キャメロット強し、重の2000ギニー

昨日の土曜日、ニューマーケット競馬場で英国クラシックの第一弾となる2000ギニーが行われました。この日のG戦は全部で3鞍組まれていましたが、先ずはクラシック・レースから紹介して行きましょう。

第204回を迎えた2000ギニー 2000 Guineas S (GⅠ、3歳、1マイル)、混戦が予想される中、18頭がゲートインしました。雨は一段落しましたが、馬場状態は good to soft 。重の巧拙も重要な要素となることは間違いないでしょう。
頭数の割には人気が偏っていました。1番人気は15対8、次は7対1ですから「被った」人気と言っても過言じゃないでしょう。その1番人気は、アイルランドのエイダン・オブライエン厩舎が送り込んだキャメロット Camelot 。去年のレーシング・ポスト・トロフィーを馬なりで制した内容の良さが買われたもの。オブライエン師も同馬の能力の高さを隠そうとはしていませんでしたし、今や厩舎のエースと目される存在に成長した息子ジョセフ・オブライエン騎乗も好材料と見られていました。
一方、死角もいくつか存在していました。先ずは重馬場に適性があるか? これは師自身も不安に感じていたことで、陣営では決して良い材料とは見ていません。そして父モンジュー Montjeu 産駒がシーズン初めのマイル戦に実績が無いこと。サドラーズ・ウェルズ Sadler’s Wells 系のモンジューは本来スタミナを武器とする血統。統計的に見てギニーの1マイルに実績が無いのは事実ですし、説得力のある死角でもありました。
更に加えれば、去年のレーシング・ポストのレヴェルが挙げられましょう。確かにキャメロットの瞬発力は他を圧していましたが、相手が弱かったという評価もあります。現にタイムフォームのレースホース誌ではその点を指摘、レーティングも117Pと、2000ギニーの冬場の人気を維持し続けた馬としては危ない本命と見ていました。また近年はレーシング・ポスト・トロフィーからは2000ギニー勝馬は出ておらず、両レースを制した馬は40年前のハイ・トップ High Top にまで遡らなければなりません。

ということで果たしてキャメロットは勝てるのか、若いジョセフに掛かるプレッシャーも相当なものがあったと思われます。続いて7対1にはフランスから遠征したアブタール Abtaal 、オブライエン厩舎の副将各パワー Power が並び、クレイヴァンに勝ったトランペット・メイジャー Trumpet Major が8対1の3番人気で続きます。

ニューマーケットのロウリー・マイル(直線)コース、多頭数の場合は内外に大きく分かれるのが常ですが、今年は大きく3つのグループに分かれて展開しました。スタンドから遠いラチ沿いに4頭、馬場の中央を3頭が進み、残る11頭はスタンド側のコースを通ります。中間地点では中央グループが先頭に立っている様子。スタンド側を引っ張っているのはトランペット・メイジャーで、本命キャメロットのジョセフはスタンド側軍団の後ろから3つ目に待機しているのが見えます。
しかし坂の昇りになると先行していた馬たちがバテ始め、一気に後続馬が替って前に出ます。それでも粘るトランペット・メイジャーと、抜け出してきたペリエ騎乗のフレンチ・フィフティーン French Fifteen の争いと思えた時、両馬の間を割って伸びたのがキャメロット。先ずトランペット・メイジャーが脱落、最後の死闘を首差で制したのはキャメロットの方でした。してやったりジョセフ! スタンドから遠いグループを先頭で駆け抜けたフランス遠征組のエルミヴァル Hermival が2馬身4分の1差で3着に届き、トランペット・メイジャーは4着に粘っていました。
以下、5着はハノン厩舎のクー・ド・ヴィル Coup de Ville 、アブタールは8着、グリーナム・ステークスを制したカスパー・ネッチャー Caspar Netscher が9着、シー・ザ・スターズ Sea The Stars の弟として期待されたボーン・トゥー・シー Born To Sea (10対1、4番人気)は12着、パワーは17着惨敗。

エイダン・オブライエン師にとって2000ギニーは6勝目。復習しておくと、1998年キング・オブ・キングス King of Kings 、2002年ロック・オブ・ジブラルタール Rock of Gibraltar 、2005年フットステップスインザサンド Footstepsinthesand 、2006年ジョージ・ワシントン George Washington 、2008年ヘンリーザナヴィゲイター Henrythenavigator に続くもの。
因みに2000ギニーの最多勝利調教師は19世紀のジョン・スコットが保持している7勝で、オブライエンはあと1勝で最多勝に並ぶところまで来ました。スコットの記録は20年間で達成されたものですから、オブライエンはそれより速い14年間での記録。あと6年で2勝すれば単独最多勝、オブライエンなら可能な数字だと思われます。

キャメロットの今後は? 師は自厩に帰ってからスタッフと検討するとのことですが、先ず順調ならダービーに向かうでしょう。ギニーよりはダービーに向いた血統、ブックメーカーもダービーにイーヴンのオッズを出すところまで出ています。更には三冠達成に3対1という気の早いブックメーカーも。先ずはエイダン、ジョセフ親子のクラシック制覇を讃えましょう。

さてクラシックの前に行われたのはジョッキー・クラブ・ステークス Jockey Club S (GⅡ、4歳上、1マイル4ハロン)。出走馬は8頭ですが、中々興味深いメンバーが揃いました。
11対8の1番人気に支持されたメアンドル(ミアンダー) Meandre はアンドレ・ファーブル厩舎、去年のパリ大賞典の勝馬で、凱旋門賞6着以来の競馬。対する2番人気(9対2)のデュナデン Dunaden はメルボルン・カップと香港ヴェーズを連勝したステイヤー、加えて去年のセントレジャー馬マスケッド・マーヴェル Masked Marvel も出走し、レヴェルはGⅠ並みの一戦。

レースはマスケッド・マーヴェルが先頭で流れを作りましたが、最後に抜け出したのは前半後ろから2つ目で待機し、徐々に進出してスタンドから遠いコースを通って外から追い込んだ4番人気(15対2)のアル・カジーム Al Kazeem 。最後は思い切り左に寄れてスタンド側のラチ沿いでゴールインしましたが、後続との差が大きく開いていたので問題にならず、2着クエスト・フォー・ピース Quest For Peace に4馬身半の差を付けていました。更に1馬身4分の1差で漸くデュナデンが3着、本命メアンドルは4着、マスケッド・マーヴェルは7着に終わっています。

ロジャー・チャールトン厩舎、ジェームス・ドイルが騎乗したアル・カジームは、3歳の去年ハンデ戦を卒業した後、パターン・レースに3度連続して2着していた馬。これが今シーズン初戦で、念願のG戦初勝利を飾りました。このあとはGⅠ制覇を目指してコロネーション・カップを目指す意向。それは2着馬も同じです。
一方敗者ではデュナデン陣営が楽観的。シーズン初戦、馬場が馬場ですし、ロイヤル・アスコットのゴールド・カップ制覇に向けて順調なスタートを切ったと評価しているようです。

ニューマーケットの最後は2000ギニーの後で行われたパレス・ハウス・ステークス Palace House S (GⅢ、3歳上、5ハロン)。例年多頭数になる短距離戦ですが、今年は2頭が取り消し。それでも16頭の混戦となりました。

しかし混戦は頭数だけのことで、7対2の1番人気に支持されたメイサン Mayson が順当に勝って人気に応えています。2着は4分の3馬身差でデフィナイトリー Definightly 、短頭差3着にエルーシヴィティー Elusivity 。
2番枠(スタンドから遠い側)スタートを巧く使い、逃げるイングザイル Inxile を横目で見ながら絶妙のタイミングでの追い出し。ポール・ハナガン騎手の冷静な手綱捌きが光りました。

リチャード・ファヘイ師が管理するメイサンは急成長してきたスプリンター、4歳になった今シーズンは先ずドンカスターのカミッジ・トロフィーで3着した後、ニューマーケットのクレイヴァン開催でアバーナント・ステークス(6ハロン、リステッド)を快勝。この内容からここでも1番人気に期待されていました。
これがG戦初勝利、このあとはデューク・オブ・ヨーク・ステークスからGⅠのジュライ・カップに挑戦するローテーションを歩む由。
ところでメイサンは生産者やオーナーにとって特別な存在です。実は同馬が生まれた時、母(メイリーフ Mayleaf)が死亡、仔馬は人の手から与えられるミルクで成長したという経緯があります。母無き仔の出世には関係者の特別な想いが籠められているのですね。

ヨーロッパ競馬レポート、今日の最後はフランスに飛びます。相変わらず very soft の馬場状態が解消されないサン=クルー競馬場からグレフュール賞 Prix Grefulhe (GⅡ、3歳牡牝、2000メートル)。去年はダービー馬プール・モア Pour Moi が制したレースと言えば注目しない訳には行かないでしょう。

出走馬は僅かに6頭、断然1番人気(7対10)に支持された無敗のケサンプール Kesanmpour がシッカリ人気に応えています。
逃げる同厩・同馬主(アガ・カーン)のペースメーカー、シャラムザー Shalamzar の2番手に付け、最後の2ハロンで抜け出すと、後続馬の追い込みを凌いでの優勝。2着は頭差でアルビオン Albion 、半馬身差3着がエルダンディー Eldandy という結果。

アガ・カーンが今年のエプサム・ダービーに送り込む予定のケサンプールは、ミケール・デルザングレ厩舎の管理馬。師はこの日ニューマーケットに出張(2000ギニーのエルミヴァルは惜しくも3着)して不在のため、同馬の今後についてはコメントがありません。
各ブックメーカーは、この内容を評価した(14対1に上げ)組と、評価しなかった(20対1のまま)組とに分かれたようです。
ケサンプールは、これで無傷の4連勝。G戦は初勝利ですが、これまで全てサン=クルーで走ってきました。ご存知のようにサン=クルーは左回り、エプサム競馬場を意識しての使い方と言わざるを得ません。今年も秘密兵器となるか・・・。

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1件の返信

  1. まとめtyaiました【キャメロット強し、重の2000ギニー】

    昨日の土曜日、ニューマーケット競馬場で英国クラシックの第一弾となる2000ギニーが行われました。この日のG戦は全部で3鞍組まれていましたが、先ずはクラシック・レースから…

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