ベルリオーズのトロイ人全曲

一昨日の日曜日、7月22日に行われたプロムスの模様です。
ところでプロムスでは、日曜日は大規模な合唱作品かオペラが取り上げられるという決まりになっています。今年の場合、最初の日曜日はドビュッシーの「ペレアスとメリザンド」でした。で、2回目の日曜日はこれです。

≪Prom 11≫
ベルリオーズ/歌劇「トロイ人」全曲
 管弦楽/ロイヤル・オペラ・ハウス管弦楽団
 指揮/サー・アントニオ・パッパーノ
 エネアス/ブライアン・ハイメル(テノール)
 コレブス/ファビオ・カピタヌッチ(バリトン)
 パントゥス/アシュレー・ホランド(バリトン)
 ナルバル/ブラインドリー・シェラット(バス)
 イオパス/ジャイ=ミン・パーク(テノール)
 アスカニウス/バーバラ・セナター(メゾ・ソプラノ)
 カサンドラ/アンナ・カテリーナ・アントナッチ(ソプラノ)
 ディド/エヴァ・マリア・ウエストブレック(ソプラノ)
 アンナ/ハンナ・ヒップ(メゾ・ソプラノ)
 ヒラス/エド・リオン(テノール)
 プリアム/ロバート・ロイド(バス)
 ギリシャ軍の隊長/ルーカス・ヤコブスキ(バス)
 ヘクトールの亡霊/ジャイフーン・キム(バス)
 ヘレヌス/ジャイ・ヒュン・キム(テノール)
 ヘクバ/パメラ・ヘレン・スティーヴン(メゾ・ソプラノ)
 トロイの兵士及びマーキュリー/ダニエル・グライス(バリトン)
 トロイの歩哨1/エイドリアン・クラーク(バス)
 トロイの歩哨2/ジェレミー・ホワイト(バス)
 ロイヤル・オペラ合唱団(合唱指揮/レナート・バルサドンナ)

コヴェント・ガーデン王立歌劇場が持ってきた出しもの。もちろんレギュラー・シーズンで大好評を博した舞台の演奏会形式上演ですね。
何しろ上演時間だけで4時間15分も掛かる大作ですから、コンサートの開演は午後4時半。第2幕の後と、第4幕の後で30分づつの休憩がありましたから、終わったのは夜の10時を過ぎていたんでしょう。出演者は勿論、聴衆もご苦労なことではありました。特にアリーナ席と呼ばれる平土間は立って聴くわけですから、体力的にもかなりキツかったでしょう。

しかし、この回はネットで聴いただけでも真に素晴らしい演奏だったことが判ります。個人的には、ここまで聴いてきた中でのベスト公演と断言したいと思います。
指揮者のパッパーノは最近叙勲して「サー」の称号が付きましたね。
去年このコンビはロッシーニの「ウイリアム・テル」を取り上げました。私は余りにも長いと思ったので聴きませんでしたが、今思えば残念なことをしました。パッパーノを迎えてコヴェント・ガーデンは絶好調じゃないでしょうか。

本来ならエネアス役はヨーナス・カウフマンが歌うはずでしたが、体調の問題から降板し、ブライアン・ハイメルがピンチヒッターに立ちました。ところがこのハイメルが良かったですねェ~。第5幕41番のアリアなど、最後の高い h を、オケの伴奏が終わるまで引っ張っていました。オペラにも拘わらずここまで歌の終わりに拍手はありませんでしたが、流石にここでは思わず拍手する人が出たほど。
ソリストは適材適所というか、オペラ・ハウスで実際に演じてきた(はず)だけに、隅々まで磨き上げた歌唱。韓国の歌手が3人も出ていましたが、我々としてはチョッと残念な気がします。(プロムスで歌う様な日本人歌手は育たないンでしょうかネ)

何より作品が凄いですね。私はCDやLPでしか聴いたことがありませんでしたが、録音では一気に聴き通すのは難しいもの。今回の放送では3回に分割された音源を一気に聴いてしまいました。そうして体験すれば作品の凄さが良く判るし、音楽にどんどん惹き込まれて途中で止められなくなります。
ベルリオーズと言えば日本では幻想交響曲ばかりが取り上げられますが、時にはハイライトでも良いから「トロイ人」をやるべきでしょう。尤も、歌える人がいないのかな。一例を挙げれば、第2幕冒頭の音楽。これなど幻想の第5楽章も真っ青な位にオドロオドロしい響きに圧倒されてしまいました。
第1幕の終曲(第11番)では金管など3つに分かれた分奏が舞台から遠くに置かれるように指示がありますが、これなどアルバート・ホールの大きな空間には適しているでしょう。どのように配置したかは判りませんが、ギャラリーと呼ばれる所謂天井座敷にブラスが陣取れば、正に音が空から降ってくる感じになるでしょう。やはりナマで聴きたかった!

今回の上演は、ベルリオーズが後に分割した短縮版ではなく、オリジナルのトロイ人。作曲者生前には上演されず、カットなしで上演されたのは1957年のコヴェント・ガーデンでしたから、ロイヤル・オペラの演奏は由緒正しいものと言えましょう。
一部リピートを省略した個所はありましたが、ベーレンライター版による完全演奏で、全52曲が完璧に演奏されています。

なお、プロムスのホームページでは第1幕と第2幕が演奏される第1部のアイコンがありません。BBC3のホームページ、スケジュールをクリックし、7月22日の午後4時半の番組表をクリックすれば問題なく聴くことが出来ます。
1週間は無料で聴けるのですから、折角の機会を聴き逃すことの無いように。関連プログラムもいろいろ用意されています。ロイヤル・カレッジで行われたプロムス・プラス、大掛かりなプレトークもありますぜ。

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