久し振りの一日9レース

2月最初の土曜日、アメリカは4つの競馬場で9鞍のG戦が行われ、久し振りに慌ただしいレポートになります。
思えばケンタッキー・ダービーが3か月後に迫っており、どの競馬場でもダービー、オークスに向けてのトライアルが並びます。今年のケンタッキーはポイント制が導入され、着実に出走権を得るには指定レースに少なくとも2勝することが条件になりそう。その意味でも2月から積極的にトライアル戦を戦う必要があるのです。
ということで、時差の関係上、東海岸から順次取り上げていきましょう。

最初はタンパ・ベイ・ダウンズ競馬場のフロリダ・オークス Florida Oaks (芝GⅢ、3歳牝、8.5ハロン)。1984年に創設され、当初はダート・コースの短距離戦でしたが、2011年に芝コースに変更されると同時にGⅢからリステッドに格下げされていた一戦。2年間のノン・グレードを経て今年から再びGⅢに復帰しましたが、以前とは装いを新たにしての再登場となります。
馬場は firm 、2頭の取り消しがあり10頭立て。芝で2連勝中のタピキャット Tapicat が4対5の断然1番人気に支持されていました。
レースは期待通り先手を取ったタピキャットの逃げ切り勝ち。終始後続に2馬身ほどの差を付ける独走で、ゴールでは2着キッテンズ・ダンプリングス Kitten’s Dumplings に2馬身4分の3差を付けていました。3着は首差でウェーヴ・セオリー Wave Theory 。
ウイリアム・モット厩舎、ジョエル・ロザリオ騎乗のタピキャットは、2歳の10月にベルモントのダートコースでデビューして3着。そのあと12月と今年1月にガルフストリームの芝コースで連勝し、今回が3連勝でのG戦初制覇。モット師の計画では、このあとは4月にキーンランドで行われるアシュランド・ステークス(GⅠ)を使ってクラシック路線に載せたいとのことでした。

タンパ・ベイ、続いても芝コースのG戦で、古馬牝馬のエンデヴァー・ステークス Endeavour S (芝GⅢ、4歳上牝、8.5ハロン)。フル・ゲート12頭に14頭が登録、結局2頭が取り消したため追加登録の2頭が参戦しての12頭立てになりました。1番人気(2対1)はフランス出身のディールバータ Dealbata で、今期のデビュー戦となります。
しかしレースは逃げたオーサム・ベル Awesome Belle を2番手でマークしたオールド・チューン Old Tune が3コーナー手前で内から交わしての楽勝。激戦の2着争いを尻目に、ジョエル・ロザリオ騎手は見せムチの余裕で1馬身4分の3差。勝時計1分39秒30はコース・レコード更新のオマケ付でした。4頭が写真判定となった2着は、首差でアピーリング・キャット Appealing Cat 、同じく首差でラスト・フル・メジャー Last Full Measure が3着の結果。本命ディールバータは10着惨敗に終わりました。
3対1でアメリカ・デビューを制したオールド・チューンは、ブラジルからトッド・プレッチャー師の元に転厩してきた馬で、ブラジルのGⅠ戦に3連勝した去年4月15日以来の休み明け。ここではトップ・ハンデの122ポンドを背負っての楽勝で、アメリカの水が合ったものと見えます。ロザリオ騎手はフロリダ・オークスに続きG戦ダブル達成。

タンパの最後はクラシック・トライアルの一戦、サム・F・デーヴィス・ステークス Sam F. Davis S (GⅢ、3歳、8.5ハロン)。メインコースは fast 、1頭取り消して9頭が出走してきました。1番人気(8対5)はモット厩舎のマイ・ネーム・イズ・マイケル My Name is Michael 。
結果は小波乱。先手を取った7対1のフォーリング・スカイ Falling Sky がまんまの逃げ切り勝ち。直線で同馬を内から捉えようとしたスピーク・ロジスティックス Speak Logistics (結果4着)が前をカットされたようにも見え、セルパ騎手から勝ったホセ・エスピノザ騎手に対し異議申し立てがあり審議。結局異議はは却下され、1着フォーリング・スカイ、2着は首差でダイナミック・スカイ Dynamic Sky 、3着に3馬身差でマイ・ネイム・イズ・マイケルで確定しています。
ジョン・テラノヴァ厩舎のフォーリング・スカイはこれで4戦3勝。ケンタッキー・ダービーの候補に挙がってきましたが、出走権を得るにはもう一つ大きなトライアルに勝たなければなりませんね。

ニューヨーク州に飛んで、アケダクト競馬場のG戦は二鞍、最初は今年120回目を迎える伝統の古馬短距離戦トボガン・ステークス Toboggan S (GⅢ、3歳上、6ハロン)です。fast の馬場に6頭立て、前走1月4日にクレーミング戦に勝ち、トッド・プレッチャー厩舎に転じて初戦を迎えるニューヨークのヴェテラン6歳馬ヨハネスバーグ・スマイル Johannesburg Smile が9対5の1番人気。
スタートで3番人気(5対2)のマイン・オーヴァー・マター Mine Over Matter が出遅れ、ピー・ジェイズ・マジカル・ウインク P J’s Magical Wink が先手を取ります。2番手を追走した2番人気(2対1)のヘッド・ハート・フーフ Head Heart Hoof が直線で逃げ馬を捉えると、内ラチ沿いに鋭く追い込む本命ヨハネスバーグ・スマイルを半馬身抑えて快勝。1馬身半差3着にはサイナイ Sinai が入りました。
ルディー・ロドリゲス厩舎、コーネリオ・ヴェラスケス騎乗のヘッド・ハート・フーフは、1月9日にアケダクトの一般ステークスに勝ち、これが50戦目となる7歳馬。アケダクト・ダートコースの5ハロンのトラックレコード保持者というスピード馬で、G戦は初制覇。ロドリゲス厩舎はサイナイも出走させていましたから、1着3着と効率の良い成果を出したことになります。

続いてはウィザーズ・ステークス Withers S (GⅢ、3歳、8.5ハロン)。ニューヨーク最大のダービー・トライアルは4月のウッド・メモリアル・ステークスですが、今年はそこに向けてのホップ・ステップ・ジャンプが改めて整備されました。即ち1月のジェローム・ステークス(GⅡ)、2月にはウィザース、そして3月のガッサム・ステークス(GⅢ)がそれ。三段跳びの第2弾に当たるウィザースには8頭が出走し、ダービー候補目白押しのプレッチャー厩舎の期待馬レヴォリューショナリー Revolutionary が3対4の1番人気。未だ1勝馬で、やや期待先行の本命馬ではあります。
カップリングされた1A枠スタートのヴァリッド Valid がスタートでバランスを崩しあわや落馬。アルヴァラド騎手が必死にこらえ、何とか鐙を戻して流れに加わります。隣の2番枠から出た本命レヴォリューショナリーは多少の影響を受けたかスタート・ダッシュ鈍く、向正面ではヴァリッドにも交わされて最後方の内ラチ沿いを進む展開。先行したエスケイプフロムリアリティー Escapefromrelity とシエテ・デ・オロス Siete de Oros の勝負かと思われた時、馬群を縫うように追い上げたレヴォリューショナリーが信じられないような瞬発力で2頭の間から抜け、エスケイプフロムリアリティーを首差差し切って優勝。1馬身4分の3差でシエテ・デ・オロスが3着に入りました。
ハヴィエル・カステラノの冷静な判断で間隙を縫ったレヴォリューショナリーは、前走4戦目で未勝利を脱したばかり。それまでの3戦は、今回のレース内容と同じようにスタートからダッシュが付かず苦戦を強いられたもの。まだまだ学ぶべき点の多い若駒と言えるでしょうが、能力の高さは疑いない所。トッド・プレッチャー厩舎の多彩なダービー候補から抜け出すかに注目が集まるでしょう。

南国フロリダ、ガルフストリーム・パーク競馬場のクラシック・トライアルはハッチェソン・ステークス Hutcheson S (GⅡ、3歳、7ハロン)。fast の馬場に2頭が取り消しての8頭立て。去年サンダー・モッカシン Thunder Moccasin でこのレースを制したプレッチャー厩舎の2戦2勝馬フォーティー・テイルズ Forty Tales が9対5の1番人気。
レースはシングアナザーソング Singanothersong の逃げで始まり、2番手を追走したアンドラフテッド Undrafted が抜け出した所に4番手でマークした2番人気(5対2)のオノラブル・ディロン Honorable Dilon が襲い掛かって2頭の叩き合い。オノラブル・ディロンが抜け出した所に大外から本命フォーティー・テイルズが追い込みましたが半馬身届かず。それでも粘る3着アンドラフテッドにはハナ差先着していました。
これで4戦2勝、ステークス初勝利を飾ったオノラブル・ディロンはエディー・ケナリー厩舎、ジョセフ・ロッコ騎乗。去年8月にサラトガで初勝利を記録した馬で、久々の前走は1番人気になりながらシングアナザーソングの2着していた馬。ダービーに出走するにはポイント・レースをもう一鞍制する必要があるでしょう。

西海岸のサンタ・アニタ競馬場は、クラシック・トライアルのロバート・B・ルイス・ステークス Robert B. Lewis S (GⅡ、3歳、8.5ハロン)から。fast の馬場、出走馬は僅かに4頭と寂しい競馬になってしまいましたが、新たなスターの誕生です。
1対2の圧倒的1番人気に支持されたフラッシュバック Flashback はデビュー戦に勝ったばかりの2戦目ですが、堂々の逃げ切り勝ち。2着デンズ・レガシー Den’s Legacy に6馬身4分の1の大差を付ける圧勝で見事期待に応えました。3着は半馬身差でヒーズ・ハッド・イナフ He’s Had Enough 。ボブ・バファート師のワン・ツー・フィニッシュでもあります。
ジュリアン・ルパルー騎乗、肩に一発気合のムチを入れただけで独走したフラッシュバックは、GⅠ2勝の牝馬ザズー Zazu の全弟という良血。このレースは去年アイル・ハヴ・アナザー I’ll Have Another が制してダービー馬になった縁起の良い一戦だけに、更に注目度が増そうというもの。西海岸のエースに躍り出た芦毛馬に注目しましょう。

この日のGⅡ戦3連発、第2弾は4歳限定のストラブ・ステークス Strub S (GⅡ、4歳、9ハロン)。もちろんストラブ・シリーズの総決算でもあります。第2弾サン・フェルナンド・ステークスを制したフェド・ビズ Fed Biz と、同じバファート厩舎で同レースで鋭く3着に追い込んだギルト・トリップ Guilt Trip がほぼ同じ2対1で並び、僅かの差でギルト・トリップが1番人気を集めています。
レースは内のトライタップ Tritap と外のハンサム・マイク Handsome Mike が並んで先行する流れ。3番手をフェド・ビズが、4番手をギルト・トリップが追走します。直線、4頭の外を回って伸びたのは本命ギルト・トリップ、後方から追い込むステファノートシー Stephanoatsee を1馬身半抑えての快勝です。4分の3馬身差でフェド・ビズが3着、今回はバファート師は1・3着という結果でした。
ところで一つ前のロバート・ルイスに勝ったフラッシュバックは、ギルト・トリップと同じゲーリー&メアリー・ウエスト夫妻の持ち馬。同じ勝負服のG戦ダブルに陣営も大きな盛り上がりを見せていました。こちらはジョセフ・タラモ騎乗。
バファート師に4度目のストラブ優勝をプレゼントしたギルト・トリップは、以前ニューヨークでチャド・ブラウン師が管理していた馬。マリブー5着、サン・フェルナンド3着と距離が延びるに従って着順を上げ、遂にステークス初勝利で3連敗に終止符を打ちました。次はサンタ・アニタ・ハンデが目標でしょうが、バファート陣営にはゲーム・オン・デュード Game On Dude が控えています。バファート師の決断が見所でしょう。

土曜日のレポート、最後は芝のマイル戦アルカディア・ステークス Arcadia S (芝GⅡ、3歳上、8ハロン)。firm の馬場に1頭が取り消しましたが、それでも13頭立てという大混戦。人気も割れて4対1で2頭、僅かの差で日本産種馬サイレントネーム Silent Name 産駒のシレンティオ Silentio が1番人気。同じオッズでアルゼンチン産馬サジェスティヴ・ボーイ Suggestive Boy が続きます。他にもヨーロッパのG戦に勝っているヴァガボンド・シューズ Vagabond Shoes 、ストロング・スート Strong Suit も参戦して興味津々のメンバー。
多頭数とあってチョーズン・ミラクル Chosen Miracle がハイペースで飛ばし、人気のシレンティオは3番手。如何にも不利な外13番枠からスタートしたサジェスティヴ・ボーイは5~6番手に付け、直線では1頭だけ抜けたような末脚を発揮してウィルキンソン Wilkinson に2馬身半差を付ける快勝。レース前の混戦という評判を覆し、終わって見れば圧勝の結果に終わりました。混戦の3着は半馬身差でシレンティオ。同馬は道中荒れた馬場に脚を取られる不利がありましたが、それで3着は好走、幸い馬に故障は無かった由。
ロナルド・マッカナリー師が管理するサジェスティヴ・ボーイは、生産されたアルゼンチンでGⅠに4勝している強豪5歳馬。アメリカでのデビューとなったシューメーカー・マイルで2着、そのあと一般ステークスに勝ち、BCマイルでは年度代表馬となったワイズ・ダン Wise Dan から6馬身差の7着。スタートで後手を踏んでの無理なレースが敗因でしたから、マトモならもっと好勝負が出来たはず。次走はサンタ・アニタ・ハンデと同じ日に行われるフランク・E・キルロー・マイル(GⅠ)でアメリカでのGⅠ制覇を目指します。ところでこのレースにはバファート厩舎からの出走馬はありませんでしたが、サジェスティヴ・ボーイに騎乗したのはジョセフ・タラモ、今度はジョッキーがストラブに続きGⅡダブル達成となりました。

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