2012ヨーク・イボア開催初日

水曜日から土曜日までの4日間、ヨーク競馬場で伝統のイボア・ミーティングが行われます。開催のタイトルとなっているイボア・ハンデキャップは土曜日、パターン・レースではありませんが、伝統的に開催のシンボルでもあります。
初日は、既に日本でも報道されているように、ジャドモント・インターナショナルにフランケルが登場することで現地も大いに賑っていたようです。フランケル圧勝については後述するとして、ここではレース順に初日の3鞍をレポートして行きましょう。

先ずはエイコム・ステークス Acomb S (GⅢ、2歳、7ハロン)。馬場は good to firm 、所により good と如何にも夏らしい固い馬場。出走馬は僅かに5頭、前走リングフィールドの未勝利戦をトラック・レコードで、しかも2着に12馬身の大差を付けて圧勝したダンドネル Dundonnell が15対8の1番人気に支持されていました。

先手を取ったのはオブライエン父子のアルフォンソ・デ・スーザ Alfonso De Sousa 、人気のダンドネルは最後方に待機します。
直線、着実に末脚を伸ばしたダンドネルは先頭に立って馬の若さを出してややフラ付く場面もありましたが、2番手で食い下がるスティーラー Steeler を4分の3馬身差抑えて優勝。逃げたアルフォンソ・デ・スーザが半馬身差で3着。

ロジャー・チャールトン厩舎、ジェームス・ドイル騎乗のダンドネルは、フランケルと同じハーリッド・アブダッラー殿下の持ち馬。殿下のジャドモント牧場にとって幸先の良いスタートとなりました。

続いてはセントレジャーのトライアルとなるグレート・ヴォルティジュール・ステークス Great Voltigeur S (GⅡ、3歳、1マイル4ハロン)。6頭が出走し、13対8の1番人気は、無敗で臨んだダービーでキャメロット Camelot の2着に健闘したメイン・シークエンス Main Sequence 。続くパリ大賞典は4着ながら苦手の不良馬場でのもので、馬場の回復したここでは本来の実力が発揮できるでしょう。
しかし相手も手強く、ロイヤル・アスコットのキング・エドワード7世ステークスを制して3連勝を目指すトーマス・チッペンデール Thomas Chippendale が4対1の2番人気。グッドウッドでゴードン・ステークスに勝ったノーブル・ミッション Noble Mission が9対2の3番人気、その2着エンカ Encke も7対1の4番人気で続きます。

レースは最低人気(と言っても9対1)のソート・ワージー Thought Worthy がスタート良く飛び出し、スローに落としての逃げ。エンカ2番手、トーマス・チッペンデール3番手と続き、メイン・シークエンスは4番手に付けます。
ソート・ワージーがペースを上げながら直線に入り、後続馬も一気に追撃態勢に入りますが、ウイリアム・ビュイック騎手の逃げのペースが絶妙だったためソート・ワージーとの差は中々詰まりません。漸く頭を上げながらもメイン・シークエンスが馬体を寄せてきましたが、最後は首差届かずソート・ワージーの逃げ切り勝ち。2馬身差でエンカが3着。トーマス・チッペンデールは5着、ノーブル・ミッションも5着と伸びきれませんでした。有力馬たちはスローペースに嵌った感じ。

ソート・ワージーはダービーでは4着、キング・エドワード・ステークスでも3着。そのキング・エドワードではノーブル・ミッションにも先着を許していたのですから、今回は逆転劇でした。
管理するジョン・ゴスデン師は、2007年のルカルノ Lucarno 、2008年のセンテニアル Centennial に続きこのレース、ここ6年で3勝目。ルカルノはソート・ワージーの全兄で、ここをステップにセントレジャーを制しました。兄弟制覇のかかるセントレジャーのオッズは、これまでの20対1から14対1に上がっています。9月15日、キャメロットとの逆転なるか。

そして初日、いや今開催のメイン、ジャドモント・インターナショナル・ステークス Juddmonte International S (GⅠ、3歳上、1マイル2ハロン88ヤード)。スポンサーであるジャドモント陣営は去年の時点でフランケル Frankel での挑戦を明言していましたから、これまで1マイルに限定してきた世界最強馬の10ハロンへの初挑戦に注目が集まっていたのも当然でしょう。
長年このレースのスポンサーだったハーリッド・アブダッラー殿下のジャドモント、去年は念願だった同レース制覇をトゥワイス・オーヴァー Twice Over で果たし、更にはワン・ツー・フィニッシュも達成(生産者としては1着から3着まで独占)していましたから、今回は2連覇達成が掛かります。
出走馬は9頭。フランケルの出走するレースとしては多頭数ですが、やはり未知の距離への挑戦に対する不安があったのも事実でしょう。ジャドモントはいつものようにペースメーカーとしてバレット・トレイン Bullet Train (フランケルの兄)に加え、前年の勝馬トゥワイス・オーヴァーも出走させてきました。

人気は、フランケルが1対10という英国では考えられないほどの圧倒的なオッズ。この距離ならと期待のかかるオブライエン厩舎のセント・ニコラス・アビー St Nicholas Abbey が5対1で2番人気、サセックスではフランケルに6馬身千切られたファー Farhh は10対1の3番人気、トゥワイス・オーヴァーが12対1の4番人気で続きます。

本来ならバレット・トレインがペースメーカーを務めるはずですが、今回はオブライエン厩舎のペースメーカーであるロビン・フッド Robin Hood とウインザー・パレス Windsor Palace が2頭で引っ張ります。バレット・トレインは3番手、それから4馬身ほど離れてジョセフ・オブライエン騎乗のセント・ニコラス・アビーが4番手。これをマークするようにファーが続き、スタートの余り良くなかったフランケルは後方7番手辺りを追走しますが、鞍上トム・クィーリーに焦りはありません。
馬群全体がスタンドに近いラチ沿いに進路を取りながら直線。先行馬のジョッキーたちの手が懸命に動く中、オブライエンとクィーリーは身動き一つせずに馬群とラチの間を衝きます。漸くセント・ニコラス・アビーの手が動いて抜け出しにかかった時、未だ持ったままのフランケルが大外(スタンドに近い側)からあっという間に抜けると、あとは独り舞台。ゴール板では並んで入線する2着争いに7馬身差を付けていました。しかも最後は馬を抑える余裕。
写真判定の結果、ファーがハナ差でセント・ニコラス・アビーに先着、更に6馬身差が開いてトゥワイス・オーヴァー4着、首差でバレット・トレイン5着。人気上位はほぼ人気通り入線しましたが、フランケルの優位には疑う余地もありません。通常の年なら、2着馬にしても3着馬にしても堂々たるGⅠ制覇だったでしょう。それがフランケルにかかると、まるで未勝利馬のようにあしらわれるのですからフランケルはズバ抜けた存在です。敗れた陣営は全てそれを認めていました。

これで無傷の13戦無敗。唯一懸念のあった距離についても、終わって見れば1マイル戦以上のパフォーマンスでしたね。フランケルのレースの中でも最高のレヴェル、というのがレース後の評価です。
こうなれぱ凱旋門賞に挑戦してくれ、という悲鳴が起きるのは当然でしょう。実際、1対4という馬鹿馬鹿しいほどのオッズを提示したブックメーカーもあるようです。セシル師はチャンピオン・ステークスを最後のレースとして主張していますが、凱旋門の可能性がゼロではないのも事実。陣営では慎重に検討してフランケルの最後の舞台を決定してくるでしょう。
長年患っている癌の為この所入退院を繰り返しているヘンリー・セシル翁、この日はヨークに姿を見せ、愛馬の激走を労っていました。永遠に目に焼き付けておきたい光景でしたね。ファンの祝福も凄まじいものでした。

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