三者三様のトライアル

昨日のロンシャン競馬場は凱旋門フェスティヴァルを3週間後に控え、重要なトライアルが行われました。この日は8レースの内6レースがパターン・レースと、秋競馬が一気に本格化した印象です。馬場は終日 good to soft 。陣営によっては重馬場と言い、別の見方では乾き過ぎたと言う微妙な状態でしょう。
日本でもオルフェーヴルの海外初戦に注目が集まり、テレビ放映もあったようですが、ここではレース順のレポートとなります。

最初はオープニング、第1レースで行われたプティ・クーヴェール賞 Prix du Petit Couvert (GⅢ、3歳上、1000メートル)。言うまでもなくアベイ・ド・ロンシャン賞のトライアルとなる最短距離戦です。1頭取り消しがあり7頭立て。短距離に強い英国馬、ロンシャンの5ハロンでGⅢに勝ったこともあるイングザイル Inxile が23対10の1番人気に支持されていました。

そのイングザイル、スタート良く飛び出して逃げ切りを図りましたが、楽に2番手を追走した2番人気のムシュー・ジョー Monsieur Joe がゴール前250ヤードで本命馬を交わし、4分の3馬身差を付けて優勝。前評判通り英国馬のワン・ツー・フィニッシュです。この2頭が他を圧し、漸く4馬身遅れの3着に地元のフラッシュ・マッシュ Flash Mash 。今年9歳になる往年の仏チャンピオン・スプリンター、マルシャン・ドール Marchand D’Or は5着まで。
勝ったムシュー・ジョーはロバート・カウエル厩舎、2着はデヴィッド・ニコラス厩舎、前者にはオリヴィエ・ペリエ、後者にはエイドリアン・ニコラスが騎乗していました。この両馬、今年2月にメイダン(ドバイ)の5ハロン戦でも1・2着したライヴァルで、その時は11ポンドの斤量差(イングザイルの方が重い)で着差は4分の1馬身。今回は同斤でしたから、勝馬の成長が勝っていたという計算になります。ムッシュー・ジョーは前走ヨークのナンソープ・ステークスでは14着惨敗でしたが、その前のドーヴィルでのリステッド戦には勝っており、どうやら海外の水の方が合っているのかも知れません。

続いてはフォア賞 Prix Foy (GⅡ、4歳上牡牝、2400メートル)。古馬のための凱旋門賞トライアルです。日本からオルフェーヴル(Orfevre)が参戦することで話題になっていましたが、登録段階から出走予定が少なく、結局は5頭立て。オルフェーヴルは海外初出走となりますが、日本での実績と相手関係から7対10の断然1番人気に支持されていました。
池江泰寿厩舎がペースメーカーとして出走させたアヴェンティーノ(Aventino)が逃げ、クリストフ・スミオン騎乗のオルフェーヴルは最後方に待機。ペースは超スローで流れる中、直線で内を衝いたオルフェーヴルが一気に抜け、2番手から並び掛けるジョシュア・トゥリー Joshua Tree を抜かせず優勝。3番手から追い上げた2番人気のメアンドル Meandre が1馬身差で2着、首差でジョシュア・トゥリーの順。

現地ではこのレースの評価は分かれたようです。日本の最強馬という評判を聞いていた評者はもっと派手なパフォーマンスを期待していたようで、勝ち方が平凡(workmanlike)との見方。一方で、最後方から一気に先頭に立った脚を讃える声もあります。
騎乗したスミオンは、もう少し成長しないと凱旋門賞制覇は難しいとコメントする一方、初体験のロンシャンで勝つのは難しく、この経験は良い方向に作用しよう、とも語っています。3歳時のタイムフォームの評価はオルフェーヴル127に対しメアンドル124、今回の着差とほぼ同じ結果。因みに去年の凱旋門でデインドリーム Danedream が獲得したのが132、2着のシャレータは123でした。久し振りの実戦とロンシャンを経験したことで馬がどう変わるか、あと3週間で調教師が何処まで上乗せしてくるかが勝敗のポイントでしょう。
凱旋門賞のオッズを上げたブックメーカーもあれば、現状維持もあり。いずれにしても7対2から9対2の範囲で、上位人気の一角であることに変りはありません。当日は日本マネーが流入して1番人気に祭り上げられることもあるでしょう。それだけの評価に応えられるか?

ハンデ戦を一つ挟んで第4レースに組まれていたのがニエル賞 Prix Niel (GⅡ、3歳牡牝、2400メートル)。こちらはクラシック世代限定の凱旋門トライアルです。こちらも出走馬は少なく6頭立て。トライアルとしてはニエル賞の方が本番に直結することが多いのですが、ここまで見る限りでは今年の3歳はややレヴェルが低いのかも。6対4の1番人気にはパリ大賞典2着のラスト・トレイン Last Train が支持されましたが、未だ1勝馬です。仏ダービー馬サオノア Saonois が3番人気(9対5)というのも、この世代が余り信用されていないことを象徴しているよう。

レースは2頭出しアガ・カーンのペースメーカー、ケサンプール Kesampour が逃げましたがペースはスロー。最後は瞬発力勝負のスプリントと化してしまいます。結局は最後方待機、残り100ヤードまで前が塞がっていたサオノアが一気の瞬発力で優勝。1馬身4分の1差2着にアガ・カーンの2番人気(5対2)バイリール Bayrir が入り、短頭差で2番手を追走していた本命ラスト・トレインの順。

ジャン=ピエール・ゴーヴァン厩舎、アントワーヌ・アムラン騎乗のサオノアは、仏ダービー以来3ヶ月ぶりの競馬。多頭数のクラシックはフロック視される傾向にありましたが、その切れ味はGⅠ馬に相応しいものであることを証明して見せた形です。
凱旋門賞のオッズは14対1に上がりましたが、陣営は10万ユーロの追加登録料を支払わなければなりません。陣営はこの勝利で参戦を決意したようです。

続いて最も注目を集める、第5レースのヴェルメイユ賞 Prix Vermeille (GⅠ、3歳上牝、2400メートル)。凱旋門賞トライアルでもある反面、フランス最強牝馬決定戦としての性格もあります。現在は古馬にも解放されていますが、3歳限定時代は事実上フランス・オークス(ディアーヌ賞は2100メートルですから)でもありました。
今年は古馬6頭、3歳馬7頭の合計13頭が出走。去年の凱旋門賞2着馬シャレータ Shareta が5対2の1番人気。3歳世代では無敗のドイツ・オークス馬サロミーナ Salomina が13対2の2番人気、デインドリームと同じコンビ(馬主も社台の吉田兄弟)であることが人気の要因でしょう。

レースは去年の勝馬ガリコヴァ Galikova のペースメーカーを務めるシダーラ Sydarra が逃げましたが、2番手を追走していた本命シャレータが圧倒的な爆発力で抜け出し快勝。最後方から追い込んだ伏兵(48対1)ピリカ Pirika (これまた社台の馬)に2馬身差を付けていました。頭差3着にコリダ賞(GⅡ)でシャレータを破ったことのあるソレミア Solemia が続き、ガリコヴァは内に包まれて出られぬ不利があり5着、サロミーナも10着敗退です。リブルスデール・ステークス(GⅡ)勝馬で愛オークス3着のプリンセス・ハイウェイ Princess Highway もアイルランドから遠征していましたが、7着と力を出し切れませんでした。

シャレータのアラン・ド・ロワイヤー=デュプレ師にとって、ヴェルメイユ賞は7勝目。クリストフ・ルメール騎手はほとんど追った所の無い大楽勝で、前走ヨークシャー・オークスに続くGⅠ2連勝。去年の凱旋門賞ではサラフィナ Sarafina のペースメーカーと見られて66対1の大穴で2着でしたが、今年は10対1から12対1で臨みます。個人的には美味しいオッズだと思いますがどうでしょうか。

第6レースは、この日二つ目のGⅠ戦となるムーラン・ド・ロンシャン賞 Prix du Moulin de Longchamp (GⅠ、3歳上牡牝、1600メートル)。今年のマイル路線はフランケル Frankel が席巻、そのフランケル疲れもあって出走馬はたった4頭です。しかも人気は一騎打ち、二度に亘ってフランケルの後塵を拝したファー Farhh と、今年は意識して1マイルより短い6ハロン、7ハロンで走ってきたムーンライト・クラウド Moonlight Cloud とが共にイーヴンの1番人気でした。

ファーに騎乗するデットーリは、初めから相手のスタミナを消耗すべくハイペースの逃げ作戦。しかしティエリー・ジャルネ騎乗のムーンライト・クラウドも負けてはいません。2番手にマークし、ゴールではキッチリ頭差捉えて戴冠。3着は6馬身の彼方にサルキーラ Sarkiyla の順。
結局ファーは4戦連続でGⅠ戦2着、銀メダルコレクターの有難くない名称を戴くことになります。ゴドルフィン陣営はそれでもチャレンジ精神を萎えさせることなく、次走はチャンピオン・ステークスで再度フランケルに挑む計画。勝てば金、負けても5連続銀を狙うことになるのでしょうか。

一方のムーンライト・クラウド、パレ・ロワイアル(優勝)、ダイアモンド・ジュビリー(2着)、モーリス・ド・ギースト(優勝)とスプリント路線を使って、前走、今期初のマイル戦となるジャック・マロワ賞ではエクスセレブレイション Excelebration の4着。不得手な馬場と道中の不利が敗因ですが、管理するフレディー・ヘッド調教師にとっては引退したゴールディコヴァ Goldikova に替る国際派のスター、フォレ賞には目もくれずブリーダーズ・カップ目指してサンタ・アニタに向かう計画だそうです。

そして最後、第7レースのグラディアトゥール賞 Prix Gladiateur (GⅢ、4歳上、3100メートル)。当然ながらフランス版ゴールド・カップのカドラン賞のトライアルです。ステイヤー路線も近年になく混戦で、1頭が取り消し12頭立て。ゴドルフィンの所有馬で、前走イボア・ハンデに勝ったウイリング・フォー Willing Foe が14対5の1番人気に支持されていました。そのイボアで2着したロイヤル・ダイヤモンド Royal Diamond が前日に愛セントレジャーを制したことが人気に反映していたのは明らかでしょう。

レースは2番人気(5対1)のヴァダマール Vadamar が逃げ、デットーリ騎乗のウイリング・フォーは中団に待機。直線、外に出して追い上げましたが、優勝は同じく中団から伸びた3番人気(56対10)のアイヴォリー・ランド Ivory Land 。後方から追い込むミス・ラーゴ Miss Lago を首差抑えていました。2馬身半差でウイリング・フォーが3着。10歳の長距離戦常連カスバー・ブリス Kasbah Bliss が4着、逃げたヴァダマール5着。

勝ったアイヴォリー・ランドは、5月にヴィコンテッス・ヴィジエ賞(GⅡ)に勝って以来の競馬。これが3つ目のG戦勝利となります。管理するアラン・ド・ロワイヤー=デュプレ師は、ヴェルメイユ賞に続くG戦ダブル。こちらはステファン・パスキエが騎乗していました。当然ながらカドラン賞でGⅠ初制覇を目指します。

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1件の返信

  1. じゅん より:

    昨年のBC記事にコメントさせて頂いたじゅんです。
    いつもありがとうございます。
    毎日こちらのブログを覗くのが日課です。
    とても勉強になり、助かっております。
    音楽記事も楽しく拝見しております!^^
    これからもメーリーウイロウさまのペースに合わせてどうぞよろしくお願いしますm(__)m

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