ニューマーケット終戦

去年から大幅な入れ替えがあったイギリスの秋競馬、新体制でのニューマーケット競馬場が昨日終戦を迎えました。と言ってもパターン・レース・レヴェルでの話ですが。
ニューマーケットに於けるパターン戦フィナーレの昨日は1日7鞍。丁度真ん中に置かれた伝統のハンデ戦、セザレウッチ・ハンデの2マイル2ハロンという長距離を除けば、残り6鞍は全て直線コースで行われるパターン・レースという珍しいプログラム。good to soft のシーズン末期らしい馬場で行われたG戦を順に取り上げていきましょう。

先ずはチャレンジ・ステークス Challenge S (GⅡ、3歳上、7ロン)。11頭が出走してきましたが、確たる中心馬不在の難解な一戦です。1番人気(4対1)は2頭が分け合う形となり、2000ギニー6着のフェンシング Fencing と前走ニューバリーのリステッド戦に勝った豪州出身のスカーフ Scarf が並んでいました。

レースはスタンドに近いラチ沿いに2010年のこのレースに勝ったレッド・ジャズ Red Jazz (12対1)が先頭。これを中団から伸びた4番人気(15対2)のフルブライト Fulbright が首差で差し切って優勝。3馬身4分の1差3着には伏兵(14対1)アーノルド・レーン Arnold Lane が食い込みました。フェンシング4着、スカーフ5着と人気2頭は今一つ。
マーク・ジョンストン厩舎、ジョー・ファニング騎乗のフルブライトは、1週前のリステッド戦(レッドカー競馬場)では6着に凡走していた3歳馬。2歳時にエプサムのリステッド戦(伝統あるウッドコート・ステークス)に勝った馬で、今シーズンは既に12戦してハンデ戦を中心に6勝目。前々走はサンダウンのリステッド戦を制していました。パターン・クラスは初勝利。この日の内容は着差以上に力強いものです。

第2レースからは2歳の重要なG戦が続きます。どれも来年のクラシックに連動し、目が離せません。一昨年より若干時期が遅くなったのがミドル・パーク・ステークス Middle Park S (GⅠ、2歳、6ハロン)。10頭が出走してきました。
こちらも1番人気(9対4)には2頭が並びます。ここまでフランスでG戦に連勝して4戦無敗のレックレス・アバンダン Reckless Abandon に人気が集中するかと思われましたが、モルニー賞ではレックレス・アバンダンの5着に敗退したムーハージム Moohaajim も同じオッズで支持されていました。渡仏の後ミル・リーフ・ステークスに勝ったこと、モルニー賞では不利があったこと、本来ならレックレス・アバンダンの主戦ジョッキーである筈のアダム・カービーが敢えてマルコ・ボッティ厩舎のこちらを選んだことなどの要因が絡んでいたのでしょう。あるいは先週の凱旋門賞で見たように、どうも今年のフランス競馬は低レヴェルでは、という疑いの目が影響したのかも知れません。

しかし結果は中々に内容の濃いものになりました。今回もフランスで手綱を取ったジェラール・モッセが騎乗、スタンドから遠い2番枠スタートのレックレス・アバンダンが直ぐにスタンド側のラチ沿いに切れ込んで先頭。途中でペースを落として余力を温存し、最後は追い込むムーハージムとの叩き合いを首差抑えて無敗記録を更新しました。後方から3頭出しオブライエン厩舎の伏兵格(33対1)ゲール・フォース・テン Gale Force Ten が意外な伸び脚を発揮、これも首差3着に好走しています。結果は本命馬同士のワン・ツー・フィニッシュ。クライヴ・コックス厩舎のレックレス・アバンダンには左に寄れる癖があり、最近2戦で同馬の性格を熟知したモッセの好騎乗が光りました。
レックレス・アバンダンはノーフォーク・ステークス(GⅡ)、ロベール・パパン賞(GⅡ)、モルニー賞(GⅠ)に続くG戦4勝目。デビュー戦とノーフォークまではカービーが騎乗してきましたが、フランスではモッセが鞍上。一方2着のムーハージムは前走ミル・リーフ優勝からカービーの手綱。両馬とも2000ギニーのオッズは20対1で並びましたが、騎手の選択にも注目が集まるでしょう。レックス・アバンダンは今シーズンはこれで終戦、今後のことは冬場にジックリと検討するとのことでした。

この日二つ目のGⅠ戦はデューハースト・ステークス Dewhurst S (GⅠ、2歳、7ハロン)。ミドル・パークとは逆に、一昨年に比べて1週間早まった一戦。以前はミドル・パーク/デューハースト・ダブルという馬もいましたが、同日施行となった去年からは全く別の路線として臨まなければなりません。今年は大本命がいることもあって僅かに6頭立て。その馬はジム・ボルジャー厩舎、ここまで5戦無敗のドーン・アプローチ Dawn Approach で、3対10と被った圧倒的1番人気です。

大本命に賭けたファンが不安になる瞬間は全くありませんでした。万全を期し、ペースメーカーとしてG勝馬(ラウンド・タワー・ステークスGⅢ、ナショナル・ステークスも3着)のレター・モア Leitir Mor を出走させたボルジャー陣営の予定通り、3番手を進んだドーン・アプローチがペースメーカーを捉え、同馬に2馬身4分の3差を付けて期待に応えました。3着は4分の3馬身差で最後方から追い込んだオブライエン厩舎のジョージ・ヴァンクーヴァー George Vancouver 、ラウンド・タワーでもレター・モアに苦杯を喫していた馬ですね。本来がズブいタイプのドーン・アプローチ、目の覚めるような瞬発力こそありませんが、如何にもヨーロッパ・タイプの力馬という印象を与えました。
4戦目でコヴェントリー・ステークス(GⅡ)でG戦初勝利を上げたドーン・アプローチ、そのあとカラーのナショナル・ステークス(GⅠ)に続いて二つ目のGⅠ勝ちです。新馬勝ちした時点で目を付けたゴドルフィンが同馬を購入、ナショナル・ステークスからはお馴染み青の勝負服で走っていますが、陣営によれば来期もジム・ボルジャー厩舎で行くとのこと。最近ゴドルフィンの方針にも変化が見られるようですね。取り敢えず今シーズンはこれが終戦となるでしょう。
ところでワン・ツーを達成したボルジャー師、デューハーストには滅法強く、ここ7年で5勝。特にドーン・アプローチの父ニュー・アプローチ New Approach でもナショナル/デューハーストのダブルを達成しており、この馬も父と同じクラシック路線を歩むのは間違いないと思われます。騎乗していたのは同厩舎の主戦、ケヴィン・マニング。

マラソンのセザレウッチ・ハンデを挟んでこの日4つ目のG戦はロックフェル・ステークス Rockfel S (GⅡ、2歳牝、7ハロン)。11頭が出走、フェアリーハウス競馬場の新馬戦を3馬身で制したばかりのギフト・フロム・ヘヴン Gift From Heaven が11対4の1番人気に支持されていました。

レースはアニーズ・フォーチュン Annie’s Fortune の逃げ、これを4番人気(6対1)のジャスト・ザ・ジャッジ Just The Judge が外から捉えて優勝を攫い、無傷の連勝記録を3に伸ばしました。惜しかったのは1馬身4分の3差で2着に追い込んだ2番人気(5対1)のナージズ Nargys 。内で包まれて出られず、漸くファロン騎手が馬群を割った時にはレースが終わっていました。3着は1馬身差でデザート・ブラッサム Desert Blossom 。人気のギフト・フロム・ヘヴンは8着敗退です。
勝馬を管理するチャールズ・ヒルズ調教師は若手、これが師にとってはこれまでの最高の勝鞍となるでしょう。騎乗したヴェテランのマイケル・ヒルズにとってはこのレース4勝目。これまでの3頭のうち2頭は1000ギニーに駒を進めていますから、ジャスト・ザ・ジャングルにもクラシック挑戦の期待が掛かります。陣営では冬毛が出ているため出走を躊躇っていたそうですが、シーズン最後のチャレンジに賭けた由。最高の結果が出たようです。
勝馬は前走ニューバリー競馬場のリステッド戦(ワシントン・シンガー・ステークス)に勝った後で馬主が替り、今回は新しい勝負服での勝利となります。

ところで1・2着馬の父は、いずれもローマン Lawman 。2007年にデットーリ騎乗で仏ダービーを制した馬で、今年の2歳が2年目の世代。今年は一昨日トーマス・ブライアン賞(GⅢ)を逃げ切ったユーエス・ロー US Law も出しており、活躍が目立つようになってきました。仏ダービーはフロック、などと思っていましたが、中々どうして将来性豊かな血統のようです。今後も要注意。

2歳戦4連発の最後はオータム・ステークス Autumn S (GⅢ、2歳、1マイル)。11頭が出走し、又しても5対2の1番人気を2頭が分け合う混戦です。前走アイルランドで圧勝した評判馬トレーディング・レザー Trading Leather と2戦無敗のモンティリッジ Montiridge 。2頭が1番人気で並ぶのは、この日3鞍目の珍しい出来事でしょう。

レースはグローリー・アエゥイツ Glory Awaits の逃げを2番手で待機したトレーディング・レザーが捉え、これに楽な手応えでモンティリッジが並び掛ける流れ。一旦はモンティリッジが僅かに交わしたように見えましたが、トレーディング・レザーが粘り腰で差し返し、4分の3馬身差で優勝。3馬身遅れの3着にはオブライエン厩舎のアイ・オブ・ザ・ストーム Eye of The Storm が追い込みました。ミドル・パーク・ステークスに続いて、人気2頭による接戦での決着です。
勝ったトレーディング・レザーは、これまたジム・ボルジャー厩舎所属。ボルジャー師、鞍上ケヴィン・マニングと共にデューハーストに続くダブル達成です。デビュー戦2着の後、前走ゴウラン競馬場の未勝利戦を7馬身差で圧勝した馬、テオフィロ Teofilo 産駒ということもあって陣営はダービー候補と見做しており、ダービーのオッズは16対1が提示されました。レーシング・トロフィーにも登録があるようですが、余り悪い馬場は適さないタイプ、ドンカスターの馬場次第ではこれがシーズン終戦となるかも知れません。

ニューマーケット競馬場のG戦フィナーレはダーレー・ステークス Darley S (GⅢ、3歳上、1マイル1ハロン)。1頭が取り消して12頭立て。かつてのG馬、これからG戦で戦おうというメンバーが混在する難解なレースで、前走ケンブリッジシャー・ハンデ(同じコース、同じ距離)を制したブロンズ・エンジェル Bronze Angel が3対1の1番人気に支持されていました。

レースは3頭が雁行するような形で流れ、最内で先頭に立っていた5番人気(8対1)マル・オブ・キラー Mull Of Killough の逃げ切り勝ち。3馬身の差が付いて2着に伏兵(25対1)サイゴン Saigon 、更に1馬身差で2番人気(11対2)のスティピュレイト Stipilate が3着という結果。ブロンズ・エンジェルは5着敗退です。
勝ったマル・オブ・キラーはジェーン・チャップル=ハイアム女史の管理馬。実は今年リンカーン・ハンデとケンブリッジシャー・ハンデと二つの伝統あるハンデ戦で2着していた6歳馬。来年初めのリンカーンは負担重量が大きくなるとのことで、来期はウインター・ダービーからスタートすることを計画している由。
また騎乗したのはジョセフ・オブライエン(今回は9ストーン3ポンド)。この日は父君の管理馬ではリプライ Reply (チャレンジ・ステークス6着)、ジョージ・ヴァンクーヴァー(デューハースト・ステークス3着)、アイ・オブ・ザ・ストーム(オータム・ステークス3着)と勝てなかっただけに、他厩舎の馬で勝ったのは皮肉なことでした。(ミドル・パークは全馬8ストーン12ポンドだったので騎乗できず)

以上がニューマーケット報告です。このあと英国は来週にアスコットでチャンピオン・シリーズがあり、残るはドンカスターのレーシング・ポスト・トロフィーとニューバリーでのいくつかのG戦を残すのみ。グランド・フィナーレが近付いてきました。

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1件の返信

  1. 株式の購入 より:

    とても魅力的な記事でした!!
    また遊びに来ます!!
    ありがとうございます。。

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