アケダクト最後のグレード戦
昨日の土曜日は4場で10鞍ものグレード・レースが行われました。一日に10レースものG戦が組まれるのは、今年最後のこと。事実上、アメリカのG戦線はフィナーレを迎えた感がしますね。
ニューヨーク州のアケダクト競馬場はこの後も開催が続き、ステークスも開催最終日の大晦日まで行われますが、G戦は今日が最後。またチャーチル・ダウンズは明日の日曜日が千穐楽ですが、Gレースは土曜日が最終。12月のグレード戦線は、専らカリフォルニアとフロリダが舞台となります。
ということで、今年最後となるアケダクト(4鞍)とチャーチル・ダウンズ(2鞍)から、そして冬シーズンで盛り上がるフロリダのカルダー(2鞍)とカリフォルニアのハリウッド・パーク(2鞍)からのレポートに入りましょう。
そのアケダクト競馬場、G戦4連発の最初はドモワゼル・ステークス Demoiselle S (GⅡ、2歳牝、9ハロン)。1908年にエンパイア・シティー競馬場で創設されたレースで、2歳牝馬チャンピオンを選ぶ重要な一戦として位置付けられてきました。レース名は「アネハヅル」ではなく、フランス語で「若い女性」の意味。マドモワゼル Mademoiselle は「私の御嬢さん」という意味ですからね。グレード制導入時はGⅢ、1976年にGⅡに格上げされ、更に1981年からは最高格のGⅠにまで上り詰めましたが、1990年にはGⅡに格下げされて現在に至っています。
今年の勝馬はディスポーザブルプレジャー Disposablepleasure 。10頭立て。スタートで躓き出遅れ、最後方から進まざるを得ない苦しい展開。向正面でも先頭から大きく離された最後方でしたが、3コーナー手前から一気に追い上げ、直線入口では5番手。そこから馬群を割って中を通り、先に抜け出したワイルドキャッツ・スマイル Wildcat’s Smile を内から交わして先頭に立ちましたが、再びワイルドキャッツ・スマイルが猛然と差し返し、2頭が鼻面を揃えたところがゴール。写真判定の結果、ディスポーザブルプレジャーがハナ差先着していました。3着に入線したバーボンストリートガール Bourbonstreetgirl のデヴィッド・コーエン騎手が第4コーナーの位置取りについて勝馬を訴えましたが、審議の結果、着順通りで確定しています。勝馬は、前走(10月6日、ベルモント)の未勝利戦を11馬身差で圧勝し、ステークス初挑戦ながら6対5の1番人気に支持されていました。スタートの躓きとラフな道中の不利を克服しての勝利は、2歳牝馬としては天晴な快挙と言えましょう。デビューはサラトガの芝コースで4着、2戦目はモンマス・パークのメイン・コースで2着、3戦目で初勝利を挙げていた芦毛馬で、これで4戦2勝の成績となります。
調教師はトッド・プレッチャー、騎手はラモン・ロドリゲス。
続くレムゼン・ステークス Remsen S (GⅡ、2歳、9ハロン)。ドモワゼルと対をなす2歳牡馬戦で、牝馬版より4年早い1904年創設。レース名のレムゼンは、独立戦争当時ロング・アイランド島の所有者だったレムゼン大佐に因むもの。グレード制が導入された1973年からGⅡ。ドモワゼル同様に1981年からGⅠに格上げされましたが、ドモワゼルより1年早く1989年には再びGⅡに格下げされました。
今年の勝馬はオプラード・アゲン O’Prado Again 。10頭立て。前半は7番手。ペースがスローと見て、向正面で外々を回って3番手にまで上がり、直線で逃げたスーパー・スピーディー Souper Speedy を4分の3馬身捉えて優勝。プレッチャー厩舎の1番人気(5対2)エル・パドリーノ El Padrino は頭差で3着に終わりました。勝ったオプラード・アゲンは7対1、前走4戦目で初勝利を挙げ、これがステークス初挑戦でした。ドモワゼルを制したディスポーザブルプレジャーと同じ芦毛馬。陣営によれば、冬場は暖かいフロリダで過ごすとのこと。目標は来年のケンタッキー・ダービーでしょう。
調教師はデール・ロマンス、騎手はケント・デザーモ。
シガー・マイル・ハンデキャップ Cigar Mile H (GⅠ、3歳上、8ハロン)。1988年にNYRAマイル・ハンデキャップとして創設され、翌1989年にはGⅠ戦に指定されています。1997年に現在の名称に変更。レース名のシガーは1995年のBCクラシックを制した名馬で、16連勝を達成したことでも知られています。NYRAマイルはシガーが制した最初のGⅠ戦でもありました。
今年の勝馬はトゥー・オナー・アンド・サーヴ To Honor and Serve 。6頭立て。カリブラチョーア Calibrachoa との先行争い。結局は2番手に控え、直線でカリブラチョーアを捉えると、最後方から追い込んだヒム・ブック Hymn Book を1馬身4分の3差抑えて1番人気(イーヴン)に応えました。カリブラチョーアは最後にバテ、更に2馬身4分の1遅れて3着。同馬はこれまでGⅡに3勝していましたが、BCクラシックは7着に終わり、より短い距離を選んでのGⅠ初勝利です。トゥー・オナー・アンド・サーヴは去年のレムゼン・ステークスの勝馬、その後脚部故障から復帰し、今年はペンシルヴァニア・ダービーで3つ目のGⅡ戦を制していました。
調教師ウイリアム・モットはこのレース、レース名にもなったシガー Cigar で制して以来の勝利。騎手はホセ・レズカノ。
ガゼル・ステークス Gazelle S (GⅠ、3歳牝、9ハロン)はアケダクト最後のグレード・レースであり、最後のGⅠ戦でもあります。1887年にグレーヴセンド競馬場で創設され、1917年以降はアケダクト競馬場とベルモント競馬場で行われてきました。グレード制が導入された1973年にはGⅡに格付けされていましたが、ミス・オーシアナ Miss Oceana が勝った
1984年からGⅠに格上げされました。以前はBCのトライアルとして行われていた時期もありましたが、現在はBCが終了してからの施行です。
今年の勝馬はオウサム・フェザー Awesome Feather 。8頭立て。こちらも2番手からの抜け出しての貫録勝ち。渋太く逃げ粘るラヴ・アンド・プライド Love and Pride を 直線中程で捉え、ドロウ・イット Draw It の追い込みを5馬身4分の1差突き放す圧勝で1番人気(3対2)に応えました。去年のBCジュヴェナイル・フィリーズの覇者にして最強2歳牝馬、故障で戦線を離脱していましたが、これが復帰後の2戦目、1年振りのGⅠ勝利となります。通算成績は8戦無敗のパーフェクト。
調教師はチャド・ブラウン、去年まではスタンレー・ゴールド厩舎が管理していましたが、今年からブラウン師の元に転じています。騎手ジェフリー・サンチェスは、オウサム・フェザーの全てのレースに騎乗する良きパートナー。
フロリダはカルダー競馬場のフレッドWフーパー・ハンデキャップ Fred W. Hooper H (GⅢ、3歳上、9ハロン)。1984年にトロピカル・パーク・ハンデ Tropical Park H として創設。1997年にオーナー・ブリーダーとしてフロリダの競馬界に功績を残したフレッド・W・フーパー氏を記念して改名されました。
今年の勝馬はジマネイター Jimanator 。8頭立て。前半は内々の中団に待機していましたが、3~4コーナーの間で外に出し、1番人気マンボ・マイスター Mambo Meister との叩き合いを4分の3馬身制して優勝、ステークス・デビューを勝利で飾りました。これまで34戦10勝、度々クレーミング・レースで所有権が移ってきた馬です。
調教師はマイケル・トロンベッタ、騎手はジョー・ブラーヴォ。
WLマックナイト・ハンデキャップ W.L.McKnight H (芝GⅡ、3歳上、12ハロン)。レースの履歴が今一つ明らかでなく、恐らく1973年の創設。1976年からGⅢ、1983年?からGⅡと順次ランクが上がってきた芝の長距離戦。
今年の勝馬はマスケティアー Musketier 。9頭立て。前半は3番手。第4コーナーで巧く最内を衝いて抜け出し、シマード Simmard の追い上げを半馬身凌いでの優勝。アトフィールド厩舎のワン・ツー・フィニッシュでした。勝ったマスケティアーは今年9歳になるドイツ産の芦毛の牡馬で、G戦は6勝目。2歳時にはフランスでGⅢに勝った馬で、一昨年からアメリカに転戦、今年のカナダ国際招待では6着でした。
調教師はロジャー・アトフィールド、騎手はルイス・サエス。
こちらもフィナーレを迎えたチャーチル・ダウンズ競馬場からは2鞍。ゴールデン・ロッド・ステークス Golden Rod S (GⅡ、2歳牝、8.5ハロン)。1910年創設の歴史ある2歳牝馬戦。レース名のゴールデン・ロッドは、ケンタッキーの州花ともなっているアキノキリンソウのこと。黄色い可憐な花を付けるキク科植物で、アラバマ州やネブラスカ州の州花にもなってる通り、北米には多く見られます。日本でもその一種であるセイタカアワダチソウが帰化して蔓延っていることは御存知でしょう。「セイタカアワダチソウ賞」では興醒めですが・・・。
今年の勝馬はオン・ファイア・ベビー On Fire Baby 。10頭立て。スタートから先頭を奪い、終始内ラチ沿いの経済コースを通って他馬を寄せ付けず、2着以下に6馬身4分の1の大差を付けて圧勝。ここではスピードが違うという印象でした。2着にはゴールドラッシュ・ガール Goldrush Girl 。前走ポカホンタス・ステークス(GⅡ)に続くG勝利で、これで4戦3勝。唯一の敗戦はアルキビアデス(GⅠ)の5着だけです。陣営ではケンタッキー・オークスに加え、ケンタッキー・ダービーにも登録を済ませた由。牡馬を超える牝馬との期待が高いようです。
調教師はゲイリー・ハートレージ、騎手はジョー・ジョンソン。
ケンタッキー・ジョッキー・クラブ・ステークス Kentucky Jockey Club S (GⅡ、2歳、8.5ハロン)。セイタカアワダチソウ、じゃなかった、ゴールデン・ロッドの牡馬版に相当するのがこれ。1920年創設で、このレースの勝馬で翌年に同じチャーチル・ダウンズでケンタッキー・ダービーを制したのはこれまで5頭います。即ち、1928年のレイ・カウント Reigh Count 、翌1929年のクライド・ヴァン・デューセン Clyde Van Dusen 、1931年のトゥエンティー・グランド Twenty Grand 、1974年のキャノネード Cannonade 、そして2010年のスーパー・セイヴァー Super Saver です。
今年の勝馬はジェモロジスト Gemologist 。11頭立て。スタートから先行した2頭の争い。2~3番手の外に付けたジェモロジストが、直線でエヴァー・ソー・ラッキー Ever So Lucky を1馬身4分の3差競り落として優勝、無敗の連勝記録を「3」に伸ばしました。2年前にこのレースを勝ち、ケンタッキー・ダービーをも制したスーパー・セイヴァー Super Saver と同じ馬主/調教師のコンビです。果たして来年のダービーや如何に。
調教師はトッド・プレッチャー、騎手はハヴィエル・カステラノ。
ハリウッド・パーク競馬場のヴァーノン・オー・アンダーウッド・ステークス Vernon O. Underwood S (GⅢ、3歳上、6ハロン)。アンダーウッド・ステークスはオーストラリアのGⅠ戦が有名ですが、勿論それとは別のレース。1981年にナショナル・スプリント・チャンピオンシップ・ステークス National Sprint Championship S として創設されましたが、1990年に現在のレース名に改称されました。現レース名は、競馬界に貢献したカリフォルニアのビジネスマンに因んだもの。
今年の勝馬はパシフィック・オーシャン Pacific Ocean 。9頭立て。1番枠から飛び出し、有無を言わせぬ逃げ切り勝ち。終始インコースを通り、後続の追い上げを封じ込めています。2着にも2馬身4分の1差で2番枠のイレフュータブル Irrefutable が内からスルスルと伸びて食い込みました。ミッチェル厩舎に転厩したばかりのパシフィック・オーシャンは4歳せん馬で、未だ6戦4勝とキャリアの浅い馬、G戦初勝利のここは5番人気(7対1)に甘んじていました。
調教師マイク・ミッチェルは、11月24日にハリウッドでの860勝目を記録してチャーリー・ウィッティンガムの記録を塗り替えて単独2位(首位はボビー・フランケルの952勝)に上がったばかり、記念すべき週末になりました。騎手はジョエル・ロザリオ。
サイテイション・ハンデキャップ Citation H (芝GⅡ、3歳上、8.5ハロン)。第1回は1977年にリステッド戦として開催。翌1978年にGⅡに格付けされましたが、1979年はGⅢに降格されたりG戦から外されたりの紆余曲折を経、ゾッファニー Zoffany が勝った1985年からはGⅠに昇格したことも。その後もGランクは昇降を繰り返し、一向に定着する兆しの見えない一戦です。今年はGⅡ。レース名のサイテーションは、言うまでもなくアメリカ三冠に輝いた名馬に因むもの。
今年の勝馬はジェラニモ Jeranimo 。9頭立て。前半は6番手からの競馬。直線では5頭分の外を通り、他馬の脚が止まって見えるほどの鋭い末脚で差し切りました。最後はジョッキーが手綱を抑えるほどの余裕で1番人気(8対5)に応えています。2馬身4分の3差2着にはスタートで立ち遅れたウォー・エレメント War Element の順。BCマイルは7着に終わったものの、ここでは格の違いを見せ付けた感じ。
調教師はマイケル・ペンダー、騎手はギャレット・ゴメス。
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