東京フィル・第818回定期演奏会
昨日はサントリーホールで東京フィルハーモニー交響楽団の定期を聴いてきました。前日に東京オペラシティ・コンサートホールで行われた演奏会と同じプロの二日目。
個人的にはかなり期待していたコンサートで、演奏も素晴らしく、大満足の一夜でした。プログラムは以下のもの。
パーセル/「アブデラザール」組曲
ケルビーニ/交響曲ニ長調
~休憩~
ベリオ・フォークソングズ
メンデルスゾーン/交響曲第4番「イタリア」
指揮/アルベルト・ゼッダ
メゾ・ソプラノ/富岡明子
コンサートマスター/三浦章宏
東フィルのプログラム誌は月一冊に月間演奏会の全てが掲載されているスタイルですが、読響の同種のものと比べて遥かに判り易く、解説も充実していると思います。プログラムを開いて、その日何が演奏されるのか一目瞭然なのが、いい。
指揮のゼッダは1928年1月2日ミラノ生まれ、と言いますから今年84歳。そんな歳には見えない矍鑠たる指揮振りです。これまで「ランスへの旅」や「どろぼうかささぎ」でオペラを楽しんできましたが、コンサートの指揮は個人的には初体験。それも期待の要因でした。
何よりプログラム構成が素敵でしょ。マエストロによればオケ側から「イタリア交響曲」の指揮依頼があったそうですが、これを軸にイタリアのスピリットを湛えた曲で統一した由。英国人パーセルはイタリア・バロックのスピリットを、ドイツ人のメンデルスゾーンも太陽の明るさを感じさせるイタリア的な作品。
純粋にイタリア人であるケルビーニとベリオにも共通点があり、共に外国との関わりが強かった作曲家。長年外国での評価が高く、晩年にイタリアで認められたのだそうな。その意味で、純粋なイタリア系作曲家によるものでない、イタリアをあらわした曲目を集めたところにミソがあるのですね。何とも憎い選曲じゃありませんか。ゼッダは正に適任者。
私としても、メンデルスゾーン以外は滅多に聴けない作品と言うのも大注目。特にケルビーニの交響曲は、死ぬまでには一度でいいからナマで聴いてみたい曲ではありました。
冒頭のパーセル、遥か昔に渡邉暁雄/日本フィルで聴いた記憶がありますが、多分ナマはそれ以来でしょう。弦楽合奏の作品で、人数をかなり減らしていました。高い順に6人-4人-4人-3人-1人(?)、だったと思います。
古いことで記憶は薄れましたが、日本フィルはもっと大きな編成で演奏していたように覚えています。
また演奏されたのも全9曲ではなく、第4楽章と第6楽章はカット。演奏順も1番(序曲)、3番(エア)、9番(エア)、5番(メヌエット)、8番(ホーンパイプ)、7番(ジグ)、2番(ロンドー)と組み替えていました。最後のロンドーはブリテンが「青少年のための管弦楽入門」に使用したテーマが登場するもの。ゼッダによる組曲は至極現実的で楽しめるオープニングになっていました。
2曲目が聴きモノ、ケルビーニ。当然ナマでは初体験でしたが、東フィルでは1992年(グァダーニョ指揮)以来とのこと。20年振りとのことですが、東フィルに限らずもっと頻繁に演奏されてしかるべき名曲です。
個人的にはトスカニーニのレコードで繰り返し聴いてきましたが、トスカニーニ盤は巨匠独自の手が加えられており、今回初めてオリジナルの譜面を聴くことが出来ました。しかもナマで。
ベートーヴェンが師と仰いだケルビーニ唯一のシンフォニー、恰もボンの巨匠を先取りするような推進力が魅力です。ゼッダの指揮も、時にホルンを咆哮させて実に活気に満ちたもの。ケルビーニを120%堪能する思いでした。
因みにトスカニーニ版は、ケルビーニ自身が後年に弦楽四重奏曲(第2番)にアレンジしたときのアイディアを参考にしたもので、恐らくクァルテットの一員としてチェロを弾いたであろうトスカニーニとしては根拠のある改変。それはそれで貴重な資料だと思われます。
ゼッダはトスカニーニの解釈には従わず、第2楽章提示部の繰り返し以外のリピートは全て実行していました。第3楽章メヌエットも、トスカニーニのようにスケルツォにせず、伝統的(?)メヌエットのテンポを採用していましたね。
後半は先ずベリオ。プログラムの素晴らしい解説(野本由紀夫)によると、ベリオ夫人であったキャシー・バーベリアンの語学力と表現力を前提に、各国の民謡をベリオ風にアレンジしたものの由。
オリジナルは室内アンサンブルの伴奏によるものだそうですが、今回演奏されたのは1973年に改訂したオーケストラ版。使われる楽器こそ膨大ですが、全奏はほとんど無く、あくまでも室内楽的な書法・響きに徹したもの。
全体は11曲から成り、第1曲と第2曲はアメリカ民謡(一部は民謡ではないそうですが)、第3曲アルメニア、以下第4曲フランス、第5曲シチリア、第6曲と第7曲がイタリア、第8曲サルディニア、第9曲と第10曲はオーベルニュの歌、最後はアゼルバイジャンと多彩。
如何にもバーベリアンらしい語学の天才でなければレパートリーには加えられないような名人芸的作品と言えましょうか。
(私も若い頃にFM放送でバーベリアンを何度も聴きました。柴田南雄氏の名解説共々、彼女のアクロバティックな歌声を懐かしく思い出します。)
今回歌った富岡も圧巻。彼女は同じ東フィルでバーンスタイン(ヘブライ語)を、日フィル横浜でオーベルニュ(南仏語)を歌ったこともあり、彼女もまたバーベリアン級とまでは言わないものの、語学には天性のものがあるのでしょう。
ベリオの第9・10曲にはカントルーブのアレンジもあり、ベリオは彼独自の乾いたアレンジがまた新鮮で、その比較も大変に興味あるものです。
最後のアゼルバイジャンなど、バーベリアンがSPレコードから耳コピーしたものだそうで、歌詞の意味は問題ではなく、耳に聞こえた発音をそのまま歌ったもの。「ナ・プリチ・コルシス・スヴァ・ドワ」などチンプンカンプン。これを暗譜し、しかも表情・手振りを付けて歌う富岡には底知れぬ才能を感じてしまいました。
最後のイタリア交響曲は大名演。年齢を感じさせないスピード感とイタリア人ならではの表情付がピタリと嵌ります。東フィルの明るい音色が作品ともマッチ、ほぼ理想的なイタリア交響曲を満喫しました。変に学者ぶった解釈でない所も良い。
客席の反応も最大級で、何と交響曲のフィナーレをアンコールしてくれました。これがまた本割以上に熱演で、これこそ本当のサルタレロ、とメリーウイロウも大納得の定期でした。
マエストロ・ゼッダ、また来てくださいネ。
まとめtyaiました【東京フィル・第818回定期演奏会】
昨日はサントリーホールで東京フィルハーモニー交響楽団の定期を聴いてきました。前日に東京オペラシティ・コンサートホールで行われた演奏会と同じプロの二日目。個人的にはかなり…