スノー・フェアリー、愛チャンピオンも制す

この週末はヨーロッパが大忙し。特にアイルランドは土曜日にレパーズタウン、日曜日にもカラー競馬場でG戦のオンパレード、GⅠだけでも併せて3鞍が行われます。

それでも先ずは英国から行きましょう。土曜日にヘイドック競馬場で行われたベットフレッド・スプリント・カップ Betfred Sprint Cup (GⅠ、3歳上、6ハロン)。馬場は firm と乾き、2頭が取り消して13頭立てで行われました。
5対2の1番人気に支持されたのは、オーストラリアから英国遠征中のオルタンシア Ortensia 。最初の2レースこそ波に乗れませんでしたが、グッドウッドのキング・ジョージ・ステークス(GⅡ)と前走ナンソープ・ステークス(GⅠ)に連勝、ウイリアム・ビュイック騎手の推薦もあってハットトリックに期待が掛かります。

横に広がった直線コースの6ハロン。スタンドから遠い内枠の2頭が躓くようにスタート。9番枠スタートの3番人気(11対2)ストロング・スート Strong Suit が先手を取りますが、大外15番枠のオルタンシアも中団で様子見。躓いたように見えた2番人気(11対4)、1番枠のベイテッド・プレス Bated Breath が抜け出したところ、これをマークするように中団を進んだ4番人気(10対1)のソサエティー・ロック Society Rock が内ラチ沿いに鋭く抜けてゴール。最後で伏兵(12対1)のゴードン・ロード・バイロン Gordon Lord Byron が急襲しましたが4分の3馬身及ばず2着。ベイテッド・ブレスが粘って1馬身4分の1差3着。本命オルタンシアはレース半ばで前脚を負傷、一早く悟ったビュイック騎手は最後まで追わず、ブービーで入線しています。オルタンシア陣営の英国挑戦はこれで終幕を迎えました。
ジェームズ・ファンショウ厩舎、キーレン・ファロン騎乗のソサエティー・ロックは、去年のゴールデン・ジュビリー(GⅠ)以来の勝鞍となり、2つ目のGⅠ制覇。今期はデューク・オブ・ヨーク・ステークス(GⅡ)3着、ダイヤモンド・ジュビリー(GⅠ)5着、ジュライ・カップ(GⅠ)3着と来て今回の勝利。スタートに難のある馬で、ロイヤル・アスコットでもスタートの失敗が全てでした。スタート練習をみっちり重ねたことが、今回の逆転劇に繋がったようです。GⅠでは他にも2度2着(モーリス・ド・ギースト賞、2010年のゴールデン・ジュビリー)している実力馬だけに、ツボに嵌れば怖い1頭でしょう。

続いてケンプトン・パーク競馬場のポリトラック・コースで行われるGⅢ戦2鞍。馬場は standard の発表で、芝コースとは表現が異なります。
先ずは凱旋門賞へのトライアルとして使われることもあるセプテンバー・ステークス September S (GⅢ、3歳上、1マイル4ハロン)。1頭取り消して9頭が出走してきましたが、3対1の1番人気に支持されたのは意外にもミジャー Mijhaar というパターン・クラスでは新星。ハンデ戦やリステッドで入着はあるものの、前走もヨークのハンデ戦で着外負けしている馬で、この人気はやや理解に苦しみます。

レースはサーカムヴェント Circumvent が逃げ、2頭出しゴドルフィンの一角カルヴァドス・ブルース Calvados Blues が2番手、フランスから遠征のハヤ・ランダ Haya Landa が3番手追走。
4番手を進んだゴドルフィンのもう1頭で2番人気(10対3)、去年のこのレースの勝馬モードゥン Modun が先に抜け出しましたが、これをマークするように5番手の内で待機していた3番人気(7対2)のダンディーノ Dandino が残り2ハロンで先頭に立つと、追い込むサグラモア Sagramor に1馬身4分の1差を付けて優勝。更に半馬身差でモードゥンが3着。

ダンディーノを管理するジェームズ・ファンショウ調教師は、ヘイドック出張中で不在。出張先でも見事にソサエティー・ロックでGⅠを射止めたのですから、その前に行われたこのレースは嬉しいG戦ダブルとなりました。勝利騎手はジム・クロウリー。

続いては同じポリトラックの2歳戦、サイレニア・ステークス Sirenia S (GⅢ、2歳、6ハロン)。ダービー馬グランディ Grundy が勝ったこともあるレースですが、当時は芝コースで行われていました。今年は1頭が取り消して11頭立て。2連勝のあと前走ジムクラック・ステークス(GⅡ)5着のパール・アクレイム Pearl Acclaim が4対1の1番人気。

そのパール・アクレイムが先頭で逃げ、伏兵(25対1)ザネット Zanetto がピタリと2番手に付ける展開。ザネットが粘るパール・アクレイムを交わしましたが、7番手辺りを追走していた6番人気(12対1)のグラス・オフィス Glass Office が外に回すと一気の鋭い脚。他馬が止まって見えるほどの脚色で、粘るザネットに3馬身半差を付ける圧勝です。頭差で2番人気(9対2)のウェル・アクウェインテッド Well Acquainted が3着。本命パール・アクレイムも粘りましたが5着敗退でした。

デヴィッド・シムコック厩舎のグラス・オフィスは、これが3勝目。勝鞍の全てがケンプトンのポリトラック・コースでのものですから、もっと人気があっても良かったのではないでしょうか。騎乗したジム・クロウリーは、セプテンバー・ステークスに続いてパターン・レースのダブル達成。

そして愈々アイルランドのレパーズタウン競馬場に飛びましょう。GⅠが2鞍の豪華プログラムです。馬場は good 所により good to firm 。
最初は牝馬による1マイルのG戦、メイトロン・ステークス Matron S (GⅠ、3歳上牝、1マイル)。去年のこのレースの勝馬エミュラス Emulous の2連覇に期待が集まり、11対4の1番人気。

ラフ・アウト・ラウド Laugh Out Loud が逃げ直線、後続馬が一気に追い上げて大混戦になりますが、中を縫うように追い込んだ2番人気(7対2)のダントル Duntle が僅かに抜けて1着入線。大外から追い込んだ4番人気(11対2)のチャチャマイデー Chachamaidee が短頭差で2着に入り、エミュラスは半馬身差で3着。逃げたラフ・アンド・ラウドも4着に粘り、ラ・コリーナ La Collina が5着。
ところが最後の競り合いが対象となり、25分間の審議。結局1着で入線したダントルが2着に降着となり、優勝はチャチャマイデーという最終結果が発表されました。ダントルが進路をこじ開けるようにやや外目に出した結果、アランザ Alznza (6着)に影響したことが対象だそうですが、レース映像を何度見直しても進路妨害は良く判りません。長い議論の末の判断ですから、オーソライズされた結果を受け入れるしかないのでしょう。

結果として優勝を勝ち取ったチャチャマイデーは、サー・ヘンリー・セシル厩舎、トム・クィリー騎乗の英遠征チーム。調教師、騎手共にこのレース初制覇となります。今期はGⅢ、GⅡと着実に優勝クラスを上げ、遂に悲願のGⅠ制覇を成し遂げました。次はもう少しスッキリと頂点に立ちたいところでしょう。

続いてはエンタープライズ・ステークス Enterprise S (GⅢ、3歳上、1マイル2ハロン)。これまで耳にしたことの無いレース名ですが、去年まではキルターナン・ステークス Kilternan S として知られてきた一戦。今年が12回目となる未だ歴史の浅いG戦です。1頭取り消しがあり5頭立て。前走ガリニュール・ステークス(GⅢ)に勝った3歳馬のスピーキング・オブ・ウイッチ Speaking Of Which が4対5の断然1番人気。

レースはチーム・オブライエンのテンス・スター Tenth Star が逃げましたが、後方2番手に待機した4番人気(10対1)のアラ・スペランツァ Alla Speranza が抜け出し、2番手を進んだ2番人気(11対4)のプリマヴェーラ Primevere に半馬身差を付けて優勝の小波乱。本命スピーキング・オブ・ウイッチは更に4分の3馬産差で3着に終わりました。

アラ・スペランツァはジム・ボルジャー厩舎、ケヴィン・マニング騎乗の3歳馬で、英1000ギニーに挑戦するも6着。そのあと愛1000ギニー・トライアル(7着)に使ったのが早過ぎたようで、体調が戻るのに時間が掛かってしまった由。ボルジャー師、マニング騎手共にこのレースは初勝利となります。

土曜日最後のレポートは、大注目のアイリッシュ・チャンピオン・ステークス Irish Champion S (GⅠ、3歳上、1マイル2ハロン)。単にアイルランド最高の古馬戦というに止まらず、1か月後の凱旋門賞への絶好のトライアルとなる一戦でもあります。出走馬は僅かに6頭でしたが、凱旋門を目指す3強の激突が最大の見所でしょう。
キング・ジョージ、エクリプス2冠のナサニエル Nathaniel が13対8の1番人気、故障から見事に復帰してジャン・ロマネ賞を制したスノー・フェアリー Snow Fairy が15対8の2番人気、勝ち味に遅い難点はあるもののコロネーション・カップ2連覇、BCターフ覇者のセント・ニコラス・アビー St Nicholas Abbey が3対1の3番人気で続きます。これが3強。イヴニング開催のため、ヘイドックで本命馬に騎乗していたウイリアム・ビュイックがナサニエルに駆け付け、負傷したムーアに替ってデットーリがスノー・フェアリーに騎乗するのも見所でしょう。

レースはオブライエンのペースメーカー、ダディー・ロング・レッグス Daddy Long Legs が危険なほどのハイペースで逃げ、ジョセフ・オブライエン騎乗のセント・ニコラス・アビーは後方2番手に待機。直線、2番手を進んだナサニエルが入れ替わるように先頭に立ちましたが、4番手でタイミングを計っていたスノー・フェアリーが持ち前の瞬発力を発揮して抜け出し、1馬身4分の1差ナサニエルを捉えての快勝。セント・ニコラス・アビーも最後で良く追い上げましたが、4分の3馬身及ばず3着。評判通り3強の叩き合いで決着しました。どの陣営も凱旋門を意識しての前哨戦でしょう。

現役続行を危ぶまれるほどの故障からここまで馬を立て直したエド・ダンロップ調教師、もちろん師がこれまで管理した最高の馬でしょうね。彼女に6回騎乗してパーフェクトな成績を残したライアン・ムーア騎手も、ライヴァルでもあるランフランコ・デットーリに貴重なアドヴァイスを与えていましたし、デットーリもムーアの紳士的な態度を絶賛していました。デットーリにとって愛チャンピオンは5勝目。その彼でも、直線でスノー・フェアリーが先頭に立った時の観客の大声援には感慨深げ。彼女の人気はエモーショナルな面も含めて絶大です。故障からのリハビリを、多くはアイルランドで過ごしたことが人気の基にあるようですな。
当然ながら凱旋門のオッズも8対1に上がりましたし、ハイペースを追い掛けてなお2着を死守したナサニエルも6対1のオッズに変更はありません。スノー・フェアリーには、更にチャンピオン・ステークスでフランケル Frankel との対決という楽しみも考えられますし、BC遠征で6か国でのGⅠ制覇という夢も広がります。今年の凱旋門も役者が揃ってきました。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください