アイルランド終戦と、

昨日の日曜日はアイルランドのレパーズタウン競馬場で今期最後のパターン・レースが行われ、平場シーズンの幕を下ろしました。同日フランスのサン=クルー競馬場で行われた2鞍のG戦と合わせてレポートして行きましょう。

アイルランド最後のパターン・レースはキラヴュラン・ステークス Killavullan S (GⅢ、2歳、7ハロン)。例年はあまり注目されない2歳戦ですが、今年は事情が違っていました。8対11の圧倒的支持を得たボーン・トゥー・シー Born To Sea に注目が集まっていたからです。
馬名から想像できるように、同馬は一昨年のチャンピオン馬シー・ザ・スターズ Sea The Stars の半弟に当たります。シー・ザ・スターズの華麗な牝系については一昨年の小日記で取り上げましたから、こちらを参照して下さい。↓

http://merrywillow.blog35.fc2.com/blog-date-200905-1.html#1134

要するにボーン・トゥー・シーは凱旋門賞馬アーバン・シー Urban Sea を母に持ち、シー・ザ・スターズの他にガリレオ Galileo とスラック・サム・ベラミー Slack Sam Bellamy が兄弟と言う世界屈指のファミリー。アーバン・シーの最後の産駒で、父はインヴィンシブル・スピリット Invincible Spirit に替っています。
インヴィンシブル・スピリットはグリーン・デザート Green Desert 産駒ですから、シー・ザ・スターズの父ケープ・クロス Cape Cross と極めて近い配合になりますね。
そのボーン・トゥー・シーはシー・ザ・スターズと同じクリストファー・ツイ氏の所有馬で、やはりジョン・オックス師の管理馬。デビュー戦に一般の新馬戦を選ばず、9月にいきなりカラー競馬場のリステッド戦に挑戦して快勝。この時点で、各ブックメーカーは来年のクラシックに高いオッズ(配当が低い)を出したほどです。
僅か2戦目ながら1番人気に支持されるのも当然でしょう。同じ黄色の勝負服で走る姿は、シー・ザ・スターズを髣髴とさせるものがあります。

レースは7頭立て。馬場状態は Yielding 、場所により Yielding to soft という柔らかい馬場。3頭出しオブライエン勢の2頭、ヴォールト Vault とイシュヴァーナ Ishvana が飛ばして平均的な流れを作ります。
ジョニー・ムルタ騎乗のボーン・トゥー・シーは3番手に付け、先行馬を見る展開。直線、スパートして先頭を窺うとほぼ同時に、本命をマークしていた2番人気(13対8)のネフライト Nephrite がボーン・トゥー・シーを上回る切れ味で追い込み、ゴールでは本命馬に1馬身半差を付ける逆転劇です。更に2馬身4分の3差が付き、3着には後方からアーラス Aaraas が食い込みました。

逆転とは言いながら、勝ったネフライトはエイダン・オブライエン厩舎のエース格。この馬もデビュー戦に勝っただけの2戦目で、無敗馬対決を制しました。ネフライトのデビューはカラー競馬場の一般的な新馬戦だったことが、ボーン・トゥー・シーとの違いでしょうか。
鞍上ジョゼフ・オブライエンも自信を持った騎乗、ボーン・トゥー・シーの実力を測る様な乗り方でした。

この結果、ボーン・トゥー・シーは兄シー・ザ・スターズほどの器ではないことが判明。一方でネフライトの実力がどの程度かは未だ不明というのが各ブックメーカーの見方で、ネフライトの2000ギニーへのオッズは8対1から12対1まで様々。負けたとは言え将来に期待を繋いだボーン・トゥー・シーのオッズはやや下がり、12対1から14対1というのが相場のようです。

さてサン=クルー競馬場でも来年のクラシックを占う一戦が行われました。最後から二番目のGⅠ戦となるクリテリウム・インターナショナル Criterium Internationa (GⅠ、2歳、1600メートル)。
この時期らしく馬場状態は very soft 、牝馬1頭を含む11頭が出走してきました。1番人気(3対1)は前走シェーヌ賞(GⅢ)2着ながら3勝馬のサン・ペレリン Saint Pellerin 、オブライエン厩舎が送り込んだレーシング・ポスト・トロフィー4着のラーン Learn が差の無い2番人気(33対10)で続いていました。

レースは直線で抜け出したドイツ調教馬パカル Pakal とラーンの叩き合いになりましたが、後方から外に回した103対10の伏兵フレンチ・フィフティーン French Fifteen の末脚が切れ、纏めて交わして鮮やかな差し切り勝ち。
1馬身4分の1差でパカルが逃げ粘り、内に包まれて前が空いた時には勝負が決していた英国のボンファイア Bonfire が半馬身差3着。ラーンは最後で交わされ4着、本命サン・ペレリンは7着敗退です。

勝ったフレンチ・フィフティーンはニコラス・クレメント厩舎、ティエリー・テュリエ騎乗。地元フランス調教馬ながら、オーナーはロンドン在住の離婚を専門とする弁護士です。ローカル競馬を中心に4連勝したあと同じサン=クルーのトーマス・ブライアン賞(GⅢ)に挑戦して2着、もちろんG戦は初勝利となります。

惜しかったのは、不利があって3着に敗れたボンファイア。アンドルー・ボールディング師が管理する馬で、騎乗したジミー・フォーチュンは“スムースに走れれば間違いなく勝っていた” とコメント。そのフォーチュンの騎乗ミスを指摘する意見も出ていましたね。
ブックメーカーはボンファイアの負け方に注目、2000ギニーに14対1というオッズが出ました。来年はミドル・ディスタンスで本領を発揮するタイプじゃないでしょうか。

この日のもう一鞍はパース賞 Prix Perth (GⅢ、3歳上、1600メートル)。英独の参戦も含めて12頭が出走してきました。ここは、実績から断然の9対5の1番人気に支持されたシティースケープ Cityscape が期待に応えて快勝しています。

最初の2ハロンはアカルリーナ Akarlina が逃げましたが、あとはそこからハナを奪ったシティースケープの独壇場。ドイツからの遠征馬ゾンマーアーベント Sommerabend に2馬身差を付けて格の違いを見せ付けました。更に4分の3馬身差3着にアカルリーナの順。
ロイヤル・アスコットのコロネーション・ステークス(GⅠ)で2着した実力馬ノヴァ・ホーク Nova Hawk も出走していましたが、7着と凡走に終わっています。

これが3つ目のGⅢ制覇となるシティースケープは、ロージャー・チャールトン厩舎、今回も主戦のスティーヴ・ドラウン騎手が手綱を取っていました。シティースケープの5勝はいずれもドラウン騎手とのコンビです。
シティースケープのG戦勝利は、去年10月ニューマーケットでのジョエル・ステークス、今年9月カラーでのソロナウェー・ステークスに次ぐもの。前走はイタリアのGⅠ戦(ヴィットリオ・ディ・カプア賞、1マイル)で2着でした。
この後は香港のマイル戦に向かい、来期も現役に留まって最高レヴェルに挑戦したいというのがチャールトン師の意向ですが、最終決定はオーナーであるカーリッド・アブダッラー殿下の判断に委ねられるでしょう。

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