日本フィル・第295回横浜定期演奏会

都合により三日遅れのレポートになってしまいましたが、3月22日の土曜日に横浜みなとみらいホールで行われた演奏会の記録です。

日フィル横浜2013-14シーズン後期のスタートは、首席ラザレフの指揮、ドイツ・ロマン派を代表する名曲を並べたプログラムでした。
ラザレフと言えば第一にロシア音楽に指を折るべき巨匠ですが、ドイツ音楽にも造詣深きマエストロ。特にブラームスは得意としているようで、横浜定期ではシリーズの様にして取り上げてきました。交響曲は今回で全4曲が完結します。

シューマン/ピアノ協奏曲
     ~休憩~
ブラームス/交響曲第2番
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 ピア/小菅優
 コンサートマスター/江口有香

ブラームスの交響曲では最も明るい4番に合せるのは、シューマンの美しいピアノ協奏曲。開演前にホワイエで開催される恒例のプレトークで奥田佳道氏も触れていたように、シューマンとブラームスの間には名花クララの存在があったことを意識させる、「愛」を隠れテーマとするプログラミングですね。
私は残念ながら聞けませんでしたが、前日に同じプログラムで行われた埼玉定期では何とラザレフ本人がプレトークを行ったとかで、そこでも「男女の深い仲」について熱く語られた由。予定の時間を10分もオーバーした熱弁で、演奏が終了したのも10分後ろにずれ込んだという情報もゲットしました。

ということでシューマン。奥田氏はロバートがクララのダヴィド同盟員名「Chiarina」を音名にしたテーマと紹介されていた通り、ドシラと下降する動機が何とも切なく響きます。
今回選ばれたソリストは、ドイツ物を得意にする小菅優。彼女のピアニズムは、抜けるような高音を輝かせるスタイルとは違って内声部に厚みを加えるもの。肉厚な音楽でシューマンらしさを引き出していました。第3楽章の速いテンポはラザレフの指示か、小菅の要望か?

小菅のアンコールはシューマンの歌曲「献呈」をリストがピアノ独奏用にアレンジしたもの。この歌曲もロバートがクララに贈った愛の告白の一つで、正に今回の選曲に相応しい一品と言えましょう。トロイメライではなく、敢えてリストがアレンジした小品を選んだ辺り、小菅のくぐもった音色に良くマッチしていたと思います。

さてブラームス。難産で晦渋な第1番とは好対照、一気に書き上げた楽しい気分横溢の第2は、クララは“ブラームスは上機嫌で絶好調”と書き、ブラームス本人も“特別に新婚カップルのために作曲したのさ”と述べるほどウキウキとした夏の空気に包まれています。
ラザレフもその辺りを表現しているのでしょうが、相変わらず速いテンポが特徴。その速さは物理的な速度ではなく、通常はややスピードを落とすような個所でも一切ブレーキに手を掛けず、そのままの速度で通してしまうことから感じられる「速さ」なのです。第1楽章(繰り返しは省略しました)の第2主題、第4楽章の第2主題がその好例。

更に言えば、第2楽章を四つ振りではなく八つ振りで開始したのもその一つ。四つで振ったのは主部の副次主題(ホルンのソロ)位のもので、中間部の8分の12拍子なども12拍で振るほどの慌ただしさ。マエストロの指揮姿を見ていると、何とも忙しいブラームスに聴こえてしまうのでした。
特にクライマックスとなる終結部の6連音が続くパッセージ(87小節から91小節にかけて)では、指揮台を降りてヴァイオリンの前で仁王立ち。弓を一杯に使って6連音を弾け、という指示でしょうが、パッション有り余るラザレフに圧倒される一場面でした。
第4楽章フィナーレのブラス・セクションの炸裂は正にラザレフ節。

何度かのカーテンコールのあとでマエストロが花束を持って登場、コンマスの江口氏を指揮台に上げて花束贈呈。二人で指揮台に立ち、手を繋いだままアンコールにエルガー「愛の挨拶」を演奏するハプニング? まるで退団する楽員を祝福するような光景でした。
江口氏が団を離れるという話は聞いていませんでしたし、プログラムにも一切記載がありませんでしたから、私も当初は今回のプログラムのテーマである「愛」をラザレフ風に表現したものかと思ってしまいました。
しかし後で事務局に問い質したところでは、やはり江口氏はこの3月で契約が満了する由。その発表は、後日に過去形でプログラム誌上で成されるとのことでした。従って彼女がコンマスの肩書で定期を纏めるのは今回が最後。特にラザレフお気に入りのコンマスだったたげに、マエストロの愛情表現もクララに対するシューマン/ブラームス師弟並みだったということなんですネ。

コンサートマスターの退団記念に「愛の挨拶」をアンコールしたと言えば、去年読響を終えたノーランに対してテミルカーノフが選んだのと同じ。それでもノーラン氏は現在もゲストとして同オケのコンサートマスターとして登場していますから、恐らく江口氏もゲストに迎えられる機会があるのではと期待します。
本来はアメリカで活動してきた江口、今後もアメリカを中心に活躍の場を広げていくとも聞きました。今までとは雰囲気を変えて「緑の黒髪」で臨んだのは、日本人女性としての存在をアピールするためのイメージ・チェンジだったのかも。今後の更なるご活躍を祈念いたしましょう。

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