ナサニエルの全妹、愛オークスを制す

土曜日はアスコットのキングジョージに沸いたヨーロッパ競馬、翌日曜日はアイルランドのカラー競馬場で春/夏クラシックの最終戦が行われました。

この日も馬場状態は重く、発表は soft 、所により heavy 。アイリッシュ・オークス Irish Oaks (GⅠ、3歳牝、1マイル4ハロン)には7頭が出走してきました。
本来ならエプサムのオークスを制したオブライエン厩舎のウォズ Was が中心になるところでしょうが、馬場が馬場だけに人気は割れています。5対4の1番人気に支持されたのは、3歳になってから初勝利を挙げて目下3連勝のグレート・ヘヴンズ Great Heavens 。前走ヘイドック・パーク競馬場のランカシャー・オークス(GⅢ)に勝ってパターン・クラスに上がってきた成長株です。(詳しくは7月8日の当日記参照)
ロイヤル・アスコットのリブルスデール・ステークス(GⅡ)を制したプリンセス・ハイウェイ Princess Highway が9対4の2番人気で続き、ウォズは9対2の3番人気まで。エプサムで2着したシロッコ・スター Shirocco Star も7対1の4番人気で、エプサムよりも新しい戦力に期待が集まっていました。エプサムが good だったのに対し、カラーは soft というのもオッズ逆転の大きい要因でしょう。

3頭出しオブライエン厩舎のペースメーカー、トゥワール Twirl が逃げてペースを作り、ジョセフ騎乗のウォズは2番手。本命グレート・ヘヴンズも3番手と前での競馬。やはり重い馬場を意識しての位置取りでしょうか。
しかしグレート・ヘヴンズにとっては危ない場面が待っていました。各馬が仕掛けたのを追ってスパートしようとした時、前が塞がって出られず、一旦後方に下がってしまいます。この時点では惨敗も考えられる展開でしたが、馬を馬場の中央に出すと一気に加速、終わって見れば2着に3馬身差を付ける楽勝でした。2着には早目にウォズを競り潰しに行ったシロッコ・スターが入り、1馬身4分の3差でプリンセス・ハイウェイが3番手入線。競り負けたウォズは4着。
ゴールを目指すラチ沿いの攻防でシロッコ・スターが内のウォズの進路に入り、一瞬ウォズのジョセフが手綱を引っ張る場面があって審議に。両馬の脚色から判断して結果を左右するまでの妨害とは見做されなかったようで、最終的には着順通りで確定しています。

前回も紹介したように、グレート・ヘヴンズはジョン・ゴスデン厩舎、ウイリアム・ビュイック騎乗のコンビで、最近の競馬紙の見出しを飾る常連。前日デインドリームとの接戦で僅かにキングジョージ2連覇を逸したナサニエル Nathaniel の全妹であることも既にレポートしました。
更に7月22日はビュイック騎手の24歳の誕生日。ウイリアムも“これまでで最高の誕生日プレゼント” と喜びを隠せません。

加えて、今シーズン当たりに当たるゴスデン/ビュイック・コンビは、先日のプリティー・ポリー・ステークスでのイッツィ・トップ Izzi Top に続くアイルランドのGⅠ戦2勝目。
今回は追加登録料を支払っての愛オークス挑戦でしたが、このあとはヨークシャー・オークスにもセントレジャーにも登録のあるグレート・ヘヴンズ、レジャーには6対1のオッズが出され、現時点で1番人気のキャメロット Camelot を脅かす最大の強敵と見做されるまでに成長してきました。

オークス・デイのカラーは、他にもG戦が2鞍。去年からGⅢに格上げされたキルボイ・エステート・ステークス Kilboy Estate S (GⅢ、3歳上牝、1マイル1ハロン)は7頭立て、唯1頭の4歳馬に6頭の3歳が挑む構図です。ナースのリステッド戦を含め2戦2勝と無傷の3歳馬カポナータ Caponata が11対10の1番人気。

逃げるシェベラ Shebella を交わしてカポナータが先頭、リードを広げにかかった時は楽勝かと思われましたが、馬場の影響か次第に脚色は衰え、3番手を進んでいた3番人気(5対1)のタナリー Tannery が追い上げて本命馬を半馬身交わした所がゴール。2番人気(11対4)のアップ Up も並んで追い込みましたが、首差及ばず3着。人気上位3頭が1着から3着を占める順当な結果で収まりました。

デヴィッド・ウォッチマン厩舎、ウェイン・ローダン騎乗のタナリーは、前走ライムリック競馬場のリステッド戦(11ハロン)に次ぐ連勝。これが4勝目とスタミナに長けた馬で、ディラン・トーマス Dylan Thomas 産駒の3歳馬です。

カラーのもう一鞍はアングルジー・ステークス Anglesey S (GⅢ、2歳、6ハロン63ヤード)。オブライエン厩舎が主役のクリストフォロ・コロンボ Cristoforo Colombo を取り消し、5頭立ての競馬になりました。これに伴い首戦ジョッキーのジョセフ・オブライエンが同じ厩舎の1勝馬カウント・オブ・レモネード Count of Limonade に乗り替わり(予定はヘファーナン騎手)、7対4の1番人気。ロスコモン競馬場の未勝利戦(7ハロンの不良馬場)に勝っての参戦です。

しかしカウント・オブ・レモネードは3着と凡走、3番手を進んだ2番人気(9対4)グレーフェリ Grafelli の圧勝に終わりました。逃げ粘ったハード・ヤーズ Hard Yards が6馬身半差離されて2着、2番手追走の本命カウント・オブ・レモネードは1馬身4分の3差で3着。

ジム・ボルジャー厩舎、ケヴィン・マニング騎乗のグレーフェリもナース競馬場の未勝利戦(6ハロン、不良馬場)に勝っただけの1勝馬。今期はどの馬も重い馬場での出走経験しかないところが問題で、今後スピード競馬に対応できるかが課題になってきそうな気がします。逆に言えば、これまで成績が上がらなかった馬の中に意外な大物が潜んでいるかもしれません。
ところでグレーフェリは、フランスで供用されている新種牡馬アヌーマ Hannouma の初産駒。父馬にとって最初の勝馬、そして最初のG戦勝馬となったのがグレーフェリです。アヌーマは2歳時、クリテリウム・ド・サン=クルー(GⅠ)とコンデ賞(GⅢ)で共に2着した馬。一般的にはほとんど知られていない種馬でしょう。父アナバー Anabaa 、その父ダンジグ Danzig と遡るノーザン・ダンサー Northern Dancer 系。

フランスと言えば、日曜日はメゾン=ラフィット競馬場でもG戦が2鞍行われました。馬場は good 、アイルランドよりは乾いたコースで行われています。

最初は、かつてはGⅠのステイタスを誇っていたロベール・パパン賞 Prix Robert Papin (GⅡ、2歳牡牝、1100メートル)。8頭が出走、同じ競馬場のリステッド戦を含め3戦無敗のペニーズ・ピクニック Penny’s Picnic が2対1の1番人気に支持されていました。
しかし前走ボア賞(GⅢ)に勝って2歳最初のパターン勝馬となったスノーデイ Snowday (32対5、4番人気)、コヴェントリー・ステークス(GⅡ)4着のサー・プランスロット Sir Princealot (47対10、3番人気)、ノーフォーク・ステークス(GⅡ)勝馬レックレス・アバンダン Reckless Abandon (12対5、2番人気)も出走しており、この時期の2歳戦としては好メンバーが揃ったと言えそうです。

レースはレックレス・アバンダンの逃げ切り勝ち。2着サー・プランスロットに1馬身半差を付け、最後は抑える余裕もありましたから、内容は着差以上に強かったと見て良さそうです。更に2馬身半差でスノーデイが3着、本命ペニーズ・ピクニックは4着で初黒星を喫しました。1・2着は共に英国馬、イギリス調教の馬がこのレースを制したのは、2002年のネヴァー・ア・ダウト Never a Doubt (バリー・ヒルズ厩舎)以来10年振りのこととなります。

これで3戦全勝と無傷を守ったレックス・アバンダンは、クライヴ・コックス師の管理馬でジェラール・モッセ騎乗。一方2着馬はリチャード・ハノン厩舎、ライアン・ムーアが騎乗していました。
これでGⅡ戦2勝となった同馬、恐らく次走はドーヴィル、モルニー賞でGⅠ制覇を目指すことになるでしょう。

フランスのもう一鞍はユジェーヌ・アダム賞 prix Eugene Adam (GⅡ、3歳、2000メートル)。メゾン=ラフィット大賞典 Grand Prix de Maisons-Laffitte と呼ばれる一戦でもあります。
5頭立ての少頭数、2戦2勝の新星フラクショナル Fractional が13対10の1番人気に支持されていましたが、優勝は2番人気(16対5)に支持されたアガ・カーンのバイリール Bayrir でした。1馬身半差で3番人気(42対10)のコジト Cogito 、短頭差3着がフラクショナル。どれもキャリアの浅い3歳馬たちです。

勝ったバイリールは、前走サン=クルーのリステッド戦(2200メートル)に勝ってこれが4戦目。調教するアラン・ド・ロワイヤー=デュプレ師にとっては、2010年のシムラーン Shimraan に次ぐ2度目のユジェーヌ・アダム賞です。オーナーのアガ・カーンとしても意外やシムラーン以来の2勝目。騎乗したクリストフ・ルメールにとっても、これまた意外なことにこのレース初勝利となりました。

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