日本フィル・第272回横浜定期演奏会

11月としては異常なほどの嵐の中、みなとみらいホールで行われた日フィルの横浜定期を聴いてきました。昨日(11月19日)は季節外れの低気圧が暴れまくり、列島は突風の被害にも見舞われました。
横浜へは京浜東北線で桜木町に向かうルートですが、この日は出掛けるのに決死の覚悟が必要なほど。最寄駅の大森に着くまでにズボンはビショビショになっていましたヨ。
桜木町の荒れ様はそれ以上で、特にみなとみらい地区のビル群を吹き抜ける風の酷いこと、ほとんど傘は役に立ちません。予報では夜9時には小止みになるはずでしたが、現地で食事を終えた10時を過ぎても風雨が収まる気配は無く、結局ズブ濡れになること5度。散々な横浜行になってしまいました。

それもこれも嵐を呼ぶ男、ラザレフの所為でしょうねェ~~。プログラムは直球勝負の以下のもの。

ドヴォルザーク/チェロ協奏曲
     ~休憩~
ブラームス/交響曲第4番
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 チェロ/ピーター・ウィスペルウェイ
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 ソロ・チェロ/菊地知也

この日のプログラムは前日に日本フィルの本拠である杉並公会堂でも演奏されており、この日が二日目。杉並は小振りなホールということもあってチケットは完売だったそうです。横浜も完売にこそなりませんでしたが、客席はかなり埋まっています。横浜でもラザレフ人気は絶大。

前座は無く、いきなりの大作協奏曲。ウィスペルウェイは何度も来日しており、ラザレフとドヴォルザークを共演するには不足無いカリスマと言えましょう。
演奏は期待通り繊細さと情熱を兼ね備えたもの。ビルスマの薫陶を受けた名手だけに、単に楽器を朗々と歌わせるだけのスタイルではありません。1760年製のグァダニーニを駆使した音色は、ラザレフの繰り出すパワフルな伴奏と一歩も引けを取らず、丁々発止の名演を繰り広げました。

特に第3楽章の最後、作曲者が青春時代に書いた歌曲(恋文ともとれるもの)がヴァイオリン・ソロと共に引用されるあたりの静謐感は寂しさの極み、客席もシンと静まり返って音楽の吐息に耳を傾けるのでした。

ウィスペルウェイのパフォーマンスもラザレフ並み。盛大な拍手を背に舞台裏に引き揚げた後は楽器を置いたままカーテンコールに登場します。真っ先に見事なソロを披露した首席ホルン・福川に駆け寄ってガッチリと握手。四方の客席に答礼を重ねます。
何度目かに楽器を持って登場したのは、アンコールを弾くぞ、という合図。静かに奏でられたのは、バッハの無伴奏チェロ組曲第6番からサラバンド楽章。
後で聞いた話では、杉並でのアンコールは同第1番のサラバンドだった由。

後半はブラームス。ラザレフは前回も横浜で第1交響曲を取り上げ、それは九州公演でもプログラムに組まれていました。SACD化されているのも御存知の通り。ドイツの巨匠が演奏するブラームスとは一味も二味も違いながら、極めて説得力のある解釈でしたね。
今回の4番も同じ。ラザレフならではのブラームス表現が随所に聴かれました。

例えば第3・第4楽章のテンポの速いこと! 通常第4と言えば、枯山水的なブラームスの枯淡の境地に迫ろうとする演奏が多いのですが、ラザレフのは正に青春真っ盛りのブラームス。好き嫌いには有無を言わせず、その熱さで聴き手を圧倒するのでした。
パッサカリア楽章では、193小節から始まる ff の3連音をこれでもか、と激しく打ち付け、続く201小節からの3連音(スコアでは sf)も手を緩めることなく叩き付けます。こんな激しい第4、聴いたこと無いゾ。

どうもラザレフは自身の解釈によるボーイングを持参しているようで、他では聴かれない表現も飛び出します。
その例としては第1楽章第2主題が挙げられるでしょう。伝統的な演奏では、チェロとホルンが伸びやかに歌うテーマをヴィオラとコントラバスがリズミックに伴奏するのですが、ラザレフはこのリズムに目を光らせます。躰を右に向け、ヴィオラとコンバスに睨みを利かせ、もっと大きく!!
即ち、スタッカートが付けられた音符を全てダウン・ボウで極めて力強く弾かせる。「チャチャッ・チャッ・チャッ・チャッ・チャッ」という伴奏音型こそが主役だと言わんばかり。これによって浮かび上がるのは、ブラームスの雄々しい姿なのですね。

万事がこんな具合ですが、第2楽章の朗々たる第3テーマでも主役のチェロだけを目立たせるのではなく、細かいヴァイオリンの動きや、ヴィオラの持続音にテーマと同等の役割を担わせて音楽を立体的に構築していきます。

舞台には最初から大太鼓が設置されていました。この楽器はドヴォルザークでもブラームスでも使われませんから、演奏会が始まる前からアンコールがあることがバレバレ。

恐らくブラームスのハンガリー舞曲の一つだろうと思いましたが、響いたのは滅多に演奏されない21番。あ、そうか、これはドヴォルザークがオーケストレーションした最後の5曲のこれまた最後でしたっけね。

何度もカーテン・コールに登場して投げキスを振り撒くマエストロ、時計を指さして時間だぞ、のジェスチャー。どうやら今回の全日程を終了し、“さあ、ウォッカ・タイムだぞ。早く切り上げて飲もうじゃないか” という合図だったみたい。
その後も楽員に向かって大声で何か叫んでいましたが、後でメンバーに聞いたところ、「メリー・クリスマス」や「ハッピー・ニュー・イヤー」を繰り返していた由。次のラザレフ登場は来年3月ですからね、クリスマスも新年も済んでいる、ということ。

横浜で続けているラザレフのブラームス交響曲ツィクルス、次回は2012年3月24日の第3交響曲となります。第3? 果たしてどんな演奏になるやら・・・。

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