モンマスとデル・マーのGⅠ戦

日曜日、アメリカでは三つの競馬場でグレード・レースが行われました。中でも注目されたのがモンマス・パークのG戦4連発の豪華版。芝とダートの二つのコースに分かれ、しかも牝馬と牡馬が夫々のジャンルに覇を競うプログラムです。

今日の最初は、そのモンマス・パーク競馬場から4つのG戦を続けてレポートしましょう。最初がマッチメーカー・ステークス Matchmaker S (芝GⅢ、3歳上牝、9ハロン)。このレースの賞金は15万ドルですが、別に1着から3着までの馬にはスポンサーになってるテイラー・メイド・スタリオンズから種付けの権利が与えられという風変わりな特典が付与されます。芝コースは firm 、2頭取り消して6頭立てで行われました。前走ギャロレット・ハンデ(芝GⅢ、5月19日)3着のラーフィング Laughing が6対5の1番人気。
大外枠スタートのシルヴァー・スクリーマー Silver Screamer が先手を奪いましたが、向正面で本命ラーフィングが先頭を奪うと、そのまま内ラチ沿いに追い込むシメリング・モーメント Shimmering Moment を1馬身抑えて人気に応えました。更に3馬身半差でアイランド・スクール Island School が3着。賞金の他にボーナスを受け取りました。
アラン・ゴールドベルク厩舎、ラファエル・ベハラノ騎乗のラーフィングはアイルランド産馬。去年まではアイルランドでチャールズ・オブライエン師が管理し、レパーズタウンのリステッド戦(11ハロン)に勝っていました。シーズン最後にカナダのE.P.テイラー・ステークス(カナダGⅠ)で7着したのが北米デビュー、今回がアメリカでのステークス初勝利となります。日本でも名前が知られている香港のヴィヴァ・パタカ Viva Pataca の半妹に当たる血統。

続いてはダート・コースの古馬牝馬戦、モーリー・ピッチャー・ステークス Molly Pitcher S (GⅡ、3歳上牝、8.5ハロン)。馬場は fast 、こちらも取り消しが1頭あり、7頭立て。G戦勝馬を抑えて2対1の1番人気に推されたのは、G戦未勝利ながら7月4日にベルモントで一般ステークス(エンディア―・ステークス、8.5ハロン)に勝ったアール・ジプシー・ゴールド R Gypsy Gold 。この距離での実績が買われたのでしょう。
しかし結果は9対1と伏兵視されていたブラッシュド・バイ・ア・スター Brushed by a Star の逃げ切り勝ち。天性の逃げ馬ですが、後続馬が巧く逃がし過ぎた結果でしょうか。1馬身半差2着のサクセスフル・ソング Successful Song 、ハナ差3着まで迫ったアール・ジプシー・ゴールドも追い込み策でしたが、まんまと逃げ切られた印象。
これがG戦初勝利となるブラッシュド・バイ・ア・スターは、グラント・フォースター厩舎、コーリー・ナカタニ騎乗。6月29日にプレーリー・メドウズで一般ステークス(アイオワ・ディスタッフ)を11馬身差で勝っての挑戦でした。これまでG戦では、フォールズ・シティー・ハンデ(GⅡ)での6着があるのみ。

三つ目のオーシャンポート・ステークス Oceanport S (芝GⅢ、3歳上、8.5ハロン)は、牡馬のための芝コース戦。最初に紹介したマッチメーカーの牡馬版に相当するレースで、1頭取り消して7頭が出走。6対5の1番人気に推されたクィーンズプレートキッテン Queen’splatekitten は、7月4日にモンマス・パーク競馬場で行われたレッド・バンク・ステークス(芝GⅢ)を2番人気で3着した馬。G戦勝鞍はありませんが、トッド・プレッチャー厩舎への期待も含まれていました。一方このレッド・バンクをブービー人気で逃げ切った8歳馬ゲット・シリアス Get Serious は、オーシャンポートを2度制覇しているヴェテラン。今回も逃げ切りの可能性大との評判から2対1の2番人気で続きます。
しかし結果は大波乱。予想通りゲット・シリアスがスローに落として逃げ、直線でも粘り腰を発揮していましたが、2番手を気楽に追走していた最低人気(25対1)のチューン・ミー・イン Tune Me In が外から追い上げ、内ラチ沿いに猛追した本命クィーンズプレートキッテンを半馬身差抑えての逆転劇。3頭の真ん中に挟まれたゲット・シリアスが首差3着。人気2頭を意外な馬が破る結末となりました。
今年5歳の芦毛せん馬チューン・ミー・インは、ブルース・アレキサンダー厩舎、パコ・ロペス騎乗。前走はアケダクトのアローワンス戦(7月5日)の7着で、G戦は初挑戦、去年9月11日以来勝ち星が無かったのですから人気が無いのも当然。G戦に出走してきたこと自体が不思議なほどの成績でしたから、競馬は判らないものですね。

そしてメインの第45回ハスケル・インヴィテーショナル Haskell Invitational (GⅠ、3歳、9ハロン)。当初の登録通り6頭が出走し、イーヴンの1番人気にはG戦未勝利ながら、ベルモント・ステークスで2着惜敗のペインター Paynter が支持されていました。
一番スタートが良かったのは、ケンタッキー・ダービー以来となる2番人気のジェモロジスト Gemologist 。スタートで後手を踏んだペインターは直ぐに2番手に付け、抜け出す機を窺います。レースが動いたのは3コーナー手前、ラファエル・ベハラノ騎手がペインターにゴーサインを出すと、久々が堪えてかジェモロジストは一杯。一気に突き抜けたペインターは、後方から追い上げるノニオス Nonios を危な気なく3馬身4分の3差突き放して快勝、期待に応えてのG戦初勝利を飾りました。更に4馬身半差で最低人気(28対1)スティールケース Stealcase が3着。バテたジェモロジストは最下位に終わっています。
ペインターは今年2月にサンタ・アニタのメドン・アローワンス戦でデビュー勝ち。才能を感じたボブ・バファート師は、2戦目にサンタ・アニタ・ダービーを使って4着。チャーチル・ダウンズに飛んでダービー・トライアル(GⅢ)で2着した後、プリークネス・ステークス当日は大人しくアローワンス戦で着実に勝ちを拾い、ベルモント・ステークスでの大駆けに繋げました。これが未だ6戦目でのGⅠ制覇。
またバファート師は、この伝統ある準クラシックに6度目の優勝、しかも3連覇達成。もちろんハスケル最多勝利調教師です。これまでの記録を挙げると、2001年ポイント・ギヴン Point Given 、2002年ウォー・エンブレム War Emblem 、2005年ローマン・ルーラー Roman Ruler 。そして一昨年のルッキン・アット・ラッキー Lookin At Lucky 、去年のコイル Coil が続きます。今回師はニュー・ジャージーには出張せず全てスタッフに任せていたようですが、常勝の秘訣を問われて“良い馬を送り込んで、ホットドッグを食べるだけさ”と答えています。今回は馴染のマックスのホットドッグ・スタンドには立ち寄らなかったのでしょうな。それでも勝っちゃう。

この日ばかりは注目度をお隣のニュー・ジャージーに譲ったサラトガ競馬場からは、3歳短距離戦のアムステルダム・ステークス Amsterdam S (GⅡ、3歳、6.5ハロン)。fast の馬場に7頭立て。9対5の1番人気に支持されたカレンシー・スワップ Currency Swap は、前走ベルモントのウッディー・スティーヴンズ・ステークス(GⅡ、6月9日)で目下の3歳短距離チャンピオン、トリンニバーグ Trinniberg の2着した馬。チャンピオン不在のここでは固い本命でしょうか。
スタートで3番人気(3対1)のガン・ボート Gun Boat が大きく躓いて落馬寸前、ロザリオ騎手は持ち堪えましたが、この時点でガン・ボートは脱落してしまいます。レースは外枠スタートのドクター・チット Doctor Chit がハナを奪い、本命カレンシー・スワップは2番手待機。直線危な気なく抜け出すと、粘るドクター・チットに1馬身4分の3差を付ける快勝で期待に応えました。2着争いは接戦で、4番手から追い込んだアンブライドルズ・ノート Unbridled’s Note が首差3着、更に首でローリーズ・ロケット Laurie’s Rocket 4着。ガン・ボートは大きく離された6着に敗退。
テレサ・ポンペイ厩舎、ラジーヴ・マラー騎乗のカレンシー・スワップは、サラトガ競馬場と極めて相性の良い馬。サラトガはポンペイ師の出身地でもあります。2歳デビュー戦の6馬身勝ち、ホープフル・ステークス(GⅠ)に続いて今回の3勝は全てサラトガで挙げた勝利です。このあとは8月25日にサラトガで行われるキングズ・ビショップ・ステークス(GⅠ)でパーフェクトを目指します。

最後にデル・マー競馬場の短距離GⅠ戦、ビング・クロスビー・ステークス Bing Crosby S (GⅠ、3歳上、6ハロン)のレポートです。ポリトラック・コースの馬場は fast 、5頭立てと小頭数ですが見所は充分です。イーヴンの1番人気は、2頭出しボブ・バファート厩舎のエース格ザ・ファクター The Factor 。去年のサラトガでパット・オブライエン・ステークス(G1)を制し、12月のサンタ・アニタでもマリブー・ステークス(GⅠ)に勝ってGⅠ3勝目を狙う馬、得意の7ハロンより1ハロン短い距離ですが、ガルシア騎手とのコンビ復活が期待されます。
一方、2番人気(9対5)に推された去年のチャンピオン・スプリンター、アマゾンビー Amazonbie の復活にも注目。今期はここまで3戦1勝ですが、前走はチャーチル・ダウンズ・ステークス(GⅡ)でシャックルフォード Shackleford の2着、その前にはポトレロ・グランデ・ステークス(GⅡ)を勝っており、秋に向けてのローテーションも順調の様子。この2強は同じ123ポンドを背負っての対決だけに、目が離せません。
レースは伏兵(23対1)コンマ・トゥー・ザ・トップ Comma to the Top が逃げ、ザ・ファクターがピッタリ2番手でマーク。先行2頭から3馬身離れてアマゾンビーが続き、更に3馬身で後方2頭が並ぶ展開。アマゾンビーは丁度真ん中で、ポケットに入ったような展開です。
直線に入っても逃げたコンマ・トゥー・ザ・トップの逃げ足は衰えず、ザ・ファクターがこれを捉えるのに苦労しているのを尻目に、名手マイク・スミスに御せられたアマゾンビーが外から両馬を捉え、最後は辛うじて2番手に上がったザ・ファクターに1馬身4分の1差を付ける快勝。同じバファート厩舎のキャピタル・アカウント Capital Account が僚馬を頭差まで追い詰めての3着。大健闘のコンマ・トゥー・ザ・トップは4着でした。
アマゾンビーを管理するウイリアム・スポール調教師は、同馬の共同馬主の一人でもあります。これがGⅠ3勝目、このあとは去年も勝ったサンタ・アニタ・スプリント・チャンピオンシップ(GⅠ)からBCスプリントへと、2年連続のチャンピオン・スプリンターを目指すローテーションを歩むでしょう。

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