マイク・スミス騎手の5千勝達成、と

ケンタッキー・ダービーを丁度1か月後に控えた土曜日、アメリカの4つの競馬場で合計9鞍のグレード・レースが行われました。内7鞍がクラシックのトライアル、また4鞍はGⅠレースという豪華版です。

最初はアケダクト競馬場から4つのG戦。冬場の内コースに替って外のより広いメイン・コースが舞台です。この日は fast の馬場、レース順に回顧して行きましょう。
最初は第7レースとして行われたカムリー・ステークス Comely S (GⅢ、3歳牝、8ハロン)。1頭取り消しがあり、6頭立てで行われました。
トッド・プレッチャー厩舎期待のブロードウェイズ・アリバイ Broadway’s Alibi はこれまで無傷の3連勝、特に前走フォワード・ギャル・ステークス(1月29日、ガルフストリームのGⅡ)で16馬身4分の3差で逃げ切った実績が買われて文句ない6対5の1番人気。1マイルは初めて臨む距離でしたが、ここもスタートからハナを切っての逃げ切り勝ちで連勝を「4」に伸ばしました。
2着は3馬身差で3番人気(4対1)のウエルカム・ゲスト Welcome Guest 、3着にも1馬身半差で2番人気(7対5)のミリオンリーズンズホワイ Millionreasonswhy が入り順当です。鞍上ハヴィエル・カステラノ騎手もムチに頼ることなく、腕と踵だけの余裕の勝利。
プレッチャー師によれば、ブロードウェイズ・アリバイはフォワード・ギャル圧勝のあとスウェイル・ステークスで牡馬に挑戦する計画もあったようですが、結局はカムリーを選んだ由。順当に無傷のままケンタッキー・オークスに向かうことになるでしょう。

続いて第8レースのベイ・ショア・ステークス Bay Shore S (GⅢ、3歳、7ハロン)。8頭立て。例年このレースはケンタッキー・ダービーへのトライアルとは見做されません。距離が7ハロンですし、ダービーに向かう馬は次に行われるウッド・メモリアルをステップにするからです。しかし今年は様相が異なり、トリニーバーグ Trinniberg を調教するビスナート・パルボー調教師がこのレースを順当に勝てばダービーに向かうと宣言していました。そのトリンニバーグが6対5の1番人気。
そしてレースは、一つ前のカムリーと同じく1番枠から好スタートを決めたトリニーバーグが余裕の逃げ切り勝ち。同馬とコンビを組むウィリー・マルチネス騎手も直線では持ったまま、順当に2着に入った2番人気(7対5)ハードンド・ワイルドキャット Hardened Wildcat に3馬身差を付けていました。更に5馬身半の大差が付いて3着も順当に3番人気(6対1)、プレッチャー厩舎のハウ・ドゥー・アイ・ウィン How Do I Win 。
トリニーバーグは前走スウェール・ステークス(GⅢ)を6馬身差で逃げ切った馬、その際に三冠レースには登録が無いと紹介しましたが、陣営は追加登録料を支払ってもダービーに向かう意向のようです。ダービーがダメならプリークネス、というコメントも出されました。

そして愈々ケンタッキー・ダービーに向けての最も重要なトライアルと位置づけられるウッド・メモリアル・ステークス Wood Memorial S (GⅠ、3歳、9ハロン)。もちろん今年ニューヨークで行われる最初のGⅠ戦でもあります。出走馬は8頭。6対5の1番人気に推されたジェモロジスト Gemologist は又してもトッド・プレッチャー厩舎のエリート、ここまで4戦4勝と無敗の期待馬。二つ前のカムリー・ステークスと同じハヴィエル・カステラノ騎乗で万全の態勢です。
レースは最初のコーナー(クラブハウス・ターン)に向けて各馬が殺到、ゴチャ付く場面が見られました。ジェモロジストも好スタートから先頭争いに加わりましたが、ハナをザ・ランバー・ガイ The Lumber Guy に譲ってここは一旦3~4番手に控えます。直線、外3頭分を通って先頭に抜けてリードを広げましたが、2番人気(2対1)に推されたゴドルフィンの持馬アルファ Alpha が外から猛追。一旦は並ばれる場面もありましたが、ジェモロジストは競り合いも譲らず、結局は長めの首差で人気に応えました。3着は3馬身差が付いてステークス初挑戦の穴馬(53対1)ティース・オブ・ザ・ドッグ Teeth of the Dog 。
ジェモロジストはこれで5戦5勝、無敗のままケンタッキー・ダービーに出走します。2歳時は3戦、ケンタッキー・ジョッキー・クラブ・ステークス(GⅡ)の勝鞍があり、G戦は2勝目。今シーズンはガルフストリームのアローワンスに勝っただけで、ダービーへの切符を手にするにはここで2着までに入る必要がありました。2着のアルファはニューヨークの内コースでステークスに2勝しており、ダービー出走にはここでの3着以内が条件、もちろんこの馬もゴドルフィンの期待を背負ってダービーに向かうでしょう。

さてこの日のメインは、短距離のGⅠ戦カーター・ハンデキャップ Carter H (GⅠ、3歳上、7ハロン)。6頭が登録していましたが、当日の朝に出れば人気になるカリブラチョーア Calibrachoa が取り消してしまいます。アケダクトでG戦5勝とコースのスペシャリストですが、前走で痛めた肩の傷が思わしくなく、ここはプレッチャー師の判断で大事を取ったとのこと。
残った5頭の実績には大きな差は無く、最終的にイーヴンの1番人気になったのはトップ・ハンデ(122ポンド)のケーブルズ・ポッセ Cable’s Posse でした。昨夏サラトガでGⅠ勝ち(キングズ・ビショップ・ステークス)、BCダート・マイルも制した強豪です。
レースは3番人気(3対1)、去年のプリークネス・ステークス優勝馬シャックルフォード Shackleford が飛ばしましたが、4番手を進んだ最低人気(と言っても4対1ですが)のジャクソン・ベンド Jackson Bend が直線入口でシャックルフォードを捉え逃げ込み態勢。そこに後方で控えた本命ケーブルズ・ポッセが鋭く襲い掛かったところがゴール。写真判定の結果、ジャクソン・ベンドがハナ差でケーブルズ・ポッセを抑えていました。交わされたシャックルフォードも流石はクラシック・ホース、1馬身半差踏みとどまって3着をキープしています。ゴドルフィンの2頭、エムシー Emcee とタヒチアン・ウォリアー Tahitian Warrior がカップルで2番人気(2対1)に支持されていましたが、夫々4着と5着。
ジャクソン・ベンドは去年のフォアゴ・ステークス(GⅠ)を含めて7ハロンは4戦して負け知らず。去年のBCスプリントでも3着した実力馬で、今シーズンはガルフストリームでハルズ・ホープ・ステークス(GⅢ)を制していました。管理するニコラス・ジート調教師にとってカーター・ハンデは、去年のモーニング・ライン Morning Line に続く2連覇。またフォアゴでも同馬にしていたコーリー・ナカタニ騎手は、取り消したカリブラチョーアに騎乗する予定だったジョン・ヴェラスケスに替って同馬への騎乗復帰を果たしていました。

次は前日に開催がオープンしたばかりのキーンランド競馬場から。初日は3歳牡馬の芝戦でしたが、二日目の昨日は3歳牝馬のポリトラック戦、アシュランド・ステークス Ashland S (GⅠ、3歳牝、8.5ハロン)。fast の馬場状態に7頭が出走。イーヴンの1番人気は、去年の秋に同じキーンランドでアルシバイアディース・ステークス(GⅠ)に勝ったステファニーズ・キッテン Stephanie’s Kitten 。アルシバイアディース/アシュランドのダブルはこれまで4頭が達成していて、5頭目の快挙に期待が掛かっていました。彼女は芝でもポリトラックでも能力を発揮するタイプ、BCではジュヴェナイル・フィリーズ・ターフに挑戦して見事に栄冠を勝ち取っています。
しかしここは波乱になりました。まんまと逃げ切ったのはブービー人気(15対1)のカルロヴィー・ヴァリー Karlovy Vary という伏兵。2着には4分の3馬身差でこれまた人気薄(10対1)のハード・ノット・トゥー・ライク Hard Not to Like が食い込み、本命ステファニーズ・キッテンは5番手から進出したものの1馬身半差離されての3着に終わっています。
カルロヴィー・ヴァリーはステークス初勝利、2歳時は4戦して1勝でしたが、勝ったのはここキーンランドでのこと。それ以後ステークスには二度挑戦しましたがいずれも7着に敗退、人気が無かったのは当然でしょう。
ジョージ・アーノルド調教師は、同じオーナーとのコンビで一昨年のアシュランドで2着(イッツ・ティー・タイム It’s Tea Time)したことがあり、念願のレース初制覇です。騎手はジェームズ・グレアム。陣営はケンタッキー・オークス挑戦を明言しました。

続いてはホーソン競馬場に行ってみましょうか。この日は名物イリノイ・ダービー Illinois Derby (GⅢ、3歳、9ハロン)が行われます。ここは大混戦で、フルゲートは14頭ですが17頭が登録、結局は3頭が除外となりました。馬場は fast 。
5対2の1番人気には2歳時にホープフル・ステークス(GⅠ)に勝ったGⅠ馬カレンシー・スワップ Currency Swap が推されていましたが、故障でBCジュヴェナイルを回避した馬、シーズン2戦目で死角はあります。
不安は的中してカレンシー・スワップは11着大敗、優勝は12対1の人気薄ダン・トーキング Done Talking でした。3番手を進んだモーガンズ・ゲリラ Morgan’s Guerrilla が直線で速目に先頭に立ちましたが、内を衝いて追い込んだダン・トーキングが4分の3馬身交わしての勝利。更に1馬身半差でハカマ Hakama が外から3着に追い込んでいます。
ハミルトン・スミスが調教、シェルドン・ラッセルが騎乗したダン・トーキングは、前走ガッサム・ステークス(GⅢ)では10着、勝馬から21馬身も離されて大敗を喫していましたが、ここでは馬が変わったようにG戦初制覇を果たし、ダービーへの切符を手にしました。

最後にサンタ・アニタ競馬場です。この日のメインはもちろんサンタ・アニタ・ダービー Santa Anita Derby (GⅠ、3歳、9ハロン)ですが、この日3鞍組まれたG戦のトップを切って行われました。馬場は fast 、1頭取り消しがあり9頭立て。全馬122ポンドの馬齢重量戦。前走サン・フェリペ・ステークス(GⅡ)で復活、冬場はダービー3強の1頭と目されていたクリエイティヴ・コース Creative Cause が9対10の圧倒的1番人気です。今回は初めてブリンカーを外しての出走がどう影響するか、これも見どころの一つでした。
しかしレースは小波乱、最後はスリリングな結末が待っていました。思い切って逃げたのは、42対1という最低人気のブルースカイズンレインボウズ Blueskiesnrainbows という舌を噛むように長ったらしい名前の馬。ところがこの大穴の逃げは直線に入っても中々止まりません。1番枠から出て5番手の内で待機した本命クリエイティヴ・コースが漸く直線半ばで逃げ馬を外から捉えにかかりましたが、本命をマークするようにその外から迫った2番人気のアイル・ハヴ・アナザー I’ll Have Another が外から追い込み、結局は3頭が雁行する形でゴール。優勝はアイル・ハヴ・アナザーが攫い、クリエイティヴ・コースはハナ差2着の惜敗。逃げたブルースカイズンレインボウズが半馬身差3着に粘って観客を沸かせました。3番人気(6対1)に支持されたリエゾン Liaison は奮わず6着敗退。
見事に金星を射止めたアイル・ハヴ・アナザーはダグ・オネイル師の管理馬、マリオ・グティエレス騎乗。前走ロバート・B.ルイス・ステークス(GⅡ)を43対1の大穴で制した馬で、それ以来2か月ぶりの実戦でした。オネイル師によれば、間隔を空けたことに批判はあったものの馬の新鮮さを保つための戦略、ハリウッドでみっちり調教を積んで万全の態勢で臨んだのが好結果に繋がったとのこと。同馬はここまで僅か5戦のキャリアでケンタッキー・ダービーに臨むことになります。
一方敗れたクリエイティヴ・コース、ブリンカーを外したのは将来を考えてのことでしょうから、負けたとはいえハナ差の2着、本番への仕上げは順調と見て良いでしょう。負けてなお強し、と言った印象でしょうか。

さて大忙しの土曜競馬も残り2鞍、急いでレポートを続けましょう。先ずは第8レースに組まれたプロヴィデンシア・ステークス Providencia S (芝GⅢ、3歳牝、9ハロン)。芝コースは firm の発表です。2頭が取り消して5頭立ての寂しいメンバー。
ここは4対5の1番人気に支持されたレディー・オブ・シャムロック Lady of Shamrock が最後方から内を衝いて一気の追い込みを決め、期待に応えています。2馬身4分の3差2着にも2番人気(5対2)の英国馬バイラーマ Byrama が入り、半馬身差3着キラー・グレイシス killer Graces も3番人気(6対1)と至極順当。
ジョン・サドラーが管理するレディー・オブ・シャムロックは、前走で一般ステークスに勝っての連勝、G戦は初勝利となります。騎乗したマイク・スミス騎手はこれが通算で4999勝目、5千勝に王手を掛けました。同馬の芝適性に鑑みれば、彼女の本格化は夏の芝馬場から秋のチャンピオン争いにかけてでしょう。

最後にポトレロ・グランデ・ハンデキャップ Potrero Grande H (GⅡ、4歳上、6.5ハロン)、メインコースで行われる古馬の短距離戦です。3頭が取り消して6頭立て。ここもほぼ順当に収まっています。
先手を奪ったのは3番人気(5対2)のローマン・スレット Roman Threat でしたが、2番手でピタリとマークした1番人気(6対5)のアマゾンビー Amazonbie が直線中程でこれを捉え、ローマン・スレットに4分の3馬身差を付けての快勝です。1馬身差3着にはキャンプ・ヴィクトリー Camp Victory が入り、2番人気(2対1)のスウェイ・アウェイ Sway Away はスタートで出遅れたのが響いて4着まで。
勝ったアマゾンビーはウイリアム・スポウル厩舎、マイク・スミス騎乗。スミスは前のレースで王手を掛けていた5000勝達成で、この日のG戦ダブルも成し遂げる快挙です。因みに全米で5千勝を達成したのは、スミス騎手が25人目。今年46歳のヴェテランで、1993年と1994に最優秀騎手に選ばれた名手。ゼニヤッタ Zenyatta とのコンビが有名で、彼女の最終レースを飾れなかった悔し涙は日本でも放映されていましたっけ。
アマゾンビーはもちろん去年の最優秀スプリンター、このレースは去年(頭差)に続く連覇で、伊達に去年のBCスプリントを制してはいないことを証明して見せました。

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1件の返信

  1. まとめteみた.【マイク・スミス騎手の5千勝達成、と】

    ケンタッキー・ダービーを丁度1か月後に控えた土曜日、アメリカの4つの競馬場で合計9鞍のグレード・レースが行われました。内7鞍がクラシックのトライアル、また4鞍はGレースという豪…

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