日本フィル・第636回東京定期演奏会

久し振りのブログ更新です。
12月に予定している演奏会は僅かですし、今年は年末の「第9特別演奏会」も聴きません。室内楽も先月聴き過ぎたので、今年は終了。残るは会員になっているオケの定期だけで1年を終えることになりそうです。

ということで昨日は日フィルの東京定期をサントリーホールで聴いてきました。若手指揮者の中でもっとも勢いある存在、とプログラムにも紹介されている山田和樹の登場で、以下のプログラム。

ドビュッシー/牧神の午後への前奏曲
モーツァルト/交響曲第31番「パリ」
     ~休憩~
ベルク/「ルル」組曲
ラヴェル・ラ・ヴァルス
 指揮/山田和樹
 ソプラノ/林正子
 コンサートマスター/木野雅之
 フォアシュピーラー/江口有香
 ソロ・チェロ/菊地知也

私が新ヤマカズを聴くのはこれが二度目。今年4月の日フィル定期をインキネンのピンチヒッターとして聴いて以来のことです。山田の指揮スタイルや感想についてはその時にやや詳しく書きましたので、ここでは繰り返しません。
その後もスイス・ロマンド管の首席客演指揮者に選ばれたり、パリ管(チャイコフスキーの悲愴)やBBC響(ラフマニノフの第2)での成功のニュースも入ってきました。
日本のプロ・オケ定期では、日フィルの他にアンサンブル金沢とセントラル愛知でデビュー、来期は仙台フィルや大阪フィルの定期登場も決まっているようです。日本フィルは今回に続き来年の11月定期も振りますから、既に東京だけで3回登場は余程期待が高いということの証でもありましょう。
乗り遅れないように、ということでしょうか。

今回の選曲は、プログラム・ノートにもある如く、センスの良さが光ります。と言っても山田本人の選択だけではなく、半分はオーケストラ側からの要望が入っていることを忘れちゃいけません。聞いたところでは、ベルクは山田自身の意思だそうです。

裏読みをするファンなら気が付くと思いますが、テーマに前半はパリ、後半にはウィーンが隠れているのが憎いですね。しかも4曲夫々に作曲家のリスペクトが存在することも。
即ち、ドビュッシーにはマラルメ、モーツァルトにはパリの聴衆、ベルクには劇作家ヴェデキント、そしてラヴェルにはヨハン・シュトラウスという具合です。ま、偶然であったにとてもプログラムにセンスを感じさせるところが、スターの素質を先取りしていると言えなくもありませんナ。

ということで、前回も感じた日本フィルとの相性の良さを追体験したコンサートでした。
一言でいえば「清新」ということでしょう。音楽に癖が無く、爽やかに流れる。モーツァルトの第2楽章も8分の6拍子を二つに振って、音楽の自然な歌を大切にしていきます。これは前回の天国繋がりのプログラム(モーツァルト+マーラー)とも共通する瑞々しさ。
しかし反面では物足りなさも覚えてしまうのは止むを得ない所で、強力な推進力や強い意志表現には拘りが無い様子。それはドビュッシーでも等しく感じました。

後半のベルクのみスコアを置いての指揮。自らの選曲ということもあって、マーラー→ベルクという路線が彼の本来最もやりたい音楽なのかもしれません。
組曲は「ロンド」「オスティナート」「ルルの歌」「変奏曲」「アダージョ・ソステヌート」の5楽章から成り、定期と雖も最近では演奏機会は稀なようです。

特に面白いのはオスティナート楽章で、全体は73小節。丁度真ん中の37小節目を境に前半と後半が鏡のように逆行する仕掛け。スコアを見ていると実に面白いのですが、音だけ聴いていてこの仕掛けに気付く人はほとんどいないでしょう。今回の曲目解説でもそこまでは触れていませんでした。
また全体を通して「死のリズム」が使われるのも聴き所で、ルルの歌以外の全ての楽章にこのリズム(ダ・・ダ・・ダダ)が出てきます。特に第1曲と第5曲がこのリズムで締め括られるので、全体に統一感も生まれてきます。

変奏曲の主題は最初にホルンで登場し、コーダでは手回しオルガン風に木管で奏されるのですが、実はフランク・ヴェデキント(ルルの台本作者)自身の書いた「リュートの歌」というメロディーなんですねェ。
更に言えば、アダージョの後半(78小節)に fff で強烈に鳴らされる不協和音は、殺されるルルの「死の叫び」。

当日のプログラムにはこうした音楽の「肝」に関する解説が全く無く、初めて聴く人には不親切じゃないでしょうか。土曜日にはプレトークがあるそうなので、恐らくその場ではもっと詳しく触れられるのでしょうが・・・。

ルルの歌とアダージョで夫々ルル、ゲシュヴィッツ伯爵のパートを歌った林正子は、爛熟したドイツの後期ロマン派を得意にするソプラノ。音楽が完全に頭に入っていて、この難しいパートを暗譜、指定通りのメリスマを駆使して歌い切りました。
ジュネーヴ在住の彼女は、二期会のサロメで主役を演じましたし、アチラでツェムリンスキー(フィレンツェの悲劇)を演じてきたばかりなのだとか。スケールの大きな国際派の名に恥じない歌唱力を披露してくれました。

山田の棒もベルクらしさを良く表現していたと思いますが、上記の「肝」が今一つ明瞭でない部分もあって、オケのバランスに課題があったように思いましたがどうでしょうか。

最後のラヴェル。この日唯一の派手な音響のする作品とあって、速目のテンポで大いに演奏会を盛り上げました。実際、客席の反応も大受けです。
但し、この作品が本来内包している(筈の)グロテスクな面はやや薄れた感じ。指揮者の興奮がテンポにそのまま反映されてしまうので、その乖離から生まれる「感動」にまでは至りません。

どうも山田和樹は日本よりも海外での注目度が高いようで、この日も客席の外人比率の高さが目立ちました。月並みですが、私にとってはまだまだこれからの指揮者。最終的な品定め(言葉は悪いけれど)は、様々なレパートリーに接してからでいいでしょう。

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