東京フィル・第815回定期演奏会

去年一シーズンだけの定期会員の積りだった東フィルですが、今シーズンも続けることにしました。興味深いプログラムが少なくないこと、会員の雰囲気が良いことが理由です。
で、サントリー定期の幕開けは以下のもの。私にとって、いや東京のクラシック音楽ファンにとっても初物となる話題の指揮者の登場です。

ベートーヴェン/「エグモント」序曲
シューマン/ピアノ協奏曲
     ~休憩~
ブラームス/交響曲第2番
 指揮/垣内悠希(かきうち・ゆうき)
 ピアノ/ソフィー・パチーニ
 コンサートマスター/荒井英治

数日前、NHKの朝のニュースでも紹介されていましたが、垣内悠希は2011年ブザンソン国際指揮者コンクールの優勝者。放送では同じブザンソンのコンクールに優勝した小澤征爾の後継者という扱いでしたが、ブザンソンは日本人が何人も優勝している指揮者コンクール、それだけで小澤の後継者というのは大袈裟に思います。
また、小澤の後継者という表現にも引っ掛かりますね。どういう意味なんでしょう。もちろんNHKは評価するという意味合いで使っていると思いますけど・・・。

垣内は今回、東フィル定期に2回登場。15日にオーチャード定期を振り、昨日は2回目に当たります。プログラムの前半は両回とも同じで、メインはオーチャードではチャイコフスキーの第5交響曲でした。
日本のオケでは大阪響を振っただけだそうですから、東京のオーケストラは今回が初。さぞかし緊張したことでしょう。
父は音楽教育者、母はオペラ歌手ということで言わば音楽一家。指揮の勉強は個人的に指導を受け、いきなりウィーン国立音大の指揮科に留学した由。卒業した現在もウィーン在住。ブザンソンで受からなければ指揮者になったか否かは疑問、というギリギリの瀬戸際だったそうですね。

ということで、かなりラッキーなキャリアだと思います。与えられたチャンスに全力を尽くす、というのは当然のこと。指揮者にとってコンクール優勝は単なるスタート地点に過ぎません。気が遠くなるような前途が待ち受けているということでもありましょう。

1978年東京生まれ。日本人指揮者としては大柄で、一般受けする素質はあるでしょうね。譜面を見ながらの指揮、指揮棒も使います。
若いだけに身振りは大きく、表現したいことを躰全体で表現して行くスタイルは、恐らくコンクールでも素直に評価されたと思われます。当然ながら未だ未だ無駄な動きが多く、オケのバランスを失する場面もありました。
音楽を大きく歌わせるのはこの人の資質のようで、小賢しさなどが無いのは美点でしょう。

オーケストラには既に巨匠と認められている指揮者ばかりを呼んで名曲名演を謳い文句にしている団体もありますが、オケには垣内くんのような若手に機会を与え、一人前の指揮者として育てていく義務もあるはず。今の聴き手のためではなく、将来の聴衆を育てることに繋がるからです。
その意味では東フィルは真に積極的だし、その音楽を真摯に受け止めている姿勢にも好感を抱きました。
緊張故でしょうか、舞台に出る時に通る場所を間違えたり、楽員を立たせる順序やタイミングが不慣れだったりと微笑ましい場面もありましたが、そうしたことは経験が解決するし、オーケストラが自発的に教えていく習慣でもありましょう。

ということで、私も初体験の指揮者、演奏内容については触れません。
ただ、前半の最後に演奏されたシューマン。これも私は初めて聴いた若手ソリストですが、どうにも感心しませんでした。私は余り厳しいことは書かないようにしていますが、パチーニという女流ピアニストとは波長が合いません。
シューマンは先日、田部京子のソロで聴いたばかり。あの時は“シューマンは何と素晴らしい音楽だろう” の一言に尽きる見事な演奏でしたが、今回はシューマンの良さがまるで伝わってきません。

冒頭のカデンツァ風開始にしても、ただ音階が下がっていくだけ。田部は、ここからシューマンの音楽物語が始まるという夢と期待を抱かせてくれたのですが、パチーニはただ音がサラサラと流れるだけ。
最後まで興に乗らないシューマンでしたが、アンコールに弾かれたリストのハンガリー狂詩曲第6番も、指は良く回るものの音楽は空回り。
アルゲリッチが“かつての私自身を見ているよう”と絶賛したそうですが、「かつて」というのは何時のことなんでしょうか。随分ブラヴォ~が飛んでいましたが、私には理解できません。

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