読売日響・第517回定期演奏会

7月の読響定期は珍しく広上淳一の指揮。確か定期登場は2回目じゃないでしょうか。創立50周年の今シーズンは読響縁の指揮者揃い踏みの感がありますが、7月だけは新風という印象ですね。
面白いのは正指揮者・下野が今月は久し振りに日本フィル定期を振ること。確か下野も日フィル定期2度目の登場で、そのレポートは明日をお楽しみに。
ということで、以下のプログラムを聴いてきました。

武満徹/トゥイル・バイ・トワイライト
バルトーク/ヴィオラ協奏曲(ピーター・バルトーク版)
     ~休憩~
リムスキー=コルサコフ/交響組曲「シェエラザード」
 指揮/広上淳一
 ヴィオラ/清水直子
 コンサートマスター/小森谷巧
(なお、この日のフォアシュピーラーはゲストの女性。藤原氏が退団したこともあり、最近はいろいろな方がこの席に座られるようです)

エッ、シェエラザードなの、定期でシェエラザード? と最初は思いましたが、聴いてみると実に面白くも手応えある演奏。定期に掛けるだけの価値ある名曲の名演奏でした。
最近の広上に対するキャッチフレーズは「音に熱い魂を注ぐカリスマ指揮者」ということのようですが、こういう文句を考える人は流石ですね。これだけでこの夜の演奏を言い表しているような感じです。

冒頭は広上が最も頻繁に取り上げている武満作品。しかも同団創立25周年を記念して委嘱された作品ですから、今回のプログラムには最も相応しい一品と言えましょう。
さすがにハインツ・レークナー指揮による初演は聴いていませんが、読響による録音(尾高忠明指揮)は私の愛聴盤。擦り切れる、ほどではないけれど、繰り返し楽しんできた作品です。

ジョン・ケージの影響を受けたアメリカの作曲家モートン・フェルドマンの追憶に捧げられたもので、題名でもある黄昏の美しさを音で表現した作品。既に武満自身も亡くなった今では、黄昏は言葉以上の意味を持つようにも感じられます。
12分ほどのコンサート開始ピースですが、いくつかのモチーフが度々繰り返されながら風景を変化させて行く構成。特にオーボエがハッとするような刻を印していく瞬間が印象的。
広上の指揮もゆったりした流れを大切にし、主要な2種類のテンポの変化を極度に強調することなく、録音された演奏以上に大きな振幅を描き出したのが見事でした。練習記号Hの前後、前の小節のエコーとして書かれた弱音、これに続く弦合奏のみによる3小節の美しさが際立っていましたね。

2曲目は、ベルリン・フィルの首席ヴィオラとしてすっかり名を上げた清水直子によるバルトーク、それもピーター・バルトークによる新しい版による演奏が聴き所。
清水と広上の共演は、かなり以前に神奈川フィルのベルリオーズ(イタリアのハロルド)を聴いたことがあり、あのときは二人の鼻息というか唸り声というか、音楽以外の共演も凄まじかったことを懐かしく思い出します。

私がこの新版を聴くのはナマ・録音を通じても初めてで、旧シェルリイ版との比較を中心に楽しみました。結論を言えば、シェルリイ版とは全く異なる印象。素材は同じでも、全く別の作品として接した方が良いでしょう。
事前に新版を購入しようとも考えたのですが、やや高価なので二の足を踏んでいました。ま、聴いてからにしても遅くはあるまい、と。でもね、バルトーク大好き人間としては、これはゲットすべきでしょうな。
抽象的な言い方ですが、息子のピーターのオーケストレーションで聴くと、作品はより内省的に、より簡潔に作曲者の遺言を音にしているように思えます。もちろんシェルリイにも捨て難いものはあるし、長く馴染んできた音楽ですから、これはこれで聴かれ続けていくでしょう。特に既に録音されたものは修正不能、バルトークの新作が一つ発見されたと思えばよろしい。

例えば冒頭、ヴィオラ・ソロを支えるのは旧版では低弦のピチカートですが、新版ではティンパニのソロ。
第2楽章にアタッカで繋ぐ旧版のファゴット・ソロは無く、逆に第3楽章に入ってからのオーケストラのみによる部分は新版の方がかなり引き伸ばされています。コーダも新版の方がスッキリし、小節数も少ない感じ。
新版では、旧版には無かったイングリッシュ・ホルン、コントラファゴットが使用され、ホルンも3本から4本に増加。打楽器ではトライアングルが新たに登場する代わりに、旧版の2種類のシンバルは新版では大型1種に統一されている、という具合。

清水/広上の呼吸も相変わらずピタリ。初めて耳にするバルトークの新しい世界を思う存分堪能することが出来ました。

何度目かのカーテンコールの途中で舞台係が素早く譜面台を二つ準備、アンコールがありました。この風景だけでバルトーク好きにはピンと来ます。そう、44のヴァイオリン二重奏から2曲をヴィオラに転調したもの。読響主席の鈴木康浩が飛び入りで参加し、21番「新年の挨拶」と38番「ルーマニアン・ダンス」が演奏されました。
チョッとバランスの悪い合奏のようにも感じましたが、ま、ご愛嬌でしょう。ブラァヴィ!

最後は名曲「シェエラザード」。
前回の広上定期はブラームスでしたが、定期以外では何度も共演していて、私の記憶では展覧会の絵やチャイコフスキーの交響曲など、読響ではロシアものを取り上げることが多かったように思います。
今回のリムスキー=コルサコフは、その流れでしょうか。

何でもないように、普通に演奏していながら何時の間にか広上のシェエラザードになってしまうのは、彼がマエストロという呼称に恥じない独特の個性の持ち主だからでしょう。
第2楽章中間部でトロンボーン・ソロとトランペット・ソロを導き出す場面の音楽。第3楽章冒頭主題の歌心に満ちた表情。第4楽章の難破に向けての盛り上げ方等々。目でも耳でもマエストロの至芸を満喫するコンサートになりました。

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