ミドル・パーク+デューハースト

イギリスの秋競馬、ニューマーケット競馬場とアスコット競馬場の開催が今年から見直されていることは以前にも紹介しましたが、昨日はニューマーケット競馬場でのシーズン最後となるパターン・レース6鞍が行われました。
秋開催としては9月最終週に続くもの、1日だけの開催です。メインは伝統のハンデ戦であるセザレウィッチ・ハンデですが、開催としては前年までに比べて1週間早まった形です。馬場状態は good でしたが、第5レースが終了したころから雨が降り出し、視界の悪い中でレースが進められました。馬場は終日 good のまま。

レース順にレポートすることにして、第1レースはチャレンジ・ステークス Challenge S (GⅡ、3歳上、7ハロン)。去年まではニューマーケットのチャンピオン開催で行われてきましたから、日程的に1週間早くなった計算。このパターンは、この日の6鞍のG戦のなかで4鞍が該当します。
8頭立て。グリーナム・ステークスでフランケル Frankel に惨敗した後で呼吸器系の病気が発覚、手術後に能力を回復して調子を上げてきたストロング・スート Strong Suit が13対8の1番人気。3着以下の無いチャチャマイデー Chachamaidee が2番人気(7対4)で続きます。

レースはアクロス・ザ・ライン Across The Rhine が逃げ、ストロング・スートは2番手でマーク。あと2ハロン地点で先頭に立つと、そのまま2着以下に4馬身半差を付ける大楽勝で人気に応えました。2着争いは際どく、ハナ差で2番人気のチャチャマイデーが3番人気(6対1)のマカーシド Maqaasid を抑えて人気通りの決着です。2・3着は共に牝馬。
ストロング・スートはリチャード・ハノン厩舎、リチャード・ヒューズ騎乗のコンビで、固い馬場なら5ハロンから1マイルまでムラ無く走るタイプ。11月初めのブリーダーズ・カップ(マイル)が目標です。オーナーは“ブリーダーズ・カップのために購入した馬”であることを強調し、“第1ハードルを越えた” と自信を覗かせていました。
この勝利によりBCマイルに3対1のオッズも出され、ゴールディコヴァ Goldikova の強力なライヴァルに上がってきた印象です。

一方2着のセシル陣営は来年の現役続行を表明しましたが、3着のゴスデン陣営は引退を示唆。マカーシドのオーナーであるハムダン・アル・マクトゥーム氏は牝馬は3歳で引退させるのが方針で、彼女のようにG戦に勝ち、ギニー3着という実績があれば尚更のこと、のようです。

第2レースはミドル・パーク・ステークス Middle Park S (GⅠ、2歳、6ハロン)。去年まではニューマーケットのオクトーバー開催で行われていたレースで、同じ開催のチーヴリー・パーク・ステークス(牝馬のGⅠ戦)と対を成すレースでした。オクトーバー開催のほとんどのレースは9月開催に移行されましたが、ミドル・パークだけが当開催に持ち越された形です。
16頭の多頭数。1番人気(5対1)にはジムクラックとミル・リーフに連勝したカスパー・ネッチャー Caspar Netscher とフランスの副将格ファミリー・ワン Family One (モルニー賞でダバーシム Dabirsim の2着)が並び、2番人気(実質3番人気)も2頭が並ぶ混戦となりました。

レースはボルティー・ボーイズ Balty Boys 1頭がスタンドから遠いコースを通り、他馬はスタンド側に集まる面白い展開。その集団の最外を通った伏兵(25対1)クルセード Crusade が混戦を抜け出し、2番人気の1頭リルボーン・ラッド Lilbourne Lad に4分の3差を付ける波乱となりました。頭差3着にリプライ Reply が入り、人気を分けたカスパー・ネッチャーとファミリー・ワンは夫々5着・10着に敗退。
ただ、スタートして2ハロン地点では後ろから二つ目とペースに付いて行けない感じに見えたカスパー・ネッチャーは、最後に目の覚めるような脚で次々と先行馬をなぎ倒し、最後は勝馬と1馬身以内の5着に追い上げた末脚は目を瞠るもの。負けてなお強し、の印象です。

勝ったクルセードと3着に食い込んだリプライはエイダン・オブライエン厩舎の馬、勝馬にはシーマス・ヘファーナン、3着馬にはライアン・ムーアが騎乗していました。人気は3着馬の方が上(9対1の5番人気)でしたが・・・。
クルセードは2戦目にカラーの未勝利戦(6ハロン)に勝った馬で、前走もニューマーケット(サマーヴィル・トトーソル・ステークス、GⅢ)に遠征して4着していた馬。前走は未勝利戦の勝利から少しレース間隔が空いたのが敗因だったそうで、この日は休み明け2戦目で良化していた由。陣営ではブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル参戦の可能性も示唆していました。

続く第3レースは同じく2歳のGⅠ戦、デューハースト・ステークス Dewhurst S (GⅠ、2歳、7ハロン)。去年までチャンピオン開催の目玉だった一戦で、1週間早まりました。かつてはミドル・パークからデューハーストと連戦する馬も少なくありませんでしたが、今年からは同日開催となり、ミドル・パーク/デューハースト・ダブルは不可能になってしまいましたね。
今年は9頭立て。ナショナル・ステークス(GⅠ)に勝ったオブライエン厩舎のエース、パワー Power が15対8の1番人気に支持されていました。鞍上もライアン・ムーアを配します。

レースはスタンド側のラチ沿いにスピリチュアル・スター Spiritual Star の逃げ。これを2番手でマークした伏兵(20対1)パリッシュ・ホール Parish Hall が捉え、ラチ沿いを抜けて先頭、本命パワーの追い込みを半馬身抑えたところがゴール。頭差3着にモースト・インプルーヴド Most Improved が粘りました。2番人気(10対3)に支持されたブロンテーア Bronterre が4着。
パワーは、パリッシュ・ホールとモースト・インプルーヴドの間を抜けようとしましたが間隔が狭く、外に出して追い出した分だけ届かなかった感じ。諦めて外に出た瞬間に1・3着の間が空きましたから、アンラッキーだったと言えなくもありません。

パリッシュ・ホールを管理するジム・ボルジャー師は、ここ6年でこのレース4勝目。2006年のテオフィロ Teofilo 、2007年ニュー・アプローチ New Approach 、2008年インテンス・フォーカス Intense Focus に続く勝利で、パリッシュ・ホールは5年前に勝ったテオフィロの産駒でもあります。騎乗したケヴィン・マニングも、ボルジャー師の4頭全てでコンビを組んできました。
4月にデビュー勝ちしたあとフェニックス・ステークス(GⅠ)で凡走、前走フューチュリティー・ステークス(GⅡ)は負けた(2着)とは言え勝馬とは差の無い競馬をしていました。いずれもやや重い馬場で結果が出なかったもの。この日の良馬場で本領を発揮できたのが勝因でしょう。

2000ギニーとダービーの両方に25対1のオッズが出されましたが、ボルジャー師は2000ギニーは未定ながら、エプサムからカラーへと向かうダービー・タイプであることを明言しています。それは2着惜敗のパワーにも言えることでしょう。

丁度真ん中に当たる第4レースがセザレウィッチ・ハンデ。一般的には最も人気があるのがこちらで、2マイル2ハロンを33頭が争うスペクタクルに観客席も大興奮でした。
簡単にレポートすると、25対1の穴馬ネヴァー・キャン・テル Never Can Tell (ジェイミー・オズボーン厩舎)という牝馬が、ランフランコ・デットーリ騎乗で鮮やかな逃げ切り勝ち。馬群が直線に向いた時、唯1頭だけスタンド側を走るという見所も話題に華を添えました。デットーリ騎手は25年間挑戦し続けての初勝利で、各スポーツ紙の一面はデットーリの笑顔とアクションで飾られています。

パターン戦に戻り、第5レースはロックフェル・ステークス Rockfel S (GⅡ、2歳牝、7ハロン)。これもデューハーストと同様、去年までは1週間後のチャンピオン開催で行われてきたレース。
9頭立て、5対2の1番人気にはパターン・レース初挑戦ながら、堅実に成績を残してきたゴドルフィンのピンパーネル Pimpernel が選ばれていました。

しかしここも1番人気は勝てず、11対4の2番人気に支持されていたウェイディング Wading が3番手から外に出し、抜けた強さを発揮して圧勝しています。2馬身差2着に本命ピンパーネルが入り、首差3着にグレイ・パール Gray Pearl の順。
同じ距離で行われたデューハースト・ステークスより勝時計が速い、ということにも注目が集まりました。

ウェイディングはエイダン・オブライエン厩舎、ライアン・ムーア騎乗。前走2戦目で初勝利を記録した馬で、これが3戦目。父がモンジュー Montjeu ということもあり、来年の1000ギニーとオークス共に10対1という高い評価を与えられました。オブライエン師はミドル・パーク・ステークスと合わせてダブル達成です。
ムーア騎手は負傷が癒えて以後パターン・レース初勝利。先週金曜日に復帰して2鞍騎乗、凱旋門賞ではワークフォースのみ騎乗、その翌日(10月3日)にウインザーで3鞍騎乗し1勝で復帰後初勝利。そしてこの日は4鞍騎乗して2勝目をマークしたことになります。

最後から二つ目はオータム・ステークス Autumn S (GⅢ、2歳、1マイル)。去年までは10月アスコットの最終週に組まれていたレースで、時期は前年までと同じながらニューマーケット競馬場に移管された一戦。
このレースから雨が降り出して、カメラのレンズも曇りがち。2頭取り消して8頭立てで行われ、またも1番人気(11対8)に支持されたアストロロジー Astrology が敗退する結果です。

8対1(4番人気)で勝利を攫ったのは、リチャード・ハノン厩舎、リチャード・ヒューズ騎乗のロッキナンテ Rockinante 。このコンビはチャレンジ・ステークスに続いてダブル達成です。
1馬身4分の3差で2着にペレンニアル Perennial が入り、本命アストロロジーは更に半馬身差で3着に終わりました。

ロッキナンテはスタンドに近い側のラチ沿いにほぼ逃げ切り勝ち。オブライエン厩舎のアストロロジー(ジョセフ・オブライエン騎乗)は馬の未だ若さが見られ、追われてからのフラつきも目立ちました。ガリレオの牝馬でもあり、距離が伸びてからのタイプでしょう。
それは勝馬も同じで、ハノン師は“来年はミドル・ディスタンス・ホースに育つだろう” という見解。

いよいよニューマーケットで行われるシーズン最後のG戦はダーレー・ステークス Darley S (GⅢ、3歳上、1マイル1ハロン)。これも去年までニューマーケットのチャンピオン開催で行われていたもので、この日行われた、施行時期が1週間早まった4鞍の一つ。
10頭が出走し、これまた1番人気(15対8)が勝てませんでした。本命に推されたのはスタウト厩舎、ムーア騎乗のダックス・スカラー Dux Scholar でしたが、勝ったのは2番人気(9対2)のバブル・シック Bubble Chic 。1馬身4分の1差2着がダックス・スカラーで、更に1馬身4分の1差で3着はクエスチョニング Questioning 。1着から3着まで3歳馬が独占し、古豪プレミオ・ロコ Premio Loco (7歳、7着)もスライ・プートラ Sri Putra (5歳、9着)も奮いませんでした。

勝ったバブル・シックは仏ダービー2着、GⅡのトライアル戦でもダービー馬プール・モア Pour Moi の2着していた実力馬。寧ろ1番人気にならなかったのが不思議な位でしょう。
イタリアのアレッサンドロ・ボッティ師の管理馬で、オリヴィエ・ペリエ騎乗、堂々たる逃げ切り勝ちでした。ボッティ師は来年4月からフランスのシャンティーに本拠を移す予定で、バブル・シックはこのあとローマ大賞典(GⅠ)から香港に遠征する計画だそうです。

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