サルビアホール クァルテット・シリーズ第7回

サルビアホールのクァルテット・シリーズ、その第3シリーズがスタートしました。実は急遽エクの試演会が決まったのですが、そちらを泣く泣くパスして鶴見に出掛けました。
重鎮、澤クァルテットの登場ですが、私は初めてのナマ体験です。プログラムは正統も正統、ウィーンを代表する名曲ばかりがズラリ。

モーツァルト/弦楽四重奏曲第17番 変ロ長調K.458「狩」
シューベルト/弦楽四重奏曲第13番 イ短調D.804「ロザムンデ」
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第8番 ホ短調作品52-2「ラズモフスキー第2」
 澤クァルテット

敢えて予習する必要も無いようなお馴染み作品ばかり、やや緊張感を欠きながら定席に着きます。

例によって簡素なプログラムですが、出演者のプロフィールを転記すると、メンバーは以下の4氏。
第1ヴァイオリン/澤和樹、第2ヴァイオリン/大関博明、ヴィオラ/市坪俊彦、チェロ/林俊昭。結成は1990年11月で、以来20年に亘ってメンバーの交代は無いそうです。不動の4人。
アマデウスQとの共演や海外公演の成功、長岡や豊田市での定期的な演奏などを通じて日本を代表するアンサンブルに。現在は若手育成にも力を尽くしている由。メンバー個々の紹介はありませんが、ファーストとチェロは様々な機会で接したことのあるお馴染みの顔です。

ステージ上の椅子と譜面台はかなり奥。左から音高の順にファースト→セカンド→ヴィオラ→チェロの順に並びますが、通常の団体に比べてファーストとチェロが奥に入っているので、極端なことを言えば4人が横一列に並んでいるような感じに見えます。
特に海外の団体で目立つアイ・コンタクトや激しい格闘技は見られず、各自がそれぞれのパート譜に没頭して弾く感じ。しかしアンサンブルは見事なものでした。

説明の必要もない作品ばかりですから個々の感想は省略しますが、その演奏は正にお手本そのもの。さぁ弾くゾ、という気負いは全く無く、次から次と登場する楽章をサラリと音にしていくのでした。
曲目の並びも次第に情感が濃くなっていくように配慮されており、遠慮勝ちではありながら、音楽のスケールも徐々に大きさを増していきます。

ほとんど表情を変えずに淡々と弾く4人ですが、実は面白いオッサン達だろうという想像は、見事にアンコールで的中しましたね。
澤リーダーが、“クァルテット通のお客様と見受けられますが、”と言って告げたアンコール作品は、ペーター・ハイドリッヒの「ハッピー・バースデイ変奏曲」(*)。

これが実に面白く、これまで行儀良く聴いていた客席も一気に沸きます。私も実は初めて聴いたものですが、この日はその一部を次の順番で取り上げました。即ち、
1.主題(例の、ハッピー・バスデイ・トゥー・ユーです。客席にこの日が誕生日の人はいませんでしたが)
2.ウィーンからのメッセージ(原曲の第10変奏。ウィーン音楽風)
3.ハリウッドからのメッセージ(第11変奏。弱音器を付け、映画音楽風)
4.ニューヨークからのメッセージ(第12変奏。ジャズ風)
5.アルゼンチンからのメッセージ(第13変奏。タンゴ風)
6.ハンガリーからのメッセージ(第14変奏で終曲。チャルダッシュ風)

彼らは百戦錬磨の音楽家、作品が取り入れた音楽の特徴をこれ以上ないほど見事に、かつ大袈裟に捉え、真面目に演奏すればするほどユーモアが立ち上がってきます。特にアルゼンチンタンゴは秀逸、時に澤ファーストが顔を鋭角的に横に向け、恰もタンゴを踊っているフリ。失礼ながら、あの顔で真剣に演技するので、これはもう抱腹絶倒の世界でしょう。
それにしてもクァルテットの世界には色々な文献があるものよ。

ということで、聴き進むほどに味わいが深くなる一晩でした。

終わってホールを出ると鶴見は雨。ところが京浜東北で北上し、多摩川を渡った途端に雪に替ります。大森に着いた時には見る間に積もっていくほどの大雪。
それでも僅か3駅、歩く時間を入れても30分で帰宅できるロケーションは実に有難いと思いましたね。

(*)全曲は主題と14の変奏曲から構成。この日は第10変奏から第14変奏までが続けて演奏されました。
他は、第1変奏(バッハのコラールに似せたもの)、第2変奏(ハイドンの皇帝を取り入れたもの)、第3変奏(モーツァルトの不協和音が元ネタ)、第4変奏(ベートーヴェンのラズモ2番3楽章とのコラボ)、
第5変奏(シューマン3番の第2楽章を使用)、第6変奏(ブラームスの弦楽六重奏をパクッたもの)、第7変奏(ワーグナーのジークフリート牧歌風)、第8変奏(ドヴォルザークのアメリカをパロったもの)、第9変奏(レーガーが使われている由)

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