日本フィル・第665回東京定期演奏会

このコンビ、絶好調と言って良いでしょう。日本フィルの11月定期は東京、横浜とも首席客演指揮者のピエタリ・インキネンが指揮します。
東京は同コンビが取り組んでいる≪マーラー撰集≫の5回目、全集ではなく撰集と謳っているのがミソで、ここまで第1・3・5・6番が取り上げられてきました。何処まで続くのか気になるところですが、それは最後に・・・。今回は以下のプログラム。

シベリウス/交響詩「大洋の女神」
~休憩~
マーラー/交響曲第7番
指揮/ピエタリ・インキネン
コンサートマスター/西本幸弘(ゲスト)
フォアシュピーラー/齊藤政和
ソロ・チェロ/菊地知也

インキネンのマーラー撰集は、原則としてシベリウス作品を組み合わせるもので、今回は滅多に演奏されない「大洋の女神」という作品。
インキネンと日フィルは既に交響曲の全曲演奏を果たしていて、マーラーに組み合わせるのはシベリウスの作品の中でも余り有名ではないもの、というのがマエストロのコンセプトのようです。シベリウスは同オケにとっても、インキネンにとっても自然に共感できる作曲家で、世界的に見ても最も理想的なコンビと言えるでしょう。

大洋の女神は、私にとっても確か初めてナマで接する作品。録音で聴くと何とも茫洋たる印象で、今一つ記憶に残らない一品でもありました。今年が初演から丁度100年になる曲で、シベリウスが唯一アメリカのために書いたもの。アメリカに向かう船の中で、大洋を横切る船から見た海の光景を見ながら作曲した、と言うエピソードを聞いた覚えがあります。
複雑に絡む弦楽器が波のウネウネを表現し、その上に2本のフルートが軽やかに海神オケアノスの娘たちの踊りを演じていく。シベリウスのスコアでは「Stahlstabe」と表記された特殊打楽器のグロッケンシュピールが2台のハープとユニゾンで輝く所が中点で、2組のティンパニがクレッシェンドしながらクライマックス。
ここの弦楽器は特に大変で、3拍子とも9拍子とも取れる音符を、しかも3連音符で弾き続けなければなりません。ナマ初体験ということもありましょうが、10分程度の小品ながらダイナミクスの振幅の大きさに仰け反ってしまいました。この体験を思い出しながら録音を聴けば、今までとは違った見方が出来そう。

後半はマーラー。シベリウスとマーラーは同時代を生きた作曲家で、唯一度会った時の会話でも、二人の交響曲に対するコンセプトが全く噛み合わなかったことが伝わっています。今回の組み合わせは、演奏時間11分のシベリウスに対し、77分のマーラー。滞空時間には7倍もの差があります。
恐らくマーラーの交響曲の中では最も難解で、また人気も無いのが7番。これを何とか面白く聴かせようと工夫する指揮者も多く、良く覚えているのはN響に客演したスヴェトラーノフで、“日本ではマーラーはほとんど知られていないだろう”との配慮で終楽章の第1楽章の主題が回帰してくる箇所以下をバッサリとカットして演奏したこと。

インキネンのマーラーは、演奏後のアフタートークで司会者(オヤマダアツシ氏)が感想を述べていたように、極めて見通しの良いもの。速いテンポで、この作品の複雑な構成を解きほぐしていく印象でした。
マエストロの姿勢は正直且つ誠実。ストレートに作品そのものに語らせる行き方で、世代的にも作品への共感度が強いのでしょう。表現は緻密にしてダイナミック、各所に新たなる発見が認められる演奏。
第7交響曲は基本的には明るく清明な作品で、暗く陰鬱な場面があっても、常に明るい方向に動いて行く傾向があり、もちろん特殊楽器を総動員する大音量には不足しないものの、室内楽的なアンサンブルが魅力、と考えます。

日本フィルは、今回のゲスト・コンマス(仙台フィルのコンマス)以下、弦の各パートのアンサンブルも見事。特に金管楽器の技量は特筆もので、トロンボーンの藤原、トランペットのオットーはもちろん、ホルン首席の日橋が圧巻。第2楽章の難所(練習番号108~110)もミス一つ無く滑らかに吹き上げ、全体に対するバランスも完璧で、正に舌を巻くテクニックを披露してくれました。演奏後もケロッとしている。

私はマーラーが苦手と常々書いていますが、現在最も好きなのは7番ですね。特に中間の3楽章は音楽の美しさだけでなく、時にキャバレーの音楽だったり、機関車の駆動を連想させたりと飽きさせません。惜しむらくは終楽章の構成が難解なのが傷と思っていましたが、インキネンの演奏を聴いてその感想も大幅に改善。増々第7交響曲の魅力に嵌っていく自分を見出していました。
今回強く感じたのは、この作品は全体が左右対称の様な形になっていること。スケルツォの第3楽章を中心に、前後を「夜曲」が挟む。第4楽章の主要テーマは、実は第1楽章の主要テーマの変奏でもあり、同じ人物の成長した姿、変装した風貌と見えなくもない。コロコロ変わるテンポと曲想は、作曲者の上機嫌だと思えば、その長さは却って楽しめるのじゃないか。目から鱗のマーラー第7でもありました。

少し触れたように、今回は新企画とのことでインキネンのアフター・トークがありました。2日目も実施されるということなので簡単に紹介しますが、トークではシャワーを浴びてサッパリしたマエストロもマイク持参で登場。マーラーの7番のこと、この日の演奏に付いて(2日目はもっと良くなりますよ、と明言)、メルボルンで好評だったワーグナーのこと、次回演奏するブルックナーの第7交響曲のことなどが語られました。
更に今後について、マーラーにしてもブルックナーにしても更にオーケストラとの関係を密にしてより緻密な演奏で応えたい、とも。この場では速報として次回のマーラーは「大地の歌」であること、ブルックナーも第7が皮切りで続編もあることを示唆。更に横浜では得意のヴァイオリン演奏も披露する由。
当初は短期間と認識していたインキネン/日フィルの関係は更に継続し、深化して行くのか、ということに期待が高まるトークでした。

 

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