アメリカのQEⅡもヨーロッパ勢が制す

昨日のアメリカ競馬は、5場で6鞍のG戦。ブリーダーズ・カップを3週間後に控えて地味なレースが並びましたが、唯一のGⅠ戦は奇しくも英国と同じクィーン・エリザベスの名を冠した一戦。
アスコットでも活躍したエイダン・オブライエン厩舎の馬が脚光を浴びる一日となりました。

先ずはベルモント・パーク競馬場のニッカーボッカー・ハンデキャップ Knickerbocker H (芝GⅢ、3歳上、9ハロン)。1960年創設。但し20世紀初頭にも「ニッカーボッカー・カップ」というレースが存在していました。グレード制が導入された1973年からGⅢに格付けされてきた一戦。レース名のニッカーボッカーとはニューヨーカー(ニューヨークっ子)の別称で、ワシントン・アーヴィングが「History of New York」(1809年)を書いた時のペン・ネーム、ディートリッヒ・ニッカーボッカーに由来します。その他半ズボンの名前に取り入れられるなど、私が解説することでもありません。
今年の勝馬はボイステラス Boisterous 。7頭立て。前半は中団の4~5番手。直線でも3番手から伸びるのに手間取りましたが、最後の40ヤードで一気に抜け出し、2着スリープレス・ナイト Sleepless Knight に半馬身差を付け優勝。G戦は初勝利となります。
調教師はクロード・マクガヒー、騎手はジョン・ヴェラスケス。

アセーニア・ステークス Athenia S (芝GⅢ、3歳上牝、8.5ハロン)。1978年創設。レース名のアセーニアは、1946年にレディーズ・ハンデに勝った牝馬の名前。創設から1982年までは3歳牝馬限定戦でしたが、1983年からは古馬牝馬にも開放。GⅢに格付けされたのは、ラヴ・サイン Love Sign が勝った1980年から。
今年の勝馬はデノミネーション Denomination 。ここも7頭立て。前半は後ろから2番手を進む苦しい展開ながら、徐々に追い上げ、直線では馬場の中央から抜け出して2着アンブライドルド・ヒューモア Unbridled Humor に2馬身4分の3差を付ける快勝。G戦は5月のヴァイオレット・ステークスに続き2連勝となります。
調教師はクリストフ・クレメント、騎手はジョー・ブラーヴォ。

続いてカルダー競馬場のスペンド・ア・バック・ハンデキャップ Spend A Buck H (GⅢ、3歳上、8.5ハロン)。1991年の創設以降、度々施行距離が変更されてきた一戦。レース名のスペンド・ア・バックは、本拠地のカルダー競馬場から1985年のケンタッキー・ダービーを制した馬。GⅢに格付けされたのは2002年からのこと。
今年の勝馬はマッド・フラッター Mad Flatter 。これまた7頭立て。好スタートから2番手に控え、第3コーナーで先頭に立つと、そのままマンボ・マイスター Mambo Meister の追い込みを1馬身差抑えて優勝、前年に続く2連覇を達成しました。この後はブリーダーズ・カップ・マイル・ダートに挑戦する予定だそうです。
調教師はジェフリー・ソーンバリー、騎手はジョン・ケントン・コート。

ホーソン競馬場からはホーソン・ダービー Hawthorne Derby (芝GⅢ、3歳、9ハロン)。1965年にホーソン・ダイアモンド・ジュビリーとして創設。1984年まではダート・コースで行われてきましたが、1985年から芝コースに変更。現在のレース名は1969年から、また、1973年のグレード制導入時からGⅢに格付けされてきました。
今年の勝馬はウィルコックス・イン Willcox Inn 。10頭立て。1番枠スタート。前半は7番手に控えて内々の経済コースを回り、直線でスンナリ先行馬を捉えると、外から2着に追い上げるサントレイサー Suntracer に4馬身半差を付ける楽勝で圧倒的1番人気に応えました。去年のBCジュヴェナイル・ターフで3着した馬、シーズン当初は三冠のトライアルに出走しましたが、直ぐに芝コースのスペシャリストに戻り、アーリントン・クラシックとアメリカン・ダービーを制覇していました。
調教師はマイケル・シュティッドハム、騎手はロビー・アルバラード。

この日の目玉、キーンランド競馬場のクィーン・エリザベスⅡ世チャレンジ・カップ・ステークス Queen Elizabeth Ⅱ Challenge Cup S (芝GⅠ、3歳牝、9ハロン)。1984年に、英国のエリザベス女王がキーンランド競馬場訪問を記念に創設されたレース。日本のエリザベス女王杯と同じ経緯ですね。1986年にGⅢ、1988年にはGⅡ、そして1991年以降GⅠと着実に昇格されてきた一戦です。
今年の勝馬はアイルランドから遠征したトゥギャザー Together 。8頭立て。如何にもヨーロッパの馬らしく、前半は中団の馬群の中で待機する流れ。直線で間隙を縫うように先頭に立ち、2着マーケティング・ミックス Marketing Mix に1馬身4分の1差を付けてヨーロッパの意地を見せ付けました。1番人気のウインター・メモリーズ Winter Memories は4着。前走ファースト・レディー・ステークス(キーンランドのGⅠ)では2着でしたが、1週間後のここでキッチリとGⅠ戦を手にしています。今シーズンは8戦目にして初勝利。去年はBCジュヴェナイル・ターフ5着だっただけに、今年もチャーチル・ダウンズに向かうか否かに注目が集まります。
調教師はエイダン・オブライエン、騎手はコーム・オダナヒュー。

最後はサンタ・アニタ競馬場のオーク・トゥリー・ダービー Oak Tree Derby (芝GⅡ、3歳、9ハロン)。1969年にダービーとは似ても似つかぬ、ヴォランテ・ハンデ Volante H として創設。1997年に現在のレース名に変更されました。グレード制導入時はGⅢ(ヴォランテ時代)に格付けされていましたが、1989年からGⅡに格上げ。
今年の勝馬はアルティメイト・イーグル Ultimate Eagle 。アメリカにしては14頭と多頭数。スローに落としてまんまの逃げ切り勝ち。後方2番手から直線で内を衝き、一気に追い込んだ英国産のヴェノマス Venomous は半馬身遅く惜敗の2着。勝馬は34対1の大穴でした。それもそのはず、同馬はこれがステークスへのデビュー戦で、3連勝とは言いいながら未知の存在でした。陣営ではケンタッキー・ダービーを狙う馬と見ていましたが、疝痛のためにクラシックを断念した馬。ここに出られるまでに回復したのは幸運ながら、出ればこれだけの仕事をする実力の持ち主でもあります。これまでも逃げて勝ち星を重ねてきたそうです。
調教師はマイケル・ペンダー、騎手はマーチン・ペドローザ。

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