北アイルランドの音楽家たち

これは予想外に面白いコンサートでした。8月4日のマチネーとして演奏されたプログラム。この日は夜のコンサートもあったのですが、こちらを採りましょう。因みに夜の Prom 29 はイギリス連邦のユース・オケ、こちらはアルスター(北アイルランドに属します)のユース・オケによるコンサート。
今年のプロムスは若者にスポットを当てる演奏会が目白押しで、これもその一環です。

≪Prom 28≫
シャブリエ/狂詩曲「スペイン」
モーツァルト/フルート協奏曲第2番
エレーヌ・アグニュー/Dark Hedges (BBC委嘱、世界初演)
     ~休憩~
ストラヴィンスキー/火の鳥
 管弦楽/アルスター・ユース管弦楽団、アルスター管弦楽団
 指揮/ジョアン・ファレッタ
 フルート/サー・ジェームス・ゴールウェイ

アルスター(都市の名前じゃなく、地方)にはもちろん成人のオケもあって、CDもたくさん出てます。それとは別に1993年にユース・オケも組織されていて、この日は両者の合同演奏会ですね。
シャブリエはユースが、モーツァルトはアルスター管弦楽団が受け持ち、残り2曲は合同演奏。共に大編成の音楽です。

ロイヤル・アルバート・ホールからの中継ですが、音質が優れているのが不思議。これまでのネット中継より良い音なのは何故でしょうか。マイクの位置なのか、技術者が違うのか。

ファレッタは去年からアルスター管弦楽団の首席指揮者を務めているアメリカ人女流指揮者。中々の美人ですよ。女性ですから年齢はクレジットされていませんが、これが彼女のプロムス・デビューだそうです。
フルートのゴルウェイはもちろん北アイルランド出身(ベルファスト生まれ)ですし、この日世界初演される作曲家のアグニューも北アイルランドの女性作曲家。つまり北アイルランドの力量をフルに味わってもらおうという企画ですな。正に五輪イヤーならでは。

シャブリエのポピュラーな作品、最後のホルンのトリルに耳慣れないパッセージを吹かせていました。聴いていてドキッとしましたが、別エディションとかあるんでしょうか? 思わずニンマリ。

モーツァルトも遊び心に満ちたもので、大家のソロ特有の崩しがあります。レコーディングでは絶対やらないような遊びは、ナマ演奏ならでは。テクニック満載のカデンツァは、ヨハンネス・ドンジョン Johannes Donjon の作だそうです。
アンコールにバッハの第2組曲からバディヌリーを吹きましたが、曲目の紹介もユーモアたっぷり。客席が沸かないワケありません。

3曲目はこの日初めて紹介されるBBC委嘱作の世界初演。作曲家エレーヌ・アグニュー Elaine Agnew は1967年生まれの女流で、曲名は「暗い垣根」とでも訳すのでしょうか。有名なストーン・ヘッジの Hedge です。
アルスターの Country Antrim 近郊の村に古くからあるブナ街道からインスピレーションを得て書いたとか。プレイヤーが舞台の他にアリーナにも分散して置かれ、ゴルウェイも演奏に参加したようです。作品にはフルートのソロも登場。
3部分から構成されますが、単一楽章で12分ほど。音量も凄いものですが、音色も多彩で、とても楽しめる作品でした。客席も好評の様子。

最後も意外な選曲で驚きました。火の鳥組曲と聞いて、なんだ、あれか、と思う人は聴いてごらんなさい。これは組曲でも頻繁に演奏される1919年版じゃありません。時々演られる1945年版でもなし。
以前に「読響聴き所」というカテゴリーに書いた記憶がありますが、火の鳥には3種類の組曲があって、これは俗に第1組曲と呼ばれるもの。バレエ本体の初演から4か月後に組曲としてサンクト・ペテルブルグで初演されたもので、全曲版スコアからコピーして準備されたものの由。初演はアレクサンドル・ジロティーの指揮。
出版は1912年になされていますが、ストラヴィンスキー自身が1919年に第2組曲(最も有名な奴)を編むまでは、この曲の定番として演奏されてきたもの。1919年の小編成とは違い、今回珍しくも演奏された組曲はバレエ全曲と同じ大編成です。

私は今回初めて聴きましたが、「カッチェイ王の踊り」で終了し、その後の子守歌も第2部(フィナーレ)も入っていません。
その代わり、というのも変ですが、前半の音楽からかなりの部分が採用されていて、演奏会用に終結のパッセージを新たに書き足した部分も数か所あります。全体的な印象は、バレエ全曲から何処を抜粋したかではなく、何をカットしたかという感じ。スコアを見ながら聴きたい人は、組曲版ではなく全曲版スコアを参照した方が面白く聴けること間違いナシ。
嘘だと思ったらBBCプロムスのホームページに行って御覧なさいな。あと4日間は聴けるはず。

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