夏の終わり

昨日のヨーロッパ競馬は、イギリスとアイルランドで所謂夏競馬の総決算とでも言うべく、一日に7鞍ものパターン・レースが行われました。数が多い上にGⅠ戦も無いので、要点だけに絞ってレポートしておきましょう。

最初はフィナーレを迎えたヨーク競馬場のジムクラック・ステークス Gimcrack S (GⅡ、2歳、6ハロン)。馬場は遂に soft 。今開催は firm で始まりましたが、コースは4日間で soft にまで軟化。正に夏の終わりを象徴するようなイボア・ミーティングでした。
出走馬は7頭、既にG戦に勝った馬が3頭も揃い、中々の好メンバーだったと思います。しかし11対4の1番人気に支持されたのは、コヴェントリー・ステークス(GⅡ)2着、ヴィンテージ・ステークス(GⅡ)3着のパーボールド Parbold 。3度目の挑戦でG戦初勝利を目指します。

しかし優勝は3番人気(5対1)のアステア― Astaire 、絶妙なペースで混戦のゴール前を制しての逃げ切り勝ちです。首差2着には外から追い込んだ2番人気(4対1)でアングルジー・ステークス(GⅢ)勝馬のウィルシャー・ブールヴァール Wilshire Boulevard 、更に首差で内から迫ったパーボールドが3着。リッチモンド・ステークス(GⅡ)勝馬で3ポンドのペナルティーを背負ったサイール Saayerr は6着、ドーヴィルでカブール賞(GⅢ)を制したマイ・キャッチ My Catch は7着と共に奮いませんでした。
勝馬を管理するケヴィン・ライアンは地元ヨークシャー州の調教師で、去年のブレイン Blaine に続き2連覇、2005年のアマデウス・ウォルフ Amadeus Wolf も含めてこのレース3勝目となります。アマデウス・ウォルフにも騎乗したネイル・カラン騎手とのコンビ。

続いてイギリス南部のグッドウッド競馬場に飛びましょう。ここはG戦2鞍で、最初にプレスティージ・ステークス Prestige S (GⅢ、2歳牝、7ハロン)。こちらも馬場は good とやや重く、1頭が取り消して7頭立て。先に行われた同じグッドウッドのグローリアス開催で同じ条件の一般戦に勝ったアメージング・マリア Amazing Maria が6対4の1番人気。
2番手を進んだ人気のアメージング・マリア、期待通り2着で2番人気(4対1)のカワーセム Qawaasem に2馬身半差を付けての快勝です。更に3馬身4分の1差でホールジョイ Halljoy が3着。

エド・ダンロップ厩舎のアメージング・マリアは、これで4戦2勝。前走まではデットーリ騎手が騎乗してきましたが、今回はフランスからジェラール・モッセが駆け付けての騎乗。ダンロップ師によれば、現時点では厩舎でベストの2歳馬とのこと。このあとはフィリーズ・マイルでGⅠを目指します。1000ギニーに20対1のオッズが出されました。

もう一鞍はセレブレーション・マイル Celebration Mile (GⅡ、3歳上、1マイル)。断念サセックス・ステークスとでも言う趣のマイル戦です。6頭立て、前走ソヴリン・ステークス(GⅢ)に勝ってG勝馬の仲間入りを果たしたアフサーレ Afsare が11対8の1番人気。
人気のアフサーレ、後方待機策から残り1ハロンでスパートし、3番人気(15対2)スティピュレイト Stipulate に2馬身差を付けてG戦に連勝です。半馬身差3着にはトレード・ストーム Trade Storm が入り、去年の勝馬プレミオ・ロコ Premio Loco は4着。

ルカ・クマニ厩舎、アンドレア・アトゼニ騎乗のアフサーレは、前回のレポートでも紹介したようにゲートインに手古摺る馬。クィーン・エリザベスⅡ世ステークスには登録が無く、BCマイルへの遠征を視野に入れているようですが、ゲートに誘導するヴェテランが出張できないのが悩みの種ということです。

英国の最後は、ウインザー競馬場のイヴニング開催からウインター・ヒル・ステークス Winter Hill S (GⅢ、3歳上、1マイル2ハロン7ヤード)。アスコットに隣接したウインザー、馬場は good to soft と重く、これを嫌った3頭が取り消して僅かに5頭立て。この競馬場には珍しく登場したGⅠ馬のプランテール Planteur が1対2の断然1番人気。

レースはエリア・フィフティー・ワン Area Fifty One が逃げましたが、プランテールは早目にこれを捉えて先頭。後続が一気に差を詰めて混戦かと思われましたが、流石GⅠ馬、そこから突き放すと、3番人気(6対1)アル・ワーブ Al Waab に1馬身4分の1差を付けて期待に応えました。4分の3馬身差で2番人気(4対1)のチル・ザ・カイト Chil The Kite が3着。
マルコ・ボッティ厩舎のプランテールは、GⅠ馬と言っても一昨年4月のガネー賞の勝馬。3歳時には仏ダービーとパリ大賞典で共に2着の実績もあり、今期はドバイ・ワールド・カップ3着、イスパハン賞2着と勝ち切れず、ロンシャン以来の休み明けでした。騎乗したのはフランキー・デットーリ、今年5月に6か月間の騎乗停止が明けてからは、イギリスでのG戦初勝利となります。今月17日にはドーヴィルでカルヴァドス賞に勝っていましたが、この日はグッドウッドでの騎乗を終え、ウインザーに移動しての勝利です。
プランテールは相変わらず凱旋門賞への登録もありますが、この馬のベストはやや距離の短い2000メートル近辺。恐らく別の路線を歩むことと思われます。

ここでアイルランド、カラー競馬場に向かいましょう。G戦は3鞍、馬場は good 。
最初のフライング・ファイヴ・ステークス Flying Five S (GⅢ、3歳上、5ハロン)は、1頭が取り消して12頭立て。前走フェニックス・スプリント・ステークス(GⅢ)2着のハムザ Hamza が5対2の1番人気。

ハムザも実力通りの好走を見せましたが、優勝は2番人気(4対1)のダッチ・マスターピース Dutch Masterpiece 。ハムザに半馬身差を付けていました。首差3着にも3番人気(6対1)のラシアン・ソウル Russian Soul と、比較的順当な結果で、英国調教馬のワン・ツー・フィニッシュ。
ゲーリー・ムーア厩舎、ジョセフ・オブライエンが騎乗したダッチ・マスターピースは、前走6月のニューマーケットでハンデ戦に勝っており、3連勝でG戦初制覇。

二つ目のフューチュリティー・ステークス Futurity S (GⅡ、2歳、7ハロン)は5頭立て。ロイヤル・アスコットでコヴェントリー・ステークス(GⅡ)に勝ちながら、前走フェニックス・ステークス(GⅠ)では3着と期待を裏切ったウォー・コマンド War Command が復権をかけて8対11の1番人気。
同厩のペースメーカー、フレンドシップ Friendship の逃げを4番手で待機したウォー・コマンド、残り1ハロンでは逃げ切られてしまうのではと思える位置からスパートし、2着以下に3馬身差を付けてなお余裕の勝利。2着争いは頭差の接戦で、2番人気(7対2)のマスタジープ Mustajeeb が2着、3番人気(11対2)のエクソジェネシス Exogenesis が3着と人気通りでした。

エイダン・オブライエン厩舎、ジョセフ・オブライエン騎乗のウォー・コマンド、前走の凡走についてエイダン師は、“仕上げ切れずに出走させた調教師のミス。レース中眠っていたみたいだ”と自らを叱責。2000ギニーのオッズは12対1となりました。

最後はアイリッシュ・セントレジャー・トライアル・ステークス Irish St Leger Trial S (GⅢ、3歳上、1マイル6ハロン)。ここも5頭立てで、カラー・カップ、バリーローン・ステークスとGⅢを連勝中のアーネスト・ヘミングウェイ Ernest Hemingway が4対9の断然1番人気。フューチュリティーで人気に応えたオブライエン父子のダブル達成の確率は極めて高い状況でした。

しかし結果は問屋が卸したようにはならず、大本命は4番手追走から順位を一つ上げるのがやっと。結局は2番人気(7対2)のロイヤル・ダイヤモンド Royal Diamond が逃げ切り、半馬身差2着にも2番手を追走した3番人気(9対2)のヴォルーズ・ド・クール Voleuse de Coeurs が入る逆転劇。アーネスト・ヘミングウェイは2着から5馬身半離される3着でした。
何しろロイヤル・ダイヤモンドはバリーローン・ステークスでアーネスト・ヘミングウェイの2着に負けており、ヴォルーズ・ド・クールもカラー・カップでアーネスト・ヘミングウェイの3着敗退していた馬。それこそ本命馬は“レース中眠っていたみたい”でしたね。

勝たれて見ればロイヤル・ダイヤモンドは去年の愛セントレジャー勝馬。今年からはジョニー・ムルタが管理しており、今回もムルタ騎乗。ムルタは調教師と騎手の二足の草鞋での勝利で、恐らくこの肩書としてはG戦初勝利じゃないでしょうか。いずれにしても本番が、3頭の最後の決着の舞台になるでしょう。

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