日本フィル・第271回横浜定期演奏会

昨日は横浜みなとみらいホールで日フィルの横浜定期を聴いてきました。秋晴れの続く首都圏、これ以上ないほどのお出かけ日和です。

その所為かいつもより早目にホールに着いたので、奥田佳道氏のプレトークをジックリ聞くことができました。日フィル横浜定期恒例、ホワイエで行われるオーケストラ・ガイドという催し。
これを楽しみにされている熱心なファンも多く、開場前から長い列が出来るのが横浜定期の特徴です。筆記用具を握り締め、氏の解説をメモる方も数多く見受けられました。

出演者の紹介に始まり、演奏曲目のコンパクトな解説。プログラムの曲目解説には書かれていない内容で、ヴィヴァルディが没したのはウィーンであることが紹介されると、聴き手からどよめきが起きるほどの反応の良さ。
“ヴィヴァルディはオペラの作曲家として認められたかったのです。たくさんある協奏曲も、特に緩徐楽章をオペラのアリアとして聴くのも一興でしょう” とか、“グリーグとサン=サーンスの共通項は、実は今年生誕200年を迎えたリストなんです” という話をクイズ風に盛り上げたりと、近頃の音楽評論家にはエンターテイナーとしての資質も要求されるのだなぁ~、と妙に感心してしまいました。最後に御自身の出演番組をさり気なく宣伝するあたりも流石ですね。

奥田氏は、確かヴァイオリンを学んでウィーンに留学された方。演奏家より評論家を選んだのは、氏の学者的性癖と穏やかなトークの持ち味が決め手だったのかも知れません。
氏の父君、奥田道昭氏は指揮者で、広島や札幌で活躍されていた方。日本フィルの定期にも登場されたことがあり、私はその定期ではありませんが、氏の指揮もナマで聴いたことがあります。

10月定期は横浜独自企画「輝け! アジアの星」の第3弾で、ピアニスト編。プログラムは以下のもの。

ヴィヴァルディ/オーボエ協奏曲ニ短調 RV454
グリーグ/ピアノ協奏曲
     ~休憩~
サン=サーンス/交響曲第3番
 指揮&オーボエ/ハンスイェルク・シェレンベルガー
 ピアノ/小林愛実
 パイプ・オルガン/長井浩美
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 ソロ・チェロ/菊地知也

指揮者シェレンベルガーは、ベルリン・フィルの首席オーボエを長年務められた方。日本フィルには2009年の横浜定期に続く二度目の登場だそうです。前回は聴いていないので、私は指揮者としては初体験。指揮棒を持ち、スコアも使い、時には長身を折り曲げるように振ります。
1948年生まれですから、今年63歳。2001年までベルリン・フィルに在籍。退団後は指揮者とソリストの二足の草鞋を履いているようですが、指揮は学生時代に学んでいましたし、指揮活動は1994年から始めているそうです。プレトークの紹介によると、初来日は1974年の由。もちろんオケのオーボエ奏者としてでした。

グリーグのソロを弾く小林愛実(こばやし・あいみ)は、指揮者とは孫ほども年齢の差がある1995年生まれ。未だ16歳の高校生ですが、既に9歳で国際デビューを果たしたという逸材。山口県宇部市出身で、カーネギーホールの小ホールなど既に海外経験も豊かです。
未だペダルに足が届かない頃からリサイタルを行っていましたが、グリーグの協奏曲を弾くのは、今回が最初とのこと。奥田氏曰く「歴史的場面」、に立ち会うことが出来ました。

冒頭のヴィヴァルディは、いくつもあるオーボエ協奏曲の一つ。通常の急緩急の3楽章から成ります。
私は半世紀近くナマの演奏会に通っていますが、プロフェッショナルの演奏家による最初の体験が、レナート・ファザーノ指揮のヴィルトゥオージ・ディ・ローマの来日公演でした。小川昂編纂の「演奏会記録」にも掲載されていないので正確な日時は判りませんが、大手町の産経ホールだったことと、オール・ヴィヴァルディ(但し「四季」はありません)のプログラムだったことだけは覚えています。
その中の一つにオーボエ協奏曲がありました。どの曲だったのか知る術は失われましたが、今回の定期は「ヴィヴァルディのオーボエ協奏曲」として懐かしく聴かせて貰いました。こんなことを思い出したのも、プレトークを聞いたからでしょうか。

弦楽器は4-4-3-2-1(プルトではなく人数)という徹底した小編成、これにチェンバロが加わるだけ。第2楽章の伴奏は低弦(各1人ずつ)とチェンバロだけのコンティヌオで、ほぼ室内楽と言って良いでしょう。シェレンベルガーの美しくも凛としたオーボエを満喫します。

続くグリーグ。初めて聴く小林愛実は、高校生だけあってまだまだ小柄。初グリーグとあって緊張もあるのでしょうが、実に堂々たるもの。音だけ聴いていれば、とても16歳の演奏とは思えません。
これだけで彼女のピアニズムがどう、などという話は出来ませんが、これからも多くの機会を踏んで輝けるアジアの星に育って欲しいと思います。

後半のサン=サーンスは、真に気持ちの良い演奏。シェレンベルガーはオケマンを長く務めただけに、オケのプレイヤーが嫌うようなことは一切しません。極端なテンポ、過度な自己主張は避け、スコアをバランス良く音にしていきます。
オルガンの多彩な音色も聴きどころで、第1楽章第2部では低音が静かに鳴り響きます。特にこの楽章の最後の終わり方ではストップを様々に工夫したことが窺われ、思わずハッとする美しさが聴き取れました。

横浜定期のお楽しみは、時々はアンコールがあること。今回はアンコール付きで、ブラームスのハンガリー舞曲第5番が快いテンポで取り上げられました。

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