレクト・ステークス Select S (GⅢ、3歳上、1マイル1ハロン192ヤード)。

1頭取り消して7頭立て。2対1の1番人気に支持されたフレンチ・ネイヴィー French Navy が順当に勝っています。2馬身半差2着にスランバー Slumber 、更に首差で3着にメジャリング・タイム Measuring Time 。

逃げるナショナリズム Nationalism を最後方で追走、直線では外(スタンドに近い側)に出して、末脚を活かしました。
フレンチ・ネイヴィーは、2歳時はフランスでアンドレ・ファーブル師が管理、3勝を記録していた3歳馬。ゴドルフィンに移籍した今シーズンは、デビューとなるニューマーケットの条件戦に勝ち、ここが2戦目でのG戦初勝利となります。

続いてアイルランドはカラー競馬場に飛びましょう。行われたパターン・レース2鞍はいずれもGⅠ戦です。馬場状態は重く、yielding to soft の発表です。

最初に行われたナショナル・ステークス National S (GⅠ、2歳、7ハロン)。9頭の俊英から5対2の1番人気には、前走フューチュリティー・ステークス(GⅡ)を制したドラゴン・パルス Dragon Pulse が選ばれていました。

しかし結果は並んだ2番人気(11対4)のパワーPower が復権、本命ドラゴン・パルスに半馬身差を付けていました。3着は1馬身4分の1差でデヴィッド・リヴィングストン David Livingston 。

パワーはエイダン・オブライエン厩舎の4頭出しの1頭で、シーマス・ヘファーナン騎乗。コヴェントリー・ステークスの勝馬ですが、前走フェニックス・ステークス(GⅠ)でラ・コリーナ La Collina の2着に負けて初黒星、やや評価を落としていました。
前走も騎乗したヘファーナンによれば、今回の方が自信を持って騎乗できたとのこと。馬の出来もずっと良かったのでしょう。騎手の感想では、1マイルの方が適しているとのことで、来年は1マイルのGⅠ戦が目標になるでしょう。

2歳GⅠ戦を快勝したオブライエン厩舎でしたが、次の愛セントレジャー  Irish St. Leger (GⅠ、3歳上、1マイル6ハロン)では失望が待っていました。

6頭立ての断然1番人気(8対13)は、アスコット・ゴールド・カップの覇者フェイム・アンド・グローリー Fame And Glory 。3歳勢が出てこなかったここでは断然と思われていましたが、何と4着大惨敗です。しかも3着との差は22馬身!
実はフェイム・アンド・グローリー凡走には予兆もありました。8月20日に同じコース、同じ距離で行われた愛セントレジャー・トライアル(リステッド)でまさかの2着敗退。この時も大本命になりながら、フィクショナル・アカウント Fictional Account という伏兵(5ポンド軽量)に首差ながら惜敗していました。(このとき3着のサドラーズ・ロック Sadler’s Rock は先日ドンカスター・カップに勝ちましたから、一概に凡走とも言い切れませんが…)
今回は2戦続けての敗戦。トライアルで負けたフィクショナル・アカウント(6着どん尻)には先着したとは言え、同斤量の相手に完敗は大ショック。単なる調子以上の何かが、フェイム・アンド・グローリーに起きているような気がしてなりません。

さて優勝は、クラシック(一応そのように評されていますが)には珍しい2頭の同着。逃げ粘ったジュークボックス・ジャリー Jukebox Jury と2番手から追い上げたダンカン Duncan とが長い直線のバトルの末、並んだところがゴール。
ジョニー・ムルタ騎乗のジュークボックス・ジャリーは一旦交わされたかに見えましたが、再び差し返しての大接戦。ダンカンのエディー・エイハーン騎手もゴールではどちらが出ていたか判らなかった由。
1馬身差3着にはレッド・カドー Red Cadeaux が入り、先に記したように22馬身差が開いて4着にフェイム・アンド・グローリーの順。

強い向かい風にも拘わらず逃げ切ったジュークボックス・ジャリーは、マーク・ジョンストン師の管理馬。ジョンストン師の管理馬は、一度先頭に立つと抜かせないという定評があり、正にジュークボックス・ジャリーの走りはジョンストン厩舎を代表するものと言えましょう。

一方ダンカンは、同日ドンカスターでセントレジャーを制したジョン・ゴスデン師の管理馬。異例ながら英愛GⅠダブルとなりました(当欄はクラシック・ダブルとは言いませんよ)。ゴスデン師の愛セントレジャー制覇は、1992年のマシャーラー Mashaallah 以来2度目となります。(ジョンストン師は初)

ジョッキーでは、エイハーンも、意外なことにムルタも愛セントレジャーは初制覇となりました。

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