日本フィル・第644回東京定期演奏会
一年の内で今ほど良い気候は何日も無い、という秋の一日、東京赤坂のサントリー・ホールに日本フィルの定期を聴きに行きます。ホール外壁には秋の音楽祭を告げる幟が並び、何処となく華やかな雰囲気に包まれていました。
今回は猛将ラザレフの指揮、プロジェクトとして続けられてきたプロコフィエフ交響曲全曲演奏の最終章です。
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲
~休憩~
プロコフィエフ/交響曲第6番
指揮/アレクサンドル・ラザレフ
ヴァイオリン/川久保賜紀
コンサートマスター/扇谷泰朋
ソロ・チェロ/菊地知也
最後になった第6は、ご存知のように去年の5月に予定されていたもの。残念ながらマエストロが腰痛の手術で入院したために延期されていた経緯があります。それだけにラザレフにもオケにもリヴェンジの気合が感じられました。
その前にチャイコフスキー。当初予定されていたプログラムは確か同じチャイコフスキーの珍しい幻想協奏曲(ピアノ)でしたが、それは予定通り去年演奏され(沼尻/小川)ました。今回は、ホールの周りに巣を掛けている雀でも知っているヴァイオリン協奏曲。横浜定期を聴いた人は、今月は奇しくもメン・チャイを聴けたことになりますね。しかもラザレフのバックで。
言うまでも無く、オーケストラが見事なバックを付けてくれました。ソロは久し振りに聴いた川久保賜紀。現在はベルリン在住だそうで、使用楽器は1779年製のジョバンニ・バティスタ・グァダニーニとか。ドイツに戻る時には楽器を没収されないことを祈ってます。
この伴奏なら演奏はし易かったでしょうね。ルバートをかなり効かせた思い入れタップリのチャイコフスキーで、私の趣味ではやや演歌調にも感じられます。特に第1楽章のカデンツァが濃厚で、私としては随分と長さを感じさせるものになっていました。ラザレフよりもコバケンとの相性が良さそうなチャイコ。
しかし客席の反応は極めて良いもので、アンコールにクライスラーの小品を披露してくれました。(「何とかとアレグロ」という曲のアレグロだけ。一聴して直ぐにクライスラー、と判るピースです)
そしてメインはプロコフィエフ。恐らくラザレフとしては最も紹介したかった作品でしょう。
楽屋話を紹介すると、いつもはリハーサルの時間を1秒たりとも無駄にせず音楽にマエストロですが、今回ばかりはリハ冒頭で作品についての解説を披露した由。内容について知るところではありませんが、かつてのマエストロ・サロンがあったならと悔やまれます。
批評家や音楽ジャーナリストの在り来たりな解説とは全く異なる、演奏家から見た作品像が聞けたでしょうに・・・。土曜日のプレトークは余り期待できないかも。それよりは演奏後に開催されるレセプションで質問してみるのが良いかもね。(残念ながら昨日は所用のため途中退席)
プロコの第6は、古くはアンセルメのLPで、長じてからはムラヴィンスキー/レニングラードのライヴ(FMでオンエアされたプラハやウィーンの音楽祭での録音)で楽しんできました。前半二つの楽章と、第3楽章の楽想のギャップが気になっていたものですが、今回は初めて第6交響曲の神髄に触れた思いです。
冒頭の金管による下降音形、ラザレフは明らかに何かの象徴として把握している様子。このモチーフは第3楽章で微かに再現されますが(練習番号71の2小節前)、そのことに気付いたのも今回が初めてです。
リハーサルも普段以上にハードだったそうで、作品を分解し、楽器毎の分奏で全体を再構築して行く作業の連続。聞いた噂では、ゲネプロでさえ途中で音を止めてアドバイスを連発。本番こそが初めての通し演奏だったとか。
楽員でさえ目から鱗の交響曲、聴き手がビックリするのは当然でしょう。“エッ、こんな音楽だったの。プロコフィエフの交響曲の最高傑作じゃん、何で滅多に演奏されないのォ~”というのが正直な感想でした。いろいろな録音を再チェックしなきゃ!
なお会場では、先日の定期で演奏されたラフマニノフ/交響曲第2番の新盤が先行発売されていました。黙って1枚ゲット、これからゆっくり聴くとしましょう。
金曜日の客席に都内某オケの首席指揮者が。聞く所によると、古参楽員と旧交を温めていたとか。どうやら近々現ポストの契約が切れるらしい。で、次のポストの就活だったそうな。
残念ながらこのマエストロ、日フィルに客演していた時代より遥かにギャラが上がってしまい、今じゃとても無理でしょ。ホール雀たちの噂話でした。