フランケルへの挑戦状

今年も凱旋門賞ウィークがやって来ました。ロンシャン競馬場では土曜日にGⅡ戦4鞍、日曜日にはGⅠ戦7鞍で競馬の祭典を祝います。
今回は土曜日のレポートですが、その前にアスコット競馬場で行われたGⅢ戦3鞍を紹介しましょう。

アスコットの馬場は soft 、先ずはコーンウォリス・ステークス Cornwallis S (GⅢ、2歳、5ハロン)。馬場を嫌って3頭が取り消し6頭立て。前走エアのリステッド戦に勝ったガースウッド Garswood が7対4の1番人気に支持されていました。

直線コースの5ハロン。6頭が横一線で相手を窺う中、中央を通る4番人気(9対2)のバングル・インタージャングル Bungle Interjungle と内ラチ沿い(スタンドに近い側)のカースウッドが抜け出しての叩き合い。頭差でバングル・インタージャングルがガースウッドを抑えていました。両馬の間を割るように追い込んだ2番人気(3対1)のエル・マナーティ El Manati が首差まで詰め寄って3着。
ミック・シャノン厩舎、マーチン・ヘイリー騎乗のバングル・インタージャングルは、3走前にグッドウッドでモールコム・ステークス(GⅢ)を制しているため3ポンドのペナルティーを背負っていました。4番人気に落ちていたのはそのため。グッドウッドの後カラーのフェニックス・ステークス(GⅠ)が5着、ドンカスターのフライング・チルダース・ステークス(GⅡ)は2着でした。3歳はスプリンター路線を歩むことになるでしょう。

続いてカンパーランド・ロッジ・ステークス Cumberland Lodge S (GⅢ、3歳上、1マイル4ハロン)。ここも2頭が取り消して6頭立て。人気は割れ、ハワーフェズ Hawaafez とゴドルフィンのウイリング・フォー Willing Foe が1番人気(9対4)で並んでいました。前者は前走リリー・ラングトリー・ステークス(GⅢ)の4着馬、後者はイボア・ハンデの勝馬です。

レースはジョニー・ムルタ騎乗のハワーフェズが先頭、シルヴェストル・スーザ騎乗のウイリング・フォーは2番手でマークする展開。直線、ハワーフェズの逃げ足衰えず後続との差を開く中、最後方を進んだカンボーン Cambourne が直線入口で大きく外に膨れながらも差を詰めます。しかしエディー・エイハーン騎乗のカンボーンはその後も内に切れたり外に寄れたり、要するにフラフラしながら先頭には届きません。結局ハワーフェズがカンボーンを2馬身半抑えての逃げ切り勝ち。人気の一角ウイリング・フォーは平均ペースのまま3馬身半遅れの3着に終わりました。
ハワーフェズを管理するマーカス・トレゴーニング師は、これがこのレース6勝目と相性の良さを見せ付けています。同馬は今期これが3戦目、G戦は初勝利となります。

アスコットの最後はベングー・ステークス Bengough S (GⅢ、3歳上、6ハロン)。2頭取り消しがあり1頭立て。2009年と2011年、このレースに2度勝っているロイヤル・ロック Royal Rock (2010年は17着どん尻負け)、2010年2着で去年は1番人気になりながらスタートを失敗して5着に敗れたゲンキ Genki も出走してきましたが、夫々6番人気(10対1)、7番人気(16対1)と人気はありません。9対4の1番人気に支持されたのは、目下3連勝中の3歳馬ミンス Mince でした。

スタートから先頭を奪った本命ミンス、豪州からゴドルフィンに移籍した5歳せん馬ソウル Soul との叩き合いを頭差制して人気に応えました。4分の3馬身差でイートン・ライフルズ Eton Rifles が3着。ロイヤル・ロックは6着、ゲンキも7着と奮いません。
ロジャー・チャールトン厩舎、ジェームス・ドイル騎乗のミンスは、アスコットのシャーガー・カップ・スプリントに勝ってから4連勝。二つのリステッド戦を挟んで初のG戦勝利となりました。

以上で英国を離れ、ドーヴァー海峡を渡ってロンシャンに向かいます。冒頭で紹介したように、昨日はGⅡ戦が4鞍組まれていました。天気予報が外れ、パリは雨。very soft で始まった馬場は、昼過ぎには heavy に変わるほど。凱旋門賞も「不良馬場」は避けられない状況です。

最初のショードネー賞 Prix Chadenay (GⅡ、3歳、3000メートル)は仏セントレジャーのトライアル。このレースまでは very soft の発表で行われました。取り消しは無く11頭立て。英国(ジョン・ゴスデン厩舎)から遠征したシャンタラム Shantaram が2対1の1番人気に支持されていました。前走バーレーン・トロフィー(GⅢ)を制した馬ですね。

前半はこれも英国(アンドルー・ボールディング厩舎)遠征組のミステリアス・マン Mysterious Man が逃げましたが、半ばから伏兵(84対1)レ・ボーフ Les Beaufs がスパート、後続を5馬身も引き離して直線に入ります。ジュリアン・ギロション騎乗のレ・ボーフが懸命に粘りましたが、2番手でマークした6番人気(126対10)のカンティクム Canticum が鋭く伸び、レ・ボーフを首差捉えて優勝。2馬身半差でゴドルフィン(アンドレ・ファーブル厩舎)のテネンバウム Tenenbaum (53対10、3番人気)が3着。本命シャンタラムは8着敗退です。
デヴィッド・スマガ厩舎、ジェフリー・ブノア騎乗のカンティクムはハーリッド・アブダッラー殿下の所有馬。3歳デビューの晩熟タイプで、前走リュテース賞(GⅢ)では2着していました。仏レジャーに挑戦した後、来シーズンは長距離カップ路線を歩む予定だそうです。

次のダニエル・ウイルデンシュタイン賞 Prix Daniel Wildenstein (GⅡ、3歳上、1600メートル)から馬場は heavy に悪化します。8頭立て、14対5の1番人気にはアガ・カーンのサーキーラ Sarkiyla が選ばれていました。ドーヴィルでリューリー賞(GⅢ)を制し、前走ムーラン・ド・ロンシャン賞(GⅠ)では3着だった3歳牝馬。

レースは、以前スタウト師が管理していたこともあるダックス・スカラー Dux Scholar の逃げ。後方に待機した本命サーキーラは前が塞がる不利があり、最後は追い込んだものの4着まで。優勝は内で包まれながら外に出し、3番手から追い込んだ4番人気(61対10)のジナバー Zinabaa でした。4分の3馬身差で逃げたダックス・スカラーが2着に粘り、更に2馬身半差でエヴァポレーション Evaporation が3着。英国からアンドリュー・ボールディング厩舎が態々追加登録料を支払って参戦したハイランド・ナイト Highland Knight は5着凡走、ボールディング夫人はガックリと肩を落としていました。
去年のこのレースは5着、7歳せん馬のジナバーは重得意で知られる馬。今期も重馬場のミュゲ賞(GⅡ)を制しており、G戦は3勝目となります。ミシェル・マセ厩舎、ジェラール・モッセ騎乗。前走シュマン・ド・フェル・デュ・ノール賞(GⅢ、6着)以来111日振りの休み明けでした。次走はサン=クルーのパース賞を使い、来年は海外遠征の予定だそうです。

続いてはドラー賞 Prix Dollar (GⅡ、3歳上、1950メートル)。GⅠのイスパハン賞より100メートル長い、フランスでも珍しい距離で行われるGⅡですが、1頭取り消して8頭立てで行われました。11対10の断然1番人気に支持されたのは、4か月半ぶりの実戦ながらそのイスパハン賞で2着したシリュス・デ・ゼーグル Cirrus Des Aigles 。イスパハンはその後薬物問題で失格になりましたが、管理するコリーヌ・バランド=バルブ女史はこれを不服として抗争中。

レースはドン・ボスコ Don Bosco の逃げで始まりましたが、中団に付けたシリュス・デ・ゼーグルにオリヴィエ・ペリエがゴーサインを出すと後は他馬を引き離す一方の展開。何と9馬身の大差を付ける圧勝です。2着ゴドルフィン(スロール厩舎)のハンターズ・ライト Hunter’s Light と3着サガ・ドリーム Saga Dream との着差は短首差。
シリュス・デ・ゼーグルは一昨年のこのレースに勝ち、去年は2着。今期はドバイでシーマ・クラシックに、ロンシャンでガネー賞とGⅠに連勝し、前走がイスパハン賞でした。このあとは去年も勝っているチャンピオン・ステークスが目標。当然ながら英国のチャンピオン馬フランケル Frankel と対戦します。ペリエ騎手は“英国にはフランケルあり、フランスにはシリュス・デ・ゼーグルあり”と強気。正に挑戦状を叩き付けんばかりの圧勝劇でした。

土曜日の掉尾を飾るのは、クラシック牝馬対決の一戦となるロワイヤリュー賞 Prix Royallieu (GⅡ、3歳上牝、2500メートル)。古馬にも開放された一戦ながら、今年は3歳馬のみ8頭が出走してきました。2対1の1番人気は英・愛オークスで共に2着したシロッコ・スター Shirocco Star 。一方フランスを代表するのは、仏オークス5着のダルカラ Dalkala 。こちらが3対1の2番人気で続きます。

レースも期待通りの一騎打ち。先手を取って逃げるダルカラを、内で待機したシロッコ・スターが残り2ハロンから追い詰めましたが最後まで差は詰まらず、短首差でダルカラに軍配が上がりました。1馬身半差でラ・コンケラント La Conquerante が3着。
名前でお判りのようにアガ・カーンが所有するダルカラはアラン・ド・ロワイヤー=デュプレ厩舎、クリストフ・ルメール騎乗。G戦はクレオパトラ賞(GⅢ)に続く2勝目です。今年の仏オークスはアガ・カーンの持ち馬ヴァリラ Valyra が圧勝しましたが、不運なことに事故死。何より繁殖牝馬を大切にするアガ・カーンにとって、ダルカラは極めて価値の大きな存在になっていくようです。競走馬としてよりも、母馬としての今後に大注目の1頭でしょう。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください