デインドリーム復活のキングジョージ
もう結果も、映像も伝わっていることですし、昨日のキングジョージをゆっくりと回顧して行きましょう。
金曜日から開催されているアスコット競馬場のキング・ジョージ開催、愈々シーズン前半の総決算とも言うべきキング・ジョージ6世・アンド・クィーン・エリザベス・ステークス King George Ⅵ and Queen Elizabeth S (GⅠ、3歳上、1マイル4ハロン)が行われました。
例年ですと7月最終週に組まれるのですが、今年は1週間早いスケジュール。詳しいことは聞いていませんが、恐らくロンドン五輪とのバッティングを避けるための処置だったのでしょう。とは言え、競馬は五輪期間中も通常通り行われていきますから、何もキングジョージだけ前倒しする必要は無かったと思われます。集客、交通事情、警備などの兼ね合いがあったのでしょうか。
最終的に馬場状態は good 、ラウンド・コースは good to soft の発表で、馬にとっては能力の最も発揮し易いコースと言えましょう。堅い馬場を得意とするタイプにはやや不利かも。
出走馬は10頭。最近のキングジョージでは頭数そのものも、メンバーのレヴェルもハイクラスな馬が揃いました。6歳、5歳、3歳が各1頭づつで、残り7頭が4歳馬。クラシック世代からの出走がディープブリランテ Deep Brillante ただ1頭のみというのが少し寂しい気がします。
強力なメンバーが揃ったとは言いながら断然の中心となる馬は不在、2対1の1番人気に支持されたのは、前走ロイヤル・アスコットでハードウィック・ステークス(GⅡ)を快勝したシー・ムーン Sea Moon 。トライアル的なレースでは圧倒的に強いのですが、肝心の本番GⅠでは期待外れの成績であることが不安でしょう。
続いては前走エクリプス・ステークス(GⅠ)で見事に復活したナサニエル Nathaniel の5対2。冒頭に紹介したように、今年はエクリプスとキングジョージの間隔が中1週しか無く、器官に若干問題を抱えるナサニエルには不安材料。続いてはコロネーション・カップを2連覇したチーム・オブライエンのセント・ニコラス・アビー St Nicholas Abbey 。これまでの相手関係が必ずしも強力とは言えず、5対1の3番人気。キングジョージこそが同馬にとっては真の試金石となるでしょう。
あとはメルボルン・カップの覇者デュナデン Dunaden 、去年の凱旋門賞馬で実績はナンバーワンながら今季は成績が今一つのデインドリーム Danedream と続き、去年の仏ダービー馬リライアブル・マン Reliable Man 、去年のセントレジャー2着馬ブラウン・パンサー Brown Panther 、日本ダービー馬ディープ・ブリランテの3頭が201対1で並んでいます。
レースは意外にもデュナデンが先ず飛び出します。日本でもお馴染みのクレイグ・ウィリアムス騎手の作戦でしょうか。しかしスタートでやや遅れたロビン・フッド Robin Hood が、直ぐに本来のペースメーカー(セント・ニコラス・アベイの)の役割を果たすべく先頭を奪い、速い流れを作ります。このためにレースは仕舞だけの競馬にならず、馬本来の実力を出し切ることが出来たのですね。デュナデンは2番手に控え、スタミナ勝負に持ち込みたいブラウン・パンサーが3番手。有力馬は中団から後方、ジョセフ・オブライエン騎乗のセント・ニコラス・アビーは、ペースメーカーを信用して最後方で待機します。
前半の下り坂を終え、馬群は直線。残り2ハロンからが勝負となりますが、ナサニエルとデインドリームに並んで中団に付けていた岩田ジョッキーのディープブリランテは、ここで早くも失速。ヨーロッパ勢の末脚には付いて行けません。
先に先頭に立ったナサニエルが勝利を手にしたと見えた時、外から鋭く迫ったデインドリームが並び掛けたところがゴール。際どい写真判定の結果、最後の一歩でデインドリームがハナ差ナサニエルを捉えていました。1馬身半差が付いてセント・ニコラス・アビーが3着、頭差でリライアブル・マンの順。以下、シー・ムーンは又してもGⅠの壁に泣いて5着、先手を取ったデュナデン6着。ディープブリランテは離された8着に沈んでいます。
デインドリームは、改めて紹介するまでもなくペーター・シールゲン厩舎、アンドラーシュ・シュタルケ騎乗。去年の凱旋門賞優勝をフロックと表する人もいましたが、それが間違いであることを証明して見せました。レース前にタイムフォーム紙が出走全馬のレーティングを発表、最も高く評価したのがデインドリームでした。流石と言うべきでしょうな。
デインドリームは、この後バーデン大賞典に使ってから凱旋門賞連覇に挑む予定。これまでの16対1のオッズから一気に6対1と評価を上げています。
ということで、今年のキング・ジョージは久し振りにレヴェルも高く、実力馬がキッチリ仕事をしたと評して良いでしょう。2着のナサニエル陣営も結果には満足していますし、セント・ニコラス・アビーには馬場が重かったか。デュナデンのウィリアムス騎手は、先行策は間違いだったと断言しています。
なお、ジョセフ・アブライエンはムチの過剰使用により7日間、ナサニエルのウイリアム・ビュイック騎手にも同様2日間の騎乗停止が課せられました。如何に激しいレースだったかを象徴しているように思われます。
キングジョージに先立ち、アスコットではサマー・マイル・ステークス Summer Mile S (GⅡ、4歳上、1マイル)も行われています。8頭立て、マイル戦に戻った女王陛下のカールトン・ハウス Carlton House が4対7の断然1番人気。
ところがカールトン・ハウス、久々のマイル戦が合わなかったのか、前半は引っ掛かってしまってライアン・ムーア騎手を手古摺らせます。結果は末脚を活かせず、カイ・シェン Cai Shen と並ぶ4着同着。
33対1の大穴を開けたのは、マイケル・ウィグハム厩舎のファヌナルター Fanunalter 。2着パストラル・プレイヤー Pastoral Player (これも18対1の伏兵)との叩き合いを首差制しました。4分の3馬身差3着にタリアス Tullius が入り、1馬身差で2頭が4着同着。勝馬にはオリヴィエ・ペリエが騎乗していました。ペリエ騎手は、キングジョージではリライアブル・マンを4着に持ってきています。
ところでディープブリランテを預かったクライヴ・ブリテン調教師は、岩田騎手のために2頭をこのアスコットに用意してくれました。どちらも人気の無い馬で、金曜日の2歳牝馬戦ではシャファーニ Shafaani が7着(25対1、7番人気)、キングジョージの前座となるハンデ戦でもミブリッシュ Miblish は7着(28対1、最低の11番人気)でした。岩田騎手はシャーガー・カップでアスコットを体験したこともあり、これをバネに更なる腕を磨いてほしいもの。
改めてヨーロッパ勢の底力を見せ付けられたキングジョージでしたね。
さて今日(日曜日)はカラー競馬場でアイルランド・オークスが行われますが、前日の昨日もカラー競馬場でパターン・レースが一鞍行われています。ミンストレル・ステークス Minstrel S (GⅢ、3歳上、7ハロン)。
馬場は heavy 、何と出走馬はたったの3頭です。この中では重巧者と呼べるタカー Takar が1対7の圧倒的人気に応えて優勝、シンギング・バード Singing Bird に3馬身差を付けていました。更に11馬身差が開いて、逃げた2番人気(7対1)のアマング・イークォールズ Among Equals (オブライエン厩舎)。極めて順当ながら、2・3番人気は入れ替わる結果。
勝馬はジョン・オックス師の管理馬で、アガ・カーンの所有馬。当然ながらジョニー・ムルタが騎乗していました。ここまでカラー(7ハロン)とレパーズタウン(1マイル)のリステッド戦に勝ってしましたが、いずれも重馬場や不良馬場でのもの。その間に出走した速い馬場の愛2000ギニーでは9着に惨敗していますから、この馬の場合は良馬場が課題でしょう。デスモンド・ステークスに向かう予定。
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